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未来作家クタラギの栄光と挫折 『美学vs.実利 「チーム久夛良木」対任天堂の総力戦15年史』

美学vs.実利 「チーム久夛良木」対任天堂の総力戦15年史西田宗千佳

未来作家クタラギを正面から評価しなおした本。
色々と残念な部分も多いが、まずはこのPS3逆境の時期にこういう内容の本を執筆した著者と出版した講談社をねぎらいたい。

久夛良木氏ってよくわからない人だったな、という印象をお持ちの人にはぜひ本書をよんでほしい。未来を予測するのではなく、本当に自分の手で作り出してきた漢のロマンスが存分に伝わってくるはず。発言の無邪気さで多くの反感を買ってきたのは事実だが、それは久夛良木氏が経営者といち技術屋の両方の魂(ソウル)をもった人物である証。けじめをつけ、退任した今だからこそ、偉業は偉業としてすなおに評価したい。

PCに代わる新しいコンピュータを作りたいという久夛良木氏の情熱は本当に熱い。何かにつけて、グーグル神マンセー、ジョブズ神は完璧ビジョナリーと口にするしか能の無い、腑抜けた日本のITブロガーにくらべれば、目線の高さが違いすぎる。ラオウとジャギぐらい違う。本気でIntelを越えようとした、いやある部分では、完全に先を行っていた。事実、マルチコア路線を先導したのは間違いなくSCEのCELLだ。

「コンピュータは二のべき乗でまとめるのが美しい。これは美学の問題」など、色々とアレげな逸話も聞こえてくるが、あの立場の人間が無茶を言うのはある意味当たり前。現場の人間がきちんと噛み砕いて、粘り強く着地点を見出すべきこと。着地に失敗した事例が悪目立ちしただけで、的を射た発言も当然多かった。だからこそ、多くの技術者が久夛良木氏に付いていったわけだ。

覇王と部下の良好な関係は117ページの「PS2にPS1互換をもたせる」話にも現れている。互換性が無いのが当たり前の世界を、互換性があるのが当たり前の世界に変えたのも久夛良木氏。

ちょうど『WiiFit』に関する講演記事があったので、引き合いに出そう。宮本茂氏が強い信念で構想を語ったものの、現場は「リビングで体重を量るのか?」という不安を拭えなかった。不安を抱えた部下がそれを最終的にバランス計というアイデアに昇華したくだりはたいへん面白い。うまくいってる時の話はどこの会社でも似ているのかもしれない。

しかし僕らが知っているように、PS3という久夛良木氏の夢は破綻する。PS3は本来ただの次世代ゲーム機ではなく、PCに代わる新しいコンピュータを作るという久夛良木氏の情熱の結晶になるはずだった。
どうして破綻したのか。色々な意見はあるかもしれないが、僕は久夛良木氏の夢を噛み砕いて形にできる人がいなかったからだ、と思う。シンプルだが、それが全てだ。

Wiiはコンセプトを体現したソフト、『Wiiスポーツ』を送り出せた。次の年末には宮本茂氏の無茶なお題を形にした『WiiFit』も発売できた。しかしPS3は、PCに代わる新しいコンピュータにふさわしいソフトを提示できなかったし、今なお提示できる気配さえ無い。今や、Cellの生産設備は東芝に売却され、現在のPS3はゲーム機として舵取りされている。

夢の残骸はある。PS3上で動くLinuxや、高品質なアップコンバートや、Folding@Homeなどだ。しかし断片をいくら並べても、そこにコンピュータは生まれない。久夛良木氏健というハードの天才の対になる、ソフトの天才をSCEは10年間かけて見つけられなかった。じっさいPS3最大のキラーサービスに位置づけられているのは、セカンドライフの劣化コピーのようなHomeである。ここ、笑うところか?

