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作家を裏切る読者と、読者を裏切る作家 『文学少女と神に臨む作家・上』

文学少女と神に臨む作家・上野村 美月

文学少女をヒロインとし、書けなくなった作家を主人公とする、希有な題材のライトノベルも7巻目。多数の名作を引用しつつ、うんちくを語るだけでなく、各巻の内容が文学作品の内容に呼応している、という挑戦的な試みは、多くの本好きのあいだで話題になった。

井上心葉と天野遠子の物語も、はや最終章に入った。
天野遠子。本を食べちゃうほど大好きな、妖怪ならぬ”文学少女”。わたしのおやつを書いて、と部活のたびに三題噺を要求するワガママな先輩。意地っ張りで、ドジだけど、いつもニコニコしている。

作家デビューしたことで大切な幼なじみを失った井上心葉は、小説を書くのをやめていた。たかが三題噺とはいえ、1人の読者のために物語を書き与えることは、彼にとってリハビリのような行為だった。

癒しのような2年間。井上心葉は天野遠子のただ1人の作家であり、天野遠子は井上心葉のただ1人の読者であり続けた。それはもっとも完成された、調和の取れた関係だった。

まどろみのような、あたたかな時間。心葉は再び立ち上がり、徐々に強くなった。気がつけば、芥川や琴吹といった支えてくれる友人もいた。そして彼は過去の傷――美羽とも対峙した。もはや彼は完全に立ち直ったかに見えた。

しかし遠子の卒業が迫り、あたたかな時間は過ぎ去ろうとしていた。
読者は作家を裏切り、作家は読者を裏切る。どれだけ信頼しあっていても、距離が近づこうとも、その時は運命のように訪れる。作家・井上ミウとして、再び小説を書いてほしい。遠子先輩の心からの願いは、心葉にとり、最も言ってほしくない人からの最も聞きたくない言葉だった。

遠子先輩は彼が井上ミウだといつ知ったのか。最初からか? それに編集者しか知らないはずの書き直し前の初稿の文章をどうして知っていたのか? そして遠子の思い詰めた様子は? 親しかったはずなのに、何も知らなかった事に気づかされる。

遠子の弟ともいえる櫻井流人の思惑に乗って、心葉は遠子の秘密に近づいていく。遠子の両親の事故、その親友が小説のなかで告白した殺意、母親の残した手紙、……。それは1人の編集者と2人の女の物語であり、作家と読者の愛憎劇だった。

親たちの残した愛憎は、今なお遠子たちを縛っているのか。
流人はいう、過去の因縁に呪縛された遠子にとって、希望は心葉が小説を書くことだと。しかし心葉は逃げる。読者の希望は、作家にとって呪いの言葉となり、作家の逃避は読者の憎悪をかきたてる。
 神が民の上に降りそそいだ、真っ白なマナのような物語。
 気高く輝く、天の糧のような。
 そんな小説は、ぼくには書けない。
 書くことで誰かを救おうなんて、そんな大層なことはできないっ。
 息が苦しい! 頭が殴られているように痛い。喉が焼けつき、心臓が破裂しそうだ!
 どうして、ぼくが書かなきゃいけないんだ!
 ぼくに、そんな役目を押しつけるんだ!
もはや、あのあたたかな時間は失われつつあった。天野遠子と井上心葉、読者と作家はどのような関係に向かうのか。残すところ、あと1巻。読者としての願望をこめて、次を待とう。


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