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アルファにしてオメガ 『空の境界(上)』
空の境界(上)(奈須きのこ)

伝説の同人小説が講談社文庫として文庫化された。
うちのブログの読者であれば、作品こそ未読であれ、奈須きのこという名前はすでにご存知だと思う。が、あえて少し付言しよう。同人サークルTYPE-MOONを武内崇と結成し、ノベルゲーム『月姫』で伝説的な人気を集め、その後『Fate / stay night』で商業デビューを果たす。熱心なファンを多く抱え、発売すれば20万本弱の売上を見込める。現在にまでいたる同人ノベルゲームの隆盛は、この人無しでは語れない。
その奈須きのこの原点に当たる作品がこの『空の境界』だ。
『月姫』を書き始める前に執筆した第1作。文章もエンターテインメント性も荒削りだが、ゆえにまったくの原石、作家としての精髄がここに存在する。
衆に晒される前の、衣をまとう前の赤裸々な世界。
幻想と現実の無秩序に混在する描写。
研磨を経ていない鋭角の物語。
作家としてのアルファ。
読書人としての経験からいうと、作家の第1作は意外と他人に薦めづらい。
やはり粗く、濃い。最初はまず食べやすく、美味しい物を薦めたい。作家の熟達とは、自分という原液を多数の読者に飲みやすい濃度に希釈する術を身につけることであり、カルピスの原液を「おいしいよ」と差し出すのはいささか、ためらいをおぼえる。
けれども奈須きのこ作品は厄介なことに、どれから這入ったらいいかわかりにくい。
最善の『月姫』はもはや売っておらず、人づてに借りるか買うか、あるいは違法な手段でもなければ遊べない。『Fate』は40時間もかかる点で、相応の覚悟を要求する。餃子すら食った事の無い人間に、「中華を知らない? なら三日三晩、満漢全席でもお食べよ」と言うようなものだ。『DDD』は完結しておらず、難易度は最上。
かといってコミックやアニメから入るのは愚の骨頂。むしろ禁忌。儀式や呪術に場と手順が必要不可欠なように、伝奇にもメディアと順序が重要。寺社にしても、夜は神聖を帯びるが、昼には老朽化した木造建築に過ぎない。夜の闇で働く呪術や魔方陣も、昼の光の下では落書きだ。
とすれば、どうしたってこの本を薦める以外の方策は無い。
濃度を薄める水は持ち合わせないが、今回の講談社文庫版は少し利点がある。同人版、講談社ノベルス版ともに1ページが上下2段と文字がぎっちり詰まっているうえに、上下2冊それぞれ400ページと分厚い。電車の中で読むにはあまりに不適。
文庫版は上中下の3分冊に分かれ、上巻は300ページ強で、文字も大きい。じつは普通のライトノベルよりも大きく、本を読みなれない人にも優しい(他の文庫もこの大きさを見習った方が良いかもしれない)。価格は同人版が上下あわせて3000円、講談社ノベルス版が2300円、文庫版は上巻が税込620円、3倍と単純計算して1860円とお買い得である。
携帯性にすぐれ、読みやすく、コストパフォーマンスも最上なら、買わずに済ますのはもはや論外。中巻、下巻も来月、再来月に刊行されるので、続きを長々と待たされる懸念も無い。読み始めるにはうってつけの1冊といえる。
内容については中巻、下巻の書評であらためて触れようと思う。
1つだけ書き置くなら、『空の境界』は『灼眼のシャナ』でふれた命題(非日常の側にいる少女が日常の世界に居続けられない)に関して、じつに明快な解答を出している。アルファにしてオメガ。答えは最初からあった。

伝説の同人小説が講談社文庫として文庫化された。
うちのブログの読者であれば、作品こそ未読であれ、奈須きのこという名前はすでにご存知だと思う。が、あえて少し付言しよう。同人サークルTYPE-MOONを武内崇と結成し、ノベルゲーム『月姫』で伝説的な人気を集め、その後『Fate / stay night』で商業デビューを果たす。熱心なファンを多く抱え、発売すれば20万本弱の売上を見込める。現在にまでいたる同人ノベルゲームの隆盛は、この人無しでは語れない。
その奈須きのこの原点に当たる作品がこの『空の境界』だ。
『月姫』を書き始める前に執筆した第1作。文章もエンターテインメント性も荒削りだが、ゆえにまったくの原石、作家としての精髄がここに存在する。
衆に晒される前の、衣をまとう前の赤裸々な世界。
幻想と現実の無秩序に混在する描写。
研磨を経ていない鋭角の物語。
作家としてのアルファ。
読書人としての経験からいうと、作家の第1作は意外と他人に薦めづらい。
やはり粗く、濃い。最初はまず食べやすく、美味しい物を薦めたい。作家の熟達とは、自分という原液を多数の読者に飲みやすい濃度に希釈する術を身につけることであり、カルピスの原液を「おいしいよ」と差し出すのはいささか、ためらいをおぼえる。
