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華麗なる方向転換。百合系ハードアクションから半額系コメディへ 『ベン・トー サバの味噌煮290円』

ベン・トーアサウラ

『黄色い花の紅』や『バニラ A sweet partner』の作家がとんでもねー最新刊をひっさげて帰ってきた。

ソフト百合系でハードな銃アクションかと思いきや、135度ズレた半額弁当系コメディーアクション。いやバカ小説。書いた作者も書かせた編集部も、斜め上すぎるぜ、こんちくしょう☆まあ面白いからいいか。でもこの人、銃の出ない小説を書けたんだーと感心しつつ、実は同姓同名同編集部の別作家なんじゃないかと折り返しの著者紹介と作品リストを確認すること、しばし。

作家のフレキシビリティーと文芸の崇高さに思いを馳せつつ、もう一度読み直す。
まあいいか、面白いし。
いいのか? いい。
 この中で豚の角煮が洒落にならない匂いを発している。何とも言えない濃厚そうな醤油ベースの煮汁は豚の旨味と融合を果たし、香ばしさもまろやかさもその身に含んでいるのが一嗅ぎでわかる。微かに感じる複雑な香りからさらに何かしらの香料が加えられているのが窺えた。
 タレの効能は香りだけではない。その照りは月光に煌めき、豚肉の脂身と赤みの重厚な階層を高級感たっぷりに演出して見せている。
 これが豚の角煮だというのか! かつて母がウチで作ってくれたものとはまるで別物だ。あれは身がパサパサしているわ、脂身は崩れ落ちて煮汁の上をクズになって漂っているわ……何より固いわまずいわで……ひどかった。
 今、僕の目の前にある、プルプルと揺れるこれこそが、本物の豚の角煮だとすれば、母が作ってくれたのはただの豚肉の醤油煮込みである。
 先輩が割り箸でその豚の身に箸を入れる。まさか、と思った。僕は我が目を疑うほかに一体どのようなことができただろう。
 先輩の箸が、何の変哲もない大量生産された中国産割り箸が、まるでゼリーを相手にするかのようにズブズブと豚肉に差し込まれていったのである。

銃の解説に見られた緻密な描写は食い物への情熱に転換され、読んでいるだけで空腹を感じる。料理文学にさえ届きかねない文章表現だが、あくまで扱うのは売れ残って半額シールを貼られた弁当のみ。

半額弁当はただ安くなっただけの弁当なのか。さにあらず。
売れ残るか残らないか、スーパーと客の見極めのぶつかり合い。3割引きのところで買ってしまおうかどうしようか、誰かが抜け駆けしないか互いに緊張しながら、固唾を呑んで、店のあちこちからそっと弁当コーナーを見守り続ける緊張した時間。その先に待つのは、心の折れた豚野郎には得られぬ至高の戦い。狼たちの時間がやってくる。わずか10数個の弁当をめぐって、競い合われる力とスピード、勇気と知恵。勝者は天空の高みへ舞い上がり、レジという栄光の座へ迎えられる。敗者はただ地に堕つのみ。カップ麺でもすすってろ。

濃密にして、熱い文章表現が織り成すのはやはりバトル。90年代前半の怪作『食前絶後!!』(ろくごまるに)を思い出してしまうのはラノベ親父くさいぞ我ながら。漫画において料理はバトル、ラノベにおいても料理はバトル。文章の疾走感こそ命、なぜなら料理は火力とスピードだから。中国四千年もそう教えているではないか、ならば文章の昂ぶりに呼応して熱く早く読むべし、読むべし。オーヴァードライヴゥゥゥ。

一気に読み終える。途中で飯を食うことなく、最初から最後までぶっ通す。腹をすかせた餓鬼のような気持ちで、口の中によだれを溜めて、読み続ける。待ちきれない奴はただの豚、群れるだけならただの犬。狼は生きろ、豚は……潰される。それがこの本の掟なのだ。


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