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ラブコメじゃねえ、ラブラブだっ! 『ばけらの!』
ばけらの!(杉井光)

作家自らが登場する小説なんて、ただの楽屋オチで、駄作に決まっている。まして現役の作家をモデルにしたキャラクターが何人も出てくるなんて……と思ったあなたは人生を損していると断言してしまっていいだろう。少なくとも『狼と香辛料』を読んで、「ホロ可愛いよ、ホロ」と床をゴロゴロ転がった人なら、本書も断固オススメする。
遠回しな言い方を好むホロとロレンスのウィットの効いた大人な会話と違い、杉井ヒカル(杉井光)と葉隠イヅナ(支倉凍砂)の会話はダメダメのラブラブである。原稿を書かずに、株とネトゲとパチンコにハマっているイヅナは賢狼の対極、典型的な駄目人間(狼)。だがそこが可愛い。
いっしょに「にゅふぅ」と畳の上にぺったり伏せたい。にゅふぅ。
だってもう疲れた・・・・。
はっ!
いけない、いけない。
ワガママ言い放題のイヅナと甲斐甲斐しく飯を作ってやるヒカル。ふたりの肩の力の抜けたやりとりが心地よい。『NHKにようこそ』のようなシリアスさは無く、ぬるま湯の仲でただひたすらに時が過ぎていく。自分の中の駄目な隙間に何かがするりと入り込んで、ゆるっと居座っていくような感覚。
個性的な作家仲間は他にもいる。生きたグールで底なしの大食らいの風姫屍鬼、座敷童でパチンコの天才、大家でラブコメ作家な神無月つばさ、女遊びに夢中で日本語が意味不明なエムさん、リア充にあこがれる吸血鬼の男爵ウーノなど、ヒカル以外は人外ばかりが揃っている。恐るべき○○文庫!
こんな作家たちの巻き起こすドタバタな日常は、作家ネタを抜きにしても面白い。1話ごとにきちんとオチがついていて、楽屋オチで締めてないのも好感がもてる。特に第4話は思わぬマジ話で、オチも奇麗にまとまっているし、予想外に本気で直球なラブコメに仕上がっている。イヅナとヒカル、この二人、マジにラブラブである。読んでて恥ずかしくなり、電車でニヤニヤをこらえるのに必死だった。
実在の作家をモデルにしてるだけあり、作家という人種の生態が生き生きと駄目な感じにデフォルメ(?)されている。原稿から逃げ、生活サイクルは乱れ、原稿から逃げ、麻雀や株やネトゲーにはまり、原稿から逃げ、……。締切りに追われ続けるのは小説家モノの基本で(浅田次郎『プリズンホテル』シリーズなど)、逃げ続けた挙句の果てに、彼が最後に小説に戻ってくるのもやはり宿命なのだ。
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作家自らが登場する小説なんて、ただの楽屋オチで、駄作に決まっている。まして現役の作家をモデルにしたキャラクターが何人も出てくるなんて……と思ったあなたは人生を損していると断言してしまっていいだろう。少なくとも『狼と香辛料』を読んで、「ホロ可愛いよ、ホロ」と床をゴロゴロ転がった人なら、本書も断固オススメする。
遠回しな言い方を好むホロとロレンスのウィットの効いた大人な会話と違い、杉井ヒカル(杉井光)と葉隠イヅナ(支倉凍砂)の会話はダメダメのラブラブである。原稿を書かずに、株とネトゲとパチンコにハマっているイヅナは賢狼の対極、典型的な駄目人間(狼)。だがそこが可愛い。
「ヒカル、なあなあヒカル、麻雀行こうよお、もう仕事したくないよ」この9ページ目のイヅナの負け萌えっぷりは異常。
僕がうんうんうなりながら原稿の手直しをしている月曜日の昼下がり、イヅナはいつものように部屋に勝手に入ってきて、僕の背中をつんつん突きながら言った。
「おまえ、今日何枚書いたの?」と僕は液晶画面をにらんだまま訊いてみる。
「大豆も小麦も何枚か買ったそばから下がっててもうげんなり」
「先物取引の話はしてねえ。だいたいおまえ五月刊だろが。しめきり何回延ばしてもらったと思ってんだよ。仕事しろ仕事」
「羊の毛を刈る仕事ならしてるよ?」
「ネトゲやってる場合か!」
(略)
「ヒカルが俺のことフェレット扱いしてるとは思わなかった! 俺ぁ最後の狼として、絶滅寸前の同胞のために必死で本出してるのに!」
「じゃあ原稿書けよ」
「にゅふぅ」
イヅナはいきなり座布団を投げ出して、喧嘩に負けた犬みたいなかっこうで畳の上にぺったりと伏せた。ぴんと立っていた耳も、ふさふさ動き回っていた尻尾も垂れてしまう。
「だってもう疲れた」
いっしょに「にゅふぅ」と畳の上にぺったり伏せたい。にゅふぅ。
だってもう疲れた・・・・。
はっ!
いけない、いけない。
ワガママ言い放題のイヅナと甲斐甲斐しく飯を作ってやるヒカル。ふたりの肩の力の抜けたやりとりが心地よい。『NHKにようこそ』のようなシリアスさは無く、ぬるま湯の仲でただひたすらに時が過ぎていく。自分の中の駄目な隙間に何かがするりと入り込んで、ゆるっと居座っていくような感覚。
個性的な作家仲間は他にもいる。生きたグールで底なしの大食らいの風姫屍鬼、座敷童でパチンコの天才、大家でラブコメ作家な神無月つばさ、女遊びに夢中で日本語が意味不明なエムさん、リア充にあこがれる吸血鬼の男爵ウーノなど、ヒカル以外は人外ばかりが揃っている。恐るべき○○文庫!
こんな作家たちの巻き起こすドタバタな日常は、作家ネタを抜きにしても面白い。1話ごとにきちんとオチがついていて、楽屋オチで締めてないのも好感がもてる。特に第4話は思わぬマジ話で、オチも奇麗にまとまっているし、予想外に本気で直球なラブコメに仕上がっている。イヅナとヒカル、この二人、マジにラブラブである。読んでて恥ずかしくなり、電車でニヤニヤをこらえるのに必死だった。
実在の作家をモデルにしてるだけあり、作家という人種の生態が生き生きと駄目な感じにデフォルメ(?)されている。原稿から逃げ、生活サイクルは乱れ、原稿から逃げ、麻雀や株やネトゲーにはまり、原稿から逃げ、……。締切りに追われ続けるのは小説家モノの基本で(浅田次郎『プリズンホテル』シリーズなど)、逃げ続けた挙句の果てに、彼が最後に小説に戻ってくるのもやはり宿命なのだ。
「お、おまえ、ばかじゃないのか? そ、そんなのっ」
「ばかだから、小説家になったんだ。他に、なんにもできないから」
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