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我々を打ちのめす生命の現実(ノンフィクション) 『生物と無生物のあいだ』

生物と無生物のあいだ (福岡 伸一

去年売れに売れまくった科学ミステリー。
現実(ノンフィクション)が小説(フィクション)を凌駕することを痛烈に実感させられる。

この本には「生命とは何か」を探る分子生物学の歴史が凝縮されていて、それだけでも一読の価値があるが、さらに著者自身の研究史が加わることで、科学の最先端に触れる感動を読者のだれもが体験するはずだ。
科学者自身でなければ決して書き得ないリアリティがここにある。
 おそらく終始、エイブリーを支えていたものは、自分の手で振られている試験管の内部で揺れているDNA溶液の手ごたえだったのではないだろうか。DNA試料をここまで純化して、これをR型菌に与えると、確実にS型菌が現れる。このリアリティそのものが彼を支えていたのではなかった。
 別の言葉でいえば、研究の質感といってもよい。これは直感とかひらめきといったものとはまったく別の感覚である。往々にして、発見や発明が、ひらめきやセレンディピティによってもたらされるようないい方があるが、私はその言説に必ずしも与できない。むしろ直感は研究の現場では負に作用する。

科学の歴史はすなわち「間違い」の歴史である。この本の中で語られている分子生物学の歴史をみても、古い学説は新しい学説によって打破されている。第1章において著者は、日本で偉人化している野口英世の研究が間違いだらけだったと判明している事実を明かす。それは、先人への不敬でもなく、皮肉でもなく、科学とはそういうものだという強い自覚である。

学校の授業でさえそれがわかる。電流の向きと電子の向き、円周率3.14とπ、……。僕らは小さい頃に「とりあえずの解答」を教えられ、年齢が上がるにつれて、以前の解答が間違い(少なくとも不正確)だったことを教えられる。

理系の人間の僕が言うのもなんだが、理系嫌いになる人がいるのも頷ける。勉強すればするほど、以前の知識は間違いでした、不正確でしたと知らされる。しかもその新しい知識でさえ、さらに深く学べば、再び間違いだったと思い知らされる。高校生になれば小中学生の知識の不正確さを知らされ、大学生になれば高校生の、大学院生になれば大学生の、研究者になれば院生の知識の不正確さを知る羽目になる。そこで終わりではない。最先端の研究ともなれば、その分野を研究している限られた人間だからこそ、思い知らされる。

科学は常に新しい学説によって、壊され続けている。それは不思議なことに、生物そのものに近似している。
秩序は守られるために絶え間なく壊されなければならない。
絶え間なく壊される科学の世界で、最先端を突き進む。それは自分の考えや努力や成果が絶え間なく壊されることを意味している。若い頃に真実だと思って発表し、じっさいに学会で認められたことが、晩年には完全に否定されるのだ。あるいは、測定技術の進歩により、数年がかりの研究成果がある時を境に、非常に小さな物になってしまう事もある。

著者が強いのは、そうした科学の現実を傍観者ではなく、当事者として書いている点だ。12章から13章にかけて、著者自身のかつての研究が語られている。細胞膜のメカニズムを解き明かすため、当時、少なくとも世界で3つのチームが競争していた。科学の世界は第1発見者がすべての栄光を手にする。2位以下には何も手に入らない。しかしその1位の栄光さえ、永続するものではない。
 その年の秋、私たちのチームは目的とするGP2遺伝子の特定とその全アミノ酸配列をアメリカ細胞生物学会で発表した。ライバルチームもその同じ学会で私たちとまったく同じ構造を発表した。同着だった。お互いの仕事の正しさが確認された瞬間でもあった。ヒト・ゲノムの全貌が明らかになった今となっては、それはジグソー・パズルのささやかなワン・ピースでしかない。

実は話はまだ終わらない。続く14章と15章では、さらに痛々しく「壊される」。しかしそれはただ痛い話では無い。15章の最後の数行はぜひ自分の目で読んでみてほしい。常に壊され続けている生命がしなやかで力強いように、科学の、科学者の強さも感じ取れるはずだ。

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