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グインサーガは人生 『グインサーガ 122 豹頭王の苦悩』

グインサーガ 122 豹頭王の苦悩 (栗本 薫
豹頭王の苦悩 (ハヤカワ文庫 JA ク 1-122 グイン・サーガ 122)
苦悩というほど苦悩してない気がするのは、僕の気のせいでしょうか?
ギャルゲーの主人公なら、ここまでヘタレなら、女の子に刺されてそうな気がしますが、希代の英雄、豪傑、伝説の豹頭王にとっては、「あの大英雄にも弱点があったんだなあ」程度で済んでしまうのです。

『グインサーガ』という長大な物語がある。
全百巻を掲げて始まり、おそらく誰もが無謀だと思っていたにも関わらず、ついに今年で30年目。当初の100巻を越えて、本編122巻、外伝22巻、ハンドブック3巻という長大さであり、いまだ完結の見込みがまったく無いどころか、200巻でも終わるのかどうか予断を許さない、もはや狂気というレベルを通り越えた歴史的なファンタジー小説である。

ネット上には「○○は人生」という言葉(ネタ)があるが、物量的な意味でも、期間的な意味でも、グインサーガは人生と言わざるを得ない。第1巻を買ったのが中学生の頃で、その時点で33巻『モンゴールの復活』が出ていたが、まさか100巻掛かっても終わらないとは到底想像もしていなかった。

少なく見積もってもあと10年。普通に考えれば、あと20年は掛かるわけで、開始から完結まで半世紀、本当に人ひとりの人生に匹敵する長さだ。最近は作者の健康状態も心配されているが、読者の中には完結を読むことなく、この世を去る方も結構おられるかもしれない。

そこまでの長さでありながら、新刊が出れば、売上トップ10にひょっこり顔を出すのだから、数万、いや10万人以上はこの物語を読み続けているのだろうし、僕のように途中でいったん小休止を挟んで、それから再開する人もいるだろう。先日アニメ化のニュースを知って、96巻『豹頭王の行方』から再開し、ついに最新巻まで追いついた。


この巻はグインサーガ全体の中でもランドマークの1つになる話だし、英雄の弱点を描いた点でも重要なエピソードだが、グインの人間性の低さをあらためて露呈してしまった。作者自ら、あとがきで「結局この人って女ごころってものは全然わかってない奴なんだなあ、と思ってしまうんですけれどもねえ」と書いているとおりで、人間的にあまりに成長してないので、ちょっと失望してしまった。

グインサーガはその驚くべき巻数の割に、かなりの数の伏線がきちんと回収されている。しかし100巻で終わる物語が120巻を越えて、まったく終わりそうにない事からも、「破綻」した部分を多く抱えてしまったのは誰の目にも明らかだろう。むろん全体の終わり方は、作者の頭の中にずっとあるのだろうし、最終巻のタイトルが『豹頭王の花嫁』になることも大昔に告知されている。

「破綻」した理由は大きく2つあるのだろう。
多くのファンは承知しているとおり、栗本薫という作家はしばしば劇中のキャラクターに思い入れ過ぎてしまい、途中で脱線しすぎる傾向がある。30巻まではまだ良かったが、それ以後はナリス×ヴァレリウス、イシュトヴァーン×アリストートス×カメロンといったあれやこれやに膨大な巻数を費やして、物語の進行が滞ってしまった。

もう1つはグインをあまりに完璧すぎるキャラクターにしてしまった点だ。
死霊の巣くう闇深いルードの森で目をさました豹頭の戦士グインは、記憶を失った状態にも関わらず、超人的な肉体と知性によってさまざまな知識や技術を吸収していき、英雄として活躍していく。完璧すぎる英雄の彼は、しかし人間的な弱さがあまりにも少なく、非人間的だ。