けれども奈須きのこ作品は厄介なことに、どれから這入ったらいいかわかりにくい。
最善の『月姫』はもはや売っておらず、人づてに借りるか買うか、あるいは違法な手段でもなければ遊べない。『Fate』は40時間もかかる点で、相応の覚悟を要求する。餃子すら食った事の無い人間に、「中華を知らない? なら三日三晩、満漢全席でもお食べよ」と言うようなものだ。『DDD』は完結しておらず、難易度は最上。
かといってコミックやアニメから入るのは愚の骨頂。むしろ禁忌。儀式や呪術に場と手順が必要不可欠なように、伝奇にもメディアと順序が重要。寺社にしても、夜は神聖を帯びるが、昼には老朽化した木造建築に過ぎない。夜の闇で働く呪術や魔方陣も、昼の光の下では落書きだ。
とすれば、どうしたってこの本を薦める以外の方策は無い。
濃度を薄める水は持ち合わせないが、今回の講談社文庫版は少し利点がある。同人版、講談社ノベルス版ともに1ページが上下2段と文字がぎっちり詰まっているうえに、上下2冊それぞれ400ページと分厚い。電車の中で読むにはあまりに不適。
文庫版は上中下の3分冊に分かれ、上巻は300ページ強で、文字も大きい。じつは普通のライトノベルよりも大きく、本を読みなれない人にも優しい(他の文庫もこの大きさを見習った方が良いかもしれない)。価格は同人版が上下あわせて3000円、講談社ノベルス版が2300円、文庫版は上巻が税込620円、3倍と単純計算して1860円とお買い得である。
携帯性にすぐれ、読みやすく、コストパフォーマンスも最上なら、買わずに済ますのはもはや論外。中巻、下巻も来月、再来月に刊行されるので、続きを長々と待たされる懸念も無い。読み始めるにはうってつけの1冊といえる。
内容については中巻、下巻の書評であらためて触れようと思う。
1つだけ書き置くなら、『空の境界』は『灼眼のシャナ』でふれた命題(非日常の側にいる少女が日常の世界に居続けられない)に関して、じつに明快な解答を出している。アルファにしてオメガ。答えは最初からあった。
コメント
>Ni.O さん
>まだ「DDD」も「Fate/zero」も読んでない
「Fate/zero」は設定は奈須きのこでも、虚淵玄が書いてるので、あまりお薦めではないですね。ライダーの性格は面白いですが、全体として実はあまり面白い展開でも無いですし。実は3巻はまだ読んでないので、そこまで読めば評価が変わるかもしれませんけど。
「DDD」は2巻は熱いので割と良いですが、1巻はトリッキーな構成を取っているんで、ちょっと取っつきにくいかもしれません。奈須きのこは、小説ではじゃっかんトリッキーな構成をしたがる傾向にあって、「DDD」も「空の境界」も同じく連作中篇小説ですが、時系列がバラバラになっています。『月姫』や『Fate』ほど、素直ではないので、そこは要注意かもしれません。
完結している点と、年末から劇場アニメが公開されて話題を呼ぶという点で、「空の境界」が一番お薦めですね。「DDD」は3巻の出来を見ないと、まだトータルでの評価がしにくいです。奈須きのこらしくない作品なんで、「難易度は最上」です。
>まだ「DDD」も「Fate/zero」も読んでない
「Fate/zero」は設定は奈須きのこでも、虚淵玄が書いてるので、あまりお薦めではないですね。ライダーの性格は面白いですが、全体として実はあまり面白い展開でも無いですし。実は3巻はまだ読んでないので、そこまで読めば評価が変わるかもしれませんけど。
「DDD」は2巻は熱いので割と良いですが、1巻はトリッキーな構成を取っているんで、ちょっと取っつきにくいかもしれません。奈須きのこは、小説ではじゃっかんトリッキーな構成をしたがる傾向にあって、「DDD」も「空の境界」も同じく連作中篇小説ですが、時系列がバラバラになっています。『月姫』や『Fate』ほど、素直ではないので、そこは要注意かもしれません。
完結している点と、年末から劇場アニメが公開されて話題を呼ぶという点で、「空の境界」が一番お薦めですね。「DDD」は3巻の出来を見ないと、まだトータルでの評価がしにくいです。奈須きのこらしくない作品なんで、「難易度は最上」です。
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僕としては「空の境界」もはずせない作品ですね
この前聞いた「アーネンエルベの一日」でもこの作品だけ未読だったので
そこの部分のネタが分からなかったですから是非とも読んでみようと思うんですが
ネックなのが奈須きのこ作品は小説を一度も読んでないですから
話が長くなって途中で読むのを挫折しかねないか心配ですね
まだ「DDD」も「Fate/zero」も読んでないのでまずそっちから読んでおくべきでしょうかね?