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4年半ぶりの最終巻 『ダブルブリッド 10』

ダブルブリッド 10中村 恵里加

長かった。
9巻が出てから、4年半。読者はひたすら待ち続け、ついに永遠に発売されない事さえ覚悟していた。

それほどの時間、待ち続けた方もすごいが、待たれ続けていた方もどんな心境だったのだろうか。著者近況の「ここ数年、死んではいないけど生きてもいない生き方をしていました」という言葉が重い。

ここ数年、作者の心境がどうだったか。それは想像するほか無い。しかし大変だったのは何となくわかる気がする。読者のだれもがこの作品の続きを待ち望みつつ、一方で「遅筆」を攻めなかった理由もそこにある。

主人公の片倉優樹をとりまく状況は、それだけ絶望的だった。アヤカシと人の合いの子として生まれ、アヤカシを逮捕する警察の部隊を率いながらも、人に恐れられ、忌み嫌われてきた。アヤカシに好かれても、孤独感は消えない。愚直なまでの体育会系の警官、山崎太一朗が彼女と出会ったとき、物語は動き出した。

人と人ならざる者の邂逅。ライトノベルでは多いパターンであり、なるほど、二人は色々な葛藤を抱えながらも、やがては結ばれていくのだろう。それがギャルゲーイズムというものだ。しかし『ダブルブリッド』はそんなささやかな幸福感を粉砕してしまった。1巻の時点で終わっていれば、あるいは……。

作者はその先を書き続け、物語はより凄惨な未来に続いていく。

片倉優樹は幸福だった頃の記憶を失い、”童子斬り”に取り憑かれた山崎太一朗は優樹を殴り殺そうと襲ってくる。優樹の大切な仲間のアヤカシを殺し、殴り、打ち倒し、優樹をその手で服従させ、殴って殴って殴り殺すために。

一線を越えてしまった。そう感じた読者は多かっただろう。この2人、人と人ならざる者が恋人として愛し合い、共に生き続ける未来は無くなった。そんな欺瞞なエンディングを作者は明確に拒否したのだと、誰もが感じた。一方で、作者は「私自身にとっては紛れもないハッピーエンドにする予定」と宣言していた。この言い回し、あまりに微妙だ。万人が認めるハッピーエンドは無いという意味だからだ。

ゆえに物語が中断し、1年が経ち、2年が経つうちに、少なくない読者が完結しないとあきらめただろう。続きが出ないと覚悟しただろう。つまり「そんな幸福など無い」という、作者からのメッセージなのだろうと、受け取ったのだ。書けない事が答えなのだと。

しかし作者は書いた。「死んではいないけど生きてもいない生き方」を経て。それは9巻の時点の片倉優樹や、山崎太一朗と同じ状態だ。彼らの物語がどう終わるのか。それはぜひ自分の目で確かめてほしいが、中村恵里加はもしかすると、もう2度と書かないのかもしれない。そんな不安に襲われる。実際、『ソウル・アンダーテイカー』から3年もの間、小説を1冊も書いていなかった。この1冊を残して、去るのではないか。イヤだ。だが。だが、もしそのつもりなら、笑って見送るのが読者の側の心意気なのかもしれない。

これは、どうにもならないことを真正面から描いた物語である。多くのジュブナイルは「どうもならないこと」をわかりやすい記号に置き換えて描こうとするけれど、この作品はどうにもならない事をどうにもならないまま描ききり、最後に笑顔で締めくくった。みんながどう感じるかはわからないけど、笑顔でページを閉じられたら、とても、いいよね、うん。


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コメント

面倒見が良い・のか?

この作者もそうですが、(おそらく編集部的に取扱に困っていた)「E・G・コンバット」他の
秋山瑞人氏も捲土重来させましたし、電撃編集部はその辺り親切丁寧なようで?

>上野パンダ さん
面倒見がいいとは思いますが、それ以前にまず、その作家に待つだけの価値がある、いずれもっと花を開かせてやる、と思わせるだけの何かがあるからですよね。
誰にでも、面倒見がいいわけではありませんし。

一般的なラノベから見ると手放しのハッピーエンドとは呼べないだろうけども、ダブルブリッドという全10冊からなる「ちとほねとにくのものがたり」としてはこれ以上無いくらいの、綺麗な終わり方でした。
もう続きが望めないのだから存在自体を忘れてしまった方がいいと判断して故意に忘却していたタイトルの1つだったんですが、それがこれだけ綺麗に終わってくれるとは。
最後に9巻を読んでから4年以上経っているのに、読み進めるうちにあれこれと断片的に記憶がよみがえってくる感覚は、やはり好きだったシリーズ特有の物ですね。

ただ、これはやはり奇跡みたいな物なんだろうなぁ、という諦念も相変わらずあるんですよね。
「パンドラの最大の罪は、箱の底に希望を見つけてしまった事。これが人を惑わせる」とエリア88辺りで言っていたような気もしますが、なんとなくその気分がわかってしまったような昨今です。
E.G.コンバット、なんとかして終わらせてくれないかなぁ。秋山瑞人の新しいのも面白い事は面白いんだけど。

>鹿毛 さん
> ちとほねとにくのものがたり
綺麗ですね。
あの悲惨な話をこれだけ綺麗に書けるのは、やはり才能ですよね。優樹のサバサバした性格がひさしぶりに読めて、うれしかったな。惚れ直しました。

> ただ、これはやはり奇跡みたいな物なんだろうなぁ
E.G.コンバットは・・・・。
完結してないけど、面白いから読め、といえる数少ない作品の1つではあります。

秋山作品でちゃんと終わったのって、『イリヤ』は別格として、犬と猫ぐらいですよね。
ミナミノミナミノも2巻が出ないままですし。ま、イリヤクローンだから、本人のやる気もないのかもしれませんが。『ネオランガ』が何故か浮かぶんですよね、あの絵は。

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