彼を自分の掌中に収めようと企んだ闇の司祭グラチウスは、29巻『闇の司祭』において、その点を見事に指摘している。グラチウスの仕掛けたさまざまな誘惑に耐えたことにより、グインは図らずも、誘惑に動揺するほど心が育っていない事を露呈してしまう。闇の司祭はこう予言する。仙人のように人の世から遠ざかって生きるならともかく、人の世に深く交わっていく以上、グインはいずれ人の弱さを抱え込むことになるだろう、と。

かつてアルド・ナリスはグイン=ロボット説を口にしていたが、そう思われても仕方のない程に彼は冷静で、完璧すぎる。グインは女子供を大切にするが、いっぽうで女の姿に化けて彼を惑わす妖魔の類を躊躇せず斬り伏せる。好きな女性に臆病な態度を見せるものの、色仕掛けにうぶな弱さを見せることもほとんど無い。
「いや、そんなことじゃないの。あのとき、あたしには、わかってしまったのよ」
「な――何が」
「あんたは……あたしの姿と、あたしの声と……あたしのうつし身とをもつ魔物に、ためらいなく剣が振り下ろせる男なんだということがよ」
 かわいた、そしてとことん冷たい声でシルヴィアは云った。その声には、いちるの情も、そしてもうすでに苦しみさえもこもってはいなかった。シルヴィアの目も、かわきはててまるで石のように凍っていた。
「たとえ、本当に魔物であったとしたって――あたしなら出来ない。あたしなら、かりそめにも愛する人の顔とすがたをした相手に……剣を振り下ろして、その相手を一刀両断することなんか……出来ない。出来ないわ。――そのとき、あたしにはわかったんだ。ああ、この男にとっては、あたしの顔とすがたとうつし身とをもつ相手でも、それが魔物だと思えばためらわずに斬り殺すことが出来るんだ。それが、あたしが信じ、あたしが良人に選んだ相手だったんだ、ということが」
敵である魔道師と愛した妻との違いはあれど、本質的には同じ問題を指摘されているわけで、29巻から122巻までの93冊もの間、全然成長してないのか、と言いたくなる。29巻当時、グラチウスの言葉を聞き流した彼は、122巻においても、妻の悲痛な叫びをほとんど理解できない。彼は親友ハゾスに対して、おのれの妻を四、五歳の幼児のような華奢な心の持ち主と評すが、その言葉はそっくり彼に返ってくる。

ここまで成長しない主人公も、ある意味、貴重かもしれない。彼はあまりに完璧に描かれすぎた。
しかしこれから彼は成長するはずだ。119巻『ランドックの刻印』でヨナが予言したとおりに、物語が進むのであれば。

「英雄」とは運命の操り人形に過ぎないのかもしれない。グインは「ヤーンの導き」という言葉と共に、あまりにも冷静に物事を受け入れ、落ち着いた判断を下しすぎている。かつてノスフェラスで、グインは策略によってモンゴール軍数千人を焼き殺す。モンゴール軍を欺いたイシュトヴァーンは、その後何度も、焼き殺した罪に苛まれつづけ、夜中に悪夢にうなされて飛び起きる。しかしグインは数千人を焼き殺した計略を「助かるためには仕方なかった」と、あっさり受けいれ、ほとんど忘れてしまう。イシュトヴァーンが「ずるい」と言うのも無理はない。

しかし人の心や弱さを持つ者であれば、そのような運命の導き手である事に耐え続けるのは難しい。自分が自分であるために、英雄はいずれ自分を導き、操る「運命」と対峙する。それは人の弱さを手に入れ、堕ちるという事だ。多くの英雄がその後半生において、人間的な苦しみを獲得していった。グインもまた例外ではないのだろう。

おそらくヤーンの体現者としてのグインは、いずれ運命神の操り人形である事に反抗するのだろう。つまりこれからどんどん弱くなり、人として成長していくのだ。キャラクター(特に男性キャラクター)に寵愛を注ぎすぎる作者も、ようやく覚悟を決めて、グインが人の弱さを獲得していく過程を本格的に書き始めたようだ。そうはいっても、タイス編のような脱線はまだまだ、まだまだあるのだろう。ナリスの運命が決するまで、いったいどれだけ掛かったかを考えれば。


