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怒涛の新章突入! 人が人に残すもの『薔薇のマリア』
薔薇のマリア 5 SEASIDE BLOODEDGE(十文字 青)
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新しい巻を開くたびに新しい物を見せてくれますね。今までとは打って変わった、大変ユニークな構成です。舞台はサンランド無統治王国の首都エルデンを離れて、海の街ジェードリ。街には”何か”が起きつつありました。いくつもの視点を通して、その”何か”は不気味に進行していきます。
■多数の視点で語られる物語
街を牛耳るマフィア、街外れの館に住む貴族風の謎の男、狂信的な宗教騎士団、虐殺された神殿の生き残り僧主、暗黒大陸出身の少女と白い王、売春婦と孤児達の一家。……じつに多数、20人弱の人間の視点で事件が語られるため、街に生きる一人一人の異なる思惑、さまざまな人生、たくさんの想いがぶつかり合い、混じり合う様子が立体的に浮かび上がります。
この巻の冒頭から終わりまでに、どれだけ視点が変化していくか、列挙してみましょう。
主人公であるマリアローズたちが登場するのはたった3回で、それも馬車でジェードリに向かうまでの様子を描くだけ。なんとこの巻ではエピソードは終結せず、マリアローズたち一行がジェードリに到着した時点で次の巻に続くのです。
(6巻からは再びマリアローズたちを中心に物語が進みます)
この巻はファンの間で賛否両論が分かれています。『薔薇のマリア』を買ったはずなのにそうじゃない小説が書かれているのですから、当惑するのは当然です。
■人が人に残す、幸福の原形
しかしこの構成には大きな意義があると思います。おそらく作者は「街そのものと街に生きる人々」を描こうと思ったのでしょう。マリアローズたちはこの街の住人ではないため、あえて彼らの登場を減らすのも当然の選択です。とはいえ、シリーズを通して語られているテーマそのものは共通しています。
『薔薇のマリア』は、孤独な人間(特殊な事情をもった者や、普通の人間ではない者)が絶望の中でなんとか生きていく、仲間を見つけて、支えあって生きていく物語です。
この巻では、孤児たちを拾って育てている売春婦ローラの一家、そしてマフィアのパンカロ・ファミリー、2つの擬似家族が登場します。擬似家族的な集団は、モリー・アサイラム(孤児院であり病院)や、ZOO(マリアたちのクラン)など、これまでも描かれてきましたが、「親」の存在がより明確になっているのが特徴です。もちろん「父親」はエンツォ・パンカロ、「母親」はローラです。
たぶん作者が最も描きたかったのは、擬似家族の絆と、彼らに対する最大の試練でしょう。その試練がなんなのかは、実際に読んでみてください。個人的には、『薔薇のマリア』の中でも屈指の出来だと思いますし、最も心打たれました。ジェードリ編は6巻でも終わってないのですが、作者が最終的に2つの擬似家族にどんな結末を与えるのか、非常に楽しみです。作家の力量が問われるところでしょう。
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トカゲトカゲトカゲトカゲトカゲトカゲトカゲトカゲトカゲ 『薔薇のマリア』

新しい巻を開くたびに新しい物を見せてくれますね。今までとは打って変わった、大変ユニークな構成です。舞台はサンランド無統治王国の首都エルデンを離れて、海の街ジェードリ。街には”何か”が起きつつありました。いくつもの視点を通して、その”何か”は不気味に進行していきます。
街を牛耳るマフィア、街外れの館に住む貴族風の謎の男、狂信的な宗教騎士団、虐殺された神殿の生き残り僧主、暗黒大陸出身の少女と白い王、売春婦と孤児達の一家。……じつに多数、20人弱の人間の視点で事件が語られるため、街に生きる一人一人の異なる思惑、さまざまな人生、たくさんの想いがぶつかり合い、混じり合う様子が立体的に浮かび上がります。
この巻の冒頭から終わりまでに、どれだけ視点が変化していくか、列挙してみましょう。
- ルカ
- マリアローズ
- リク
- ルカ
- アルファ
- カルロ
- パオロ
- ジョルジュ
- チーロ・パンカロ
- マリアローズ
- ニーノ・パンカロ
- ハーヴェイ
- ロム・フォウ
- ステラ
- ローラ
- ヘンリー
- ウーゴ・パンカロ
- ラッチャ
- エンツォ・パンカロ
- イビツ
- チーロ・パンカロ
- ニーノ・パンカロ
- ウーゴ・パンカロ
- ルカ
- カルロ
- ニーノ・パンカロ
- チーロ・パンカロ
- リク
- マリアローズ
主人公であるマリアローズたちが登場するのはたった3回で、それも馬車でジェードリに向かうまでの様子を描くだけ。なんとこの巻ではエピソードは終結せず、マリアローズたち一行がジェードリに到着した時点で次の巻に続くのです。
(6巻からは再びマリアローズたちを中心に物語が進みます)
この巻はファンの間で賛否両論が分かれています。『薔薇のマリア』を買ったはずなのにそうじゃない小説が書かれているのですから、当惑するのは当然です。
しかしこの構成には大きな意義があると思います。おそらく作者は「街そのものと街に生きる人々」を描こうと思ったのでしょう。マリアローズたちはこの街の住人ではないため、あえて彼らの登場を減らすのも当然の選択です。とはいえ、シリーズを通して語られているテーマそのものは共通しています。
『薔薇のマリア』は、孤独な人間(特殊な事情をもった者や、普通の人間ではない者)が絶望の中でなんとか生きていく、仲間を見つけて、支えあって生きていく物語です。
この巻では、孤児たちを拾って育てている売春婦ローラの一家、そしてマフィアのパンカロ・ファミリー、2つの擬似家族が登場します。擬似家族的な集団は、モリー・アサイラム(孤児院であり病院)や、ZOO(マリアたちのクラン)など、これまでも描かれてきましたが、「親」の存在がより明確になっているのが特徴です。もちろん「父親」はエンツォ・パンカロ、「母親」はローラです。
たぶん作者が最も描きたかったのは、擬似家族の絆と、彼らに対する最大の試練でしょう。その試練がなんなのかは、実際に読んでみてください。個人的には、『薔薇のマリア』の中でも屈指の出来だと思いますし、最も心打たれました。ジェードリ編は6巻でも終わってないのですが、作者が最終的に2つの擬似家族にどんな結末を与えるのか、非常に楽しみです。作家の力量が問われるところでしょう。
「幸福の原形、か」
「貴様も言っただろう。人は、血以外のものも後世に残すことができるからこそ、人だ。幸福の概念もその一種だ。幸福は血では伝えられぬ。親が子に――必ずしも親子である必要はないが、人が人に幸福の原形を植えつけることで、次第に輪郭が整い、はっきりと感じられるようになる」
「私の子らには、それを持たん者が多い」
「幸福の影踏みだな」
「どういう意味だ」
「哀れな糞餓鬼どもは、それが幸福だと思い追い求める。なんとしても手に入れようと思う。だが、ふれるたびに、するりと逃げてしまう。手ざわりがない。それは幸福そのものではなく、幸福の影にすぎないからだ」
「それでも、彼らは影を踏みつづけるだろう」
「そうだ。貴様の影を踏む」
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