いつ正式リリースされるのか? ズルズルと伸び続けているし、最初に発表したフィル・ハリソン氏はSCEから逃げ出した。辞めるのは自由だが、せめてHomeがサービス開始してからだろう。日本人ローカルの責任感覚かもしれないが、いい印象は抱けない。

SCEのソフト部隊には、理解者が居なかった。
また本書の著者もよくわかってないようだ。これは、久夛良木氏に好意的な記事の多い後藤弘茂氏や本田雅一氏も同様で、彼らの記事を読んでも、新しいコンピュータとやらの具体像は出てこない。断片だけで、全体はいつまで経っても姿を見せないのだ。

最悪の想像として、ハード屋でさえ理解できてなかったのかもしれない。2003年秋に当時のCTOだった岡本伸一氏がSCEを辞めている。今振り返ると、PSXとPSPの発表があった2003年のSCEは色々とおかしな動きがあった。

「チーム久夛良木」にその時なにが起きていたのか。
実をいうと、久夛良木ウォッチャーの1人として、僕はそれぐらい切り込んだ内容を期待していた。残念ながら、本書にはそこまで突っ込んだ内容は書かれていない。第3章に出ていた岡本伸一氏も、いつのまにか登場しなくなっているだけだ。 「チーム久夛良木」のメンバーがどうなったか、全然追っていない。

タイトルに偽りあり。本書の最大の欠点はそこなのだ。 「チーム久夛良木の15年史」ではなく、「久夛良木健の15年史」だし、「対任天堂の総力戦」も偽りで、PS1時代を除けば、ほとんど登場せず、完全に脇役扱い。結局、この本は『久夛良木健の15年史』である。

PS3はまだ現役の商品。関係者の口は重いだろう。正直、久夛良木健ロングインタビューぐらい付けてほしかったが、今は何も語れないかもしれない。それはわかる。著者にはできれば、数年後にでも 正真正銘の「チーム久夛良木」本を執筆していただきたい。くたたんウォッチャーの1人として、つよくお願いする。


コメント

私も読んでみました。最初に私が感じた違和感を述べさせてもらうと、「美学vs実利」という大きなタイトルを掲げながら「実利」に関する言及(つまり任天堂に関すること)が薄かったことでしょうか。SCE側からの話なので、仕方のない面はあるのでしょうが。それならば本書のタイトルをもう少し考えるべきでは、と思ったのはほぼ同意見といったところでしょうか。

 それでも興味深かったのは「PSX」と「PSBB」に関すること。どのように事業化されそして消えていったのかを改めて知ることができたのは大きかったです。それで感じたのは、おおまかに言うと「カジュアルなレコーダーをめざすのならばPS2との2コ1はあまりよくなかったのでは」ということと「PSBBを見てみると、ソフトウェアに関してSCEは何をしたんだろう」という2点でした。

*すみません、先になぜか過去の文章を送信してしまってるみたいですのでその分は公開しないようお願いいたします。誠に申し訳ありません。 
 

>INFANTRYTANK さん
タイトルに偽りがありすぎるのは、確かですね。
著者のセンスなのか、編集の判断なのかはしりませんが、10点減点という印象。
全体的に見て、「ゲームオーバー」のような名著には届いてませんね。

岡本さんは、久夛良木さんと現場の間に挟まれて、大変だったみたいですよ。
優秀な人に去られてしまって、PS3の開発フェーズは暗転した気がする。

> 38も10 さん
> dummy@isp.com
明らかに偽のアドレスを使ってのご投稿は、本来のせませんので、
今後はお気をつけください。

書き込みのお話も、風聞で聞こえてくるようなレベル以下ですね。

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本書は、ミスタープレイステーション、元ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)社長 久夛良木(くたらぎ)健氏の半生記だ。 美学vs.実利 「チーム久夛良木」対任天堂の総力戦15年史 (講談社BIZ) 作者: 西田宗千佳 出版社/メーカー: 講談社 発売日: 2008/02/22 メディ

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