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はかなく、いびつな、人喰いと少女の愛の物語 『MAMA』

MAMA紅玉 いづき

『ミミズクと夜の王』でデビューした紅玉いづきの1年ぶりの新刊。
前作は去年うちのブログで最も売れたフィクションで、だれにでもお薦めできるウェルメイドなおとぎ話だった。紅玉いづきは現代における、新しいおとぎ話の書き手であり、今作は新境地への第一歩だ。

トトは魔術師の血筋サルバドールに生まれた。魔術の才能に恵まれず、周囲の子供達からいじめられていた彼女は、いつかサルバドールから追い出されるのではないかと不安を抱えていた。ある日、神殿の書庫の奥に迷いこみ、数百年前に封印された<人喰いの魔物>と出会う。

片耳を喰われた少女と魔物は約束を交わす。
それは少女の貧弱な魔力では本来ありえない奇跡。魔術師の一族の長い歴史で、誰も想像さえしなかった出来事。孤独な魔物は少女の影に住み、少女は彼のママになろうとした。魔物の母となった事で、彼女は少なかった友人や両親からも孤立してしまう。

二人だけの時間が過ぎて、やがてトトは美しく成長した。幾多の言葉を解する魔の耳を持つ者として、外交官に任じられる。新しい出会いは、大人になりつつある少女の心を騒がせる。はたして魔物と少女のはかなくいびつな愛の行方は……。

前作が少女ミミズクの獣から人への成長であったとすれば、今回は母から女への成長(?)といえる。人と魔という組合せは同じでも、前作が良質なおとぎ話の範囲に踏みとどまっていたのに対して、『ゲド戦記』的なファンタジーの世界へ一歩踏み込んでいる。語弊がある言い方かもしれないが、少女が大人になっていく過程を見るような気がした。

この作品を書き上げる前に、作者は新作を丸々破棄したそうだが、「もはや愛しかない」と念じながら書きつづったというこの物語には独特の迫力がある。それは作者がこの二人を好きでたまらないからだろう。
「キ、ミ、は、馬、鹿、か?」
 一音一音を丁寧に区切って言い捨てた。もはやその投げかけは疑問ではない。確信だった。
「引っ込んでろよ! キミの役目はそうじゃない!!」
 違うとホーイチは思った。この少女の役目は、自分の前に身体を投げ出し両腕を出すことではない。彼女は彼の主となったのだ。使い魔を身を挺して守る魔術師が、一体どこにいる?
「ボクに言えよ! 命じてみろよ、……守れと、言え!!」
 そうすれば彼はその命のままに魔術師と戦えるはずだった。負けるはずもないと思っていた。相手がトトにとっては尊敬すべき大人達であったとか、そんな事実はホーイチには関係がない。自分を滅してくるものは全て敵で、魔術師達は彼の食料だった。
 けれどもトトはくるりとホーイチを振り返り、言う。
「黙ってなさい!」
 小さな拳をきつく固めて、トトの心の中にあったのは、これまで見てきた母の姿だった。毅然としなくてはいけない。我がままは駄目だ。だって。
「子供は、ママの、言うことをきくものです!!」

1つ残念な点を挙げると、本編のボリューム不足が挙げられる。182ページの本編『MAMA』と後日談をえがいた短編『AND』で構成されているが、本編だけで1冊分の文章量がほしかった。トトが母から女に変わろうとする部分で、エピソードと描写が物足りない。ここに厚みがあれば、おとぎ話的な領域から小説的な領域へスムーズに着地できたのではないだろうか。

しかしぎこちない部分もふくめて、瑞々しい感性に満ちた良質な物語なのはまちがいない。デビューしたばかりの新人に3ヶ月、半年で続きを書くことを求めるライトノベルの世界で、1年もの時間を与えている事からも、編集部が紅玉いづきをどれだけ大切に育てているかがわかる。じっさい読者としても、ウェルメイドな物語を書いてほしいと願っている。1年に1冊、2年に1冊でも十分、待てる作家なのだ。


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