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コンプリートではなく、ゲームオーバー 『扉の外 3』

扉の外 3土橋 真二郎

高校生が一学年丸ごと閉鎖環境に閉じ込められ、お互いに争いあうゲームに参加させられる、シチュエーションノベル第3弾。集団になじめない性格の千葉紀之、自分の本音を見せない策士の高橋進一と男の主人公が続いて、この巻の主人公はなんと女の子。中山美鈴、2年2組はおろか、学年でもたぶん一番の美人。

だが彼女は顔の割に、人気は低い。その理由は読者には明白だが、本人には不可解らしい。
「ねえ沖田?」
 ぼんやりと座っていた沖田が面倒そうにこちらを向いた。
「私って美人でしょ。ジェマ・ワードに似てるって言われるしさ。スタイルもいいし、頭もよくて運動神経もいい」
「…………で?」
「なんでクラスの男どもは私をちやほやしないのかしら。ちやほやしてほしいわけじゃないのよ。でも、私の意見はもっとすんなりと聞き入れられるべきだと思うわ。いつでも正論を言ってるはずなのに」
…………。
…………。
…………唖然としてはいけない。
痛さでは1巻の千葉紀之に匹敵する。2巻では共感しやすい主人公が設定されていたが、再び痛い主人公になってしまった。このシリーズ、シチュエーションやゲームのルール設定は巧みで、読ませるのだが、共感しづらい人物が多く、大きな損をしている。

しかしこの作家の才能は、別の所にある。集団心理の変化を描くのが異様に巧いのだ。閉じこめられた人間の欲望と恐怖が徐々に高まっていき、勝手に争い始める。そのプロセスを丹念に、恐ろしく冷静に描ききっている。これは、稀有な才能だと思う。

主人公は集団を傍観したり、誘導したり、統治しようとするが、ある時点ではうまくいっても、状況が変化すれば、コントロールを外れてしまう。集団はマクロ的には単純に見えるが、コントロールは難しい。そういうリアリティを感じる。すなわち、この小説の本当の主人公は千葉紀之や高橋進一や中山美鈴といった「個人」ではなく、2年4組や8組、2組といった「クラス」なのだ

ゲームノベルというと、どうしてもバトロワ的なシチュエーションが頭に浮かびやすい。しかしあのゲームは、徒党を組んでもせいぜい数人。結局は個人対個人の争いの域を出ない。ライトノベルにおけるシチュエーションノベルの多くは、その類である。ゆえにどれほど過酷なゲームであろうとも、否、過酷であるがゆえに、ある種のヒロイズムが求められる。

そういう読まれ方をすると、このシリーズは真価が伝わりにくい。集団心理の優れた描写は評価されず、人物描写の底が浅く、感情移入しにくいという欠点が目立ってしまう。ライトノベルは別名、キャラクター小説だから、この作家の才能は意外と活かしづらい。

実際、このシリーズは打ち切りになったと思われる。物語は投げっぱなしの状態で終わりを迎える。謎めいた舞台裏は一応の説明がつくものの、シリーズを通しての登場人物、蒼井典子、正樹愛美たちの物語はいまだエンディングに達していない。

稀代の黒女聖女、正樹愛美もこの巻ではおとなしい。1巻、2巻とは別の一面が見られたが、彼女が「化ける」のが見たかったと心の底から残念である。

惜しむらくはこの小説の「外装」である。イラストの事ではない。どういう読み方をされるべきか、その提示がうまくいってない。この作家の「才能」を活かせる物語を提示する必要がある。共感を呼ぶキャラクターを描く能力を磨いていくのか、あるいは非キャラクター小説化をめざすのか。どちらにしても、編集と作家の戦略が求められる。でなければ、まだ発芽したばかりの才能が埋もれてしまう。率直に、もったいない、と思う。



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