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コメント

懐かしい。

40巻くらいまでリアルタイムに付き合ってました。
でももう読む事はないだろうなあ。あまりに空白時間が長すぎた。
正直ペリーローダンシリーズとあんまり変わらないレベルで
乗り越えられなそうな壁感を感じます。

振り返ると吸血鬼ハンターとか火浦功とかライトノベル前夜を生きたような気がする世代ですが、
今のライトノベルの売り場はなんとなく近寄りがたく、
おっかけ続けているDAKINIさんを眩しく感じるときがあります。

そういえばアルスラーン戦記はどうなったんだろうなあ。

>ワタナベさん さん
40巻はまだギリギリ面白かった頃ですね。
最近では『グイン後伝』(Jr.世代の物語)の布石なのか、と思われるような出来事もあるのですが、その前に本編を完結させてくれよ、と。

途中でプロットを公開して、他の作家が引き継げるようにしてくれればねえ・・・・。
あの文体を引き継げる作家はおらんかなあ・・・・・。

ちょっと遅れましたが、ワタナベさんに耳寄りな情報を。
アルスラーン戦記の新刊が、今月(9月)発売予定のようです。例によって、ずれる可能性もあるでしょうが、今回原稿はすでにあがってるらしいので、おそらく大丈夫なのではないか。大丈夫でしょう。大丈夫だといいなぁ。

と、これだけじゃエントリー違いなので、グイン・サーガについても少々。
ぶっちゃけると、学生時代に一度チャレンジして、即効リタイアしましたorz
当時は、田中芳樹や神坂一あたりからラノベに入門し、大げさに言えば手当たり次第に読んでたんですが、それゆえにすでに大長編となっていたグイン・サーガに割く時間を作れなかったんですよねぇ。
というのは言い訳で、どうも個人的に栗本薫の文章なのか作風なのか、自分でもよくわかりませんがあまり合わなかったというのが、本当の理由ですね。確か、本編を15巻ほどと外伝を2冊ほどで限界に達しちゃいました。
アニメは見るつもりですが、それを機に再チャレンジするには・・・ハードルが高すぎるなぁ(苦笑)。

グインサーガは、実は第1巻当初から読み続けているので、たとえ面白くないと思っても、もう途中でやめられない惰性の極地みたいになっておりました。
しかし、ようやく動きが出てき始めて、また身を入れて読めるようになってきたのは、DAKINIさんと同じ感覚です。
30年近く前、ヒロイックファンタジーそのものを、日本の作家が書き始めるのだと妙に高揚した想いで購入してから、紆余曲折はありましたが、主人公のこれほど成長しない物語は無いというのは、本当に実感します。
誘拐されるまでのシルヴィアが一番好きなので、救出されてからの彼女は痛々しいまでですが、それでもその変化はその身の丈に合っていると思うのに、グインと来たら……。
でも、少しずつ変わって行って欲しいものだと思います。
「きちんと完結する日が来るといいな」というただ1点のみが、今は心配です。

>Inai さん
シルヴィアはホント、愛されてないというか(涙

栗本薫は女性キャラに冷たいですよね。愛がほとんど無いし・・・・。
アムネリスとか、出るたびにキャラが変わってたしなあ・・・・。

>小林悠士さん
ご返信が遅れて申し訳ないです。良い情報ありがとうございました。
アルスラーン戦記はどうやら完結を迎えられそうですね(^_^

古い記事に恐縮ですが、最新記事よりもこちらの方が最適だろうという事で書き込まさせていただきます。
昨日、栗本薫女史がお亡くなりになられたそうです。
グインサーガの未完が、本当に残念です。

>Inai さん
ついさっき
ネットでその情報を見ました

mixiでの旦那様の書き込みも見ました

信じたくない

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