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MGSファン必読 『虐殺器官』

虐殺器官伊藤 計劃

『MGS4』のノベライズを手がける伊藤計劃の処女作。MGSシリーズのファンなら、おそらくこの本も面白いと感じるはず。

本書はMGS同様にやや近未来の軍事SFだ。現代のテクノロジーより一歩進んだ兵器や技術が登場し、現代の戦争観をやや突き詰めた感じのテーマが提示されている。小島監督がコラボレーションの相手として選んだのもうなずける。同志といって差し支えないほどの近似っぷりである。

明確に違うのは、設定が構築された年代だ。MGSが80年代的戦争観に基づいており、ある種のレトロさを定番的なテーマとしているのに対し、『虐殺器官』は2000年以後、正確には911以後の戦争観を前提にしていることだ。

80年代の戦争観は冷戦、スパイによる諜報戦、核兵器、軍事ロボットといった、ケレン味のあるわかりやすい構図とギミックであり、MGSシリーズの世界観は基本的にそこに根ざしている。ゆえに良い意味でのB級的な超人たち(敵はやっぱり四天王や5人衆だよね)が登場するし、派手な立ち回りも欠かせない。

90年代は人工衛星、空爆、ステルス戦闘機、高性能なミサイル、インターネットといったギミックがゲーム感覚的に統合された戦争観であり、やや現実感をうしなった描き方が多い。そして2000年代の最大のテーマはテロである。冲方丁の『オイレンシュピーゲル』『スプライトシュピーゲル』がそうであるように、この『虐殺器官』も、リアリティのある物語として、同じテーマを共有している。

911は米国に新しい時代の到来を告げ、イラク戦争は米軍があたらしい時代の戦争に適応しきれていない事を示した。本書の提示する未来は、テロ戦争に過剰な適応をした米国の姿である。

サラエボが手製の核爆弾によって消滅し、テロ抑止のための政策が徹底された時代。先進資本主義国は個人情報認証による厳格な管理体制を構築し、社会からテロを一掃していた。その一方、更新諸国では内戦や虐殺が異常なまでに増加していた。

アメリカ情報軍・特殊検索群i分遣隊のクラヴィス・シェパード大尉は、虐殺の裏にいる1人の人物、ジョン・ポールを追跡する。徐々に明らかになるジョン・ポールの目的と、大量殺戮を引き起こす「虐殺の器官」の謎。

グロテスクな進化をとげた世界とそこに最適化した主人公は、常に読者に奇妙な違和感を与えつづける。しかし一方で、それがまぎれもなく、将来あり得る我々である事も実感するのだ。その意味で、本書は生々しくない質感を生々しく伝える上質なSFである。

前述したように、80年代的な戦争観を受けつぐMGSシリーズは良くも悪くも、ある種のクラシックさを備えている。エンターテインメントとしての安定した面白さもそこにあるのだが、SF的な妙味、読者の世界観をゆさぶる感覚はうすいといわざるを得ない。

本書は2000年代に書かれた軍事諜報SFとして、新鮮な質感をたもっており、読者に軽い揺さぶりを加えてくる。難点をいえば、ケレン味が弱く、興奮感は非常にうすい。小島作品や冲方丁作品のような「熱さ」を求める人には、不満が残るかもしれない。

生と死に対する、現実感の希薄さが主人公のクラヴィスの特徴だが、エンタメ作品として見ると、ややもったいない。そういう意味では、『MGS4』のノベライズ執筆を経て、作者がどのような成長をとげるか楽しみでならない。


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コメント

いつも楽しく拝見しています。

これは元々著者のサイトで公開していた「スナッチャー」の
同人小説を大幅に書き直したもの(原形留めてない…はず。かろうじてプロローグは原型のまんま)なんですよねぇ。最初読んだときはびっくりしました。

読後の感想は、熱さを狙うより、閉塞的でなんとも言えないもの悲しさを狙ったのはないかなと思う一読者。

>wibers さん
> 元々著者のサイトで公開していた「スナッチャー」の同人小説を大幅に書き直したもの

おっと、そうだったんですね。
福音の少年みたいな話だったのか・・・・。
同人小説、侮りがたし。

> 閉塞的でなんとも言えないもの悲しさを狙った
あ、もちろん、それを狙って書いたのだと思いますが、娯楽小説として読むと、ちと弱いなーと感じたのです。後味も微妙に悪いですし。

>DANKINIさん
>後味も微妙に悪いですし。
後味の悪さはどうにもなりませんね。とはいえ、後味の悪さよりも「マジかよ!!」という
驚きが大きかったですね、私は。

あと追記で、
>生と死に対する、現実感の希薄さが主人公のクラヴィスの特徴だが
これは作者の生死観がかなり大きいかと。本人がブログで明かしてますので、
言ってしまいますが、癌なんですね作者(しかも足を切断している様子…)。入院しているときに更新したブログは、闘病の生々しさがあったりなかったり。

> wibers さん
うぉ、そうだったんですか・・・・。
それは確かに・・・・。作品の虚無性はそこに根ざしているんですね。

伊藤 計劃さん

お亡くなりになったそうです。

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