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やがて来る大人になる時 『ARIA 11』

ARIA 11天野こずえ

アクアと名付けられた火星に再現された水の都ネオ・ヴェネツィア。道路のように水路がひかれた街では、ゴンドラが主要な交通手段だった。観光客をゴンドラに乗せる水先案内人<ウンディーネ>の見習い3人娘は、今日も一人前<プリマ>をめざして、修行に明け暮れていた。

アクアの風物詩を中心に描いていた『ARIA』シリーズも、地球の暦で2年が過ぎ(アクアの1年は地球の2年に相当)、大半のイベントを見尽くした感がある。主人公の水無灯里の目を通じて、僕らはアクアの様々な幻想とも出会ってきた。美しく、楽しい、夢のような時間。もしかすると、そのまま永遠に続くんじゃないか、と思えた。

『ARIA』シリーズの特徴はその美しい世界の描写にある。火星に再現された水の都は、設定からして幻想的だ。そして見開きの大ゴマを使ってパノラマ的に風景を切り取る手法により、1話読むたびに印象的な光景が読者の心に積みあがっていく。

きれいなのは舞台となるネオ・ヴェネツィアの風景だけではない。主人公の水無灯里の目を通して描かれる人々は皆、優しい。街を流れる時間は穏やかで、誰もが幸せそうに見える。この漫画を読んでいると、不思議な気分になる。まるでその世界には、悪意など、どこにも無いかのようだ。

この作品を好きになる理由と、逆に受けつけない理由は共にそこにある。あまりにも綺麗な世界に浸っていたい人がいれば、逆に退屈さや欺瞞を感じる人もいるだろう。しかしその世界が美しく、優しいのは、灯里の視点で描かれているからだ。見る者によって、世界は様相を変える。楽しいもの、良かったことを発見する達人だからこそ、世界はあんなにも輝いて、何気ない日常はかけがえのない時間に思えるのだろう。

その穏やかな時間を永遠に続けることはできる。物語なら、それができる。けれども作者はそれを良しとしない。初期作品『浪漫倶楽部』の頃から、やがて魔法は解けることを描いてきた。子どもから、大人へ。

そうやって大きくなれば、見えなくなってしまうものがある。だが見えないことは存在しないこととイコールではない。見えなくてもそこにある、会えなくてもいる。そう信じられるのが大人になるということだ。たまに信じられなくもなるが、そういう時のために物語はある。

この巻の構成は非常に素晴らしい。収録されている1話目の、藍華と晃のエピソード。そして最後を飾るアリスとアテナのエピソード。見習い3人娘にも変化は訪れる。どこで終わりを迎えるかはわからない。おそらく近いようで、遠いのだろう。だが永遠に遠くもないのだろう。その時も、笑顔で。

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