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恋と革命と音楽 『さよならピアノソナタ』
さよならピアノソナタ(杉井光)

タイトルのとおり、音楽を介して触れ合うボーイ・ミーツ・ガール物。ファンタジー要素も特になく、ハードカバーで売り出しても通用する内容。
ボクはやってないんだけど、音楽をやっていた人ならたぶん2倍は楽しめるんじゃないかな。
少年が少女と出会ったのは、《心からの願いの百貨店》と名付けた粗大ゴミの投棄場所。いつものようにオーディオ機器の部品を漁りにきていたナオは、「世界が滅んだ十五分後みたいな不思議な静けさ」に包まれたその場所で、ピアノの音を耳にする。
彼以外に誰もいないはずのジャンクヤード。1人の少女がゴミの山に埋もれていたグランドピアノで演奏していた。初めてのはずなのに、彼女の顔にはなぜか見憶えがあった。
帰宅してやっと思い出す。
十二歳で国際ピアノコンクールで優勝し、二年半の後に突如活動をやめた天才ピアニスト、蛯沢真冬。まさか、彼女が数日後、自分の学校に転校してくるとは。
真冬はなぜかギターを弾き始める。それはいい。
しかし、ナオが勝手に使っていた廃屋の空き教室を占領して、となると話は別だ。傍若無人な態度に怒った彼は、ベースで彼女を”ぶっとばす”ため、民族音楽研究部の先輩、自称革命家の神楽坂響子と共に演習を始める。
そもそも真冬はどうしてピアノではなく、ギターを弾いているのか。それもピアニストとして演奏していた曲ばかりを。そして彼女はこう言い放つ、「六月になったら、わたしは消えるから」と。その真意は?
音楽が二人の距離を埋める? いや、もし埋めるものがあるとすれば、それは音楽ではなく、二人の意志だ。
作者の杉井光が『火目の巫女』、『ニート探偵アリス』『神様のメモ帳』、『さよならピアノソナタ』ときて、徐々にハッピーエンドを書き慣れてきているのは好感がもてる。最初の小説を読んだときは、欝ラノベ作家として、ライトノベルの「暗黒面」に堕ちていく可能性を危惧したものだが、今ではそんな気配は微塵も感じられない。
『神様のメモ帳』以降、作風が安定しつつある。今の時点でタイプわけするのは乱暴かもしれないが、『半分の月がのぼる空』の橋本紡と『池袋ウエストゲートパーク』の石田衣良の中間ぐらいの方向に思える。良質な青春物を書くのが上手いが、橋本紡ほど「何も起こらない」話は書かない。エッジ感はあるけれど、石田衣良ほど尖ってる感じは無い(この辺は年齢や経験にもよるかもしれない)。
テクニックはまだ伸びる余地を大いに感じるし、注目度は高い。このきれいな小説から、杉井光作品を読み始めてみてはいかがだろう。
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タイトルのとおり、音楽を介して触れ合うボーイ・ミーツ・ガール物。ファンタジー要素も特になく、ハードカバーで売り出しても通用する内容。
ボクはやってないんだけど、音楽をやっていた人ならたぶん2倍は楽しめるんじゃないかな。
少年が少女と出会ったのは、《心からの願いの百貨店》と名付けた粗大ゴミの投棄場所。いつものようにオーディオ機器の部品を漁りにきていたナオは、「世界が滅んだ十五分後みたいな不思議な静けさ」に包まれたその場所で、ピアノの音を耳にする。
彼以外に誰もいないはずのジャンクヤード。1人の少女がゴミの山に埋もれていたグランドピアノで演奏していた。初めてのはずなのに、彼女の顔にはなぜか見憶えがあった。
帰宅してやっと思い出す。
十二歳で国際ピアノコンクールで優勝し、二年半の後に突如活動をやめた天才ピアニスト、蛯沢真冬。まさか、彼女が数日後、自分の学校に転校してくるとは。
真冬はなぜかギターを弾き始める。それはいい。
しかし、ナオが勝手に使っていた廃屋の空き教室を占領して、となると話は別だ。傍若無人な態度に怒った彼は、ベースで彼女を”ぶっとばす”ため、民族音楽研究部の先輩、自称革命家の神楽坂響子と共に演習を始める。
「……少年。ベースってなんだと思う?」音楽を聴くだけだった少年が天才少女に音楽で勝負を挑む。先輩の助言で作戦を立てるが、それにしたって、勝率は限りなく低い。無謀もいいところだ。だが周囲に壁を作る真冬に近づけるのはそんな彼だけ。
ぼくはそっと顔を上げる。先輩は笑っていなかった。目つきは優しかったけれど。
「バンドがもし一人の人間で。ヴォーカルが頭で、ギターが手」先輩は自分の手元から、千晶の方へと視線を移す。「ドラムスが足だとしたら。ベースはなんだと思う?」
先輩の謎かけに、ぼくは答えられなかった。だって。これまで生きてきた中で、ぼくはずっと受け取るだけの人間だったのだから。
先輩はようやく薄く笑って、それからすっとぼくに身体を寄せてきた。先輩の手のひらがぼくの胸に押し当てられるので、ぼくはどきりとして固まる。
「ここだよ、少年」
じっと正面からぼくの目を見つめて、神楽坂先輩は言った。
「心臓だ。わかる? きみがいなければ、私たちは動かない」
そもそも真冬はどうしてピアノではなく、ギターを弾いているのか。それもピアニストとして演奏していた曲ばかりを。そして彼女はこう言い放つ、「六月になったら、わたしは消えるから」と。その真意は?
音楽が二人の距離を埋める? いや、もし埋めるものがあるとすれば、それは音楽ではなく、二人の意志だ。
作者の杉井光が『火目の巫女』、
『神様のメモ帳』以降、作風が安定しつつある。今の時点でタイプわけするのは乱暴かもしれないが、『半分の月がのぼる空』の橋本紡と『池袋ウエストゲートパーク』の石田衣良の中間ぐらいの方向に思える。良質な青春物を書くのが上手いが、橋本紡ほど「何も起こらない」話は書かない。エッジ感はあるけれど、石田衣良ほど尖ってる感じは無い(この辺は年齢や経験にもよるかもしれない)。
テクニックはまだ伸びる余地を大いに感じるし、注目度は高い。このきれいな小説から、杉井光作品を読み始めてみてはいかがだろう。
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