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時間軸のズレた作家、西尾維新 『刀語カタナガタリ 第8話 微刀・釵(カンザシ)』

刀語カタナガタリ 第8話 微刀・釵(カンザシ)西尾維新

12ヶ月連続刊行の刀狩り道中記もついに8冊目、第2部終了。
奇策士とがめの永遠のライバルがいよいよ姿を現した。

何事も肯定し、決してあきらめない不屈の意思を持つのが奇策士なら、あらゆる物を否定しつくす不屈の意思を持つのが「否定姫」。白髪で赤目、子供のような背丈(ロリー)のとがめはかわいらしい異形だが、正反対の彼女もまた日本においては美しき異形の存在。徹底的に正反対の存在が、実は一番相似しているのかもしれない。相変わらず、キャラ立てが巧みな作家である。

西尾維新は現代におけるのキャラクター小説の旗手である。
いや違うな、旗手ではない、旗持ちなどせずに、さらに先頭、先頭の先頭を先んじてしまっている。ゆえに西尾維新の小説が映像化されてないにも関わらず、その影響を色濃く受けた作品が先んじて映像化されてしまう(片山憲太郎『紅』)。

同じくキャラクター小説の先頭を突き進んでるのは奈須きのこだが、こちらはキャラクターそのものは幾分、類型的である。その独創性は疑うべくもないが、しかし根がオタクなことは隠せない。作品を読めば、作者の趣味嗜好や、影響を受けた作品がよくわかる。とりわけ、同世代、70年代中盤に生まれたオタクなら。

一方、西尾維新は少し軸が違う。ファーストガンダムも、作家になってから、編集に薦められて、ようやく観ている。世代が若いという点が大きいのだろうが、西尾維新と同世代の作家と比べても、少し時間軸がズレている印象がある。たとえば、西尾維新より若い、日日日(あきら)と比較しても、だ。

若くしてデビューしたという点で、日日日は西尾維新と共通するが、その作風は「こなれている」。悪く言えば「こなれすぎている」。しかしこの場合、日日日がおかしいのではない。西尾維新がおかしいのだ。

西尾作品は最近のヤンデレブームさえ、先んじていると思う。
事実、少し前に述べたように、ライトノベルにおけるヤンデレ作品、『嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん』や『電波的な彼女』は、明らかに西尾作品の影響を受けている。それはとてつもない事だ。

後続が追随に、追随を重ねて、それでも時代の最先端。西尾キャラクターはいったい何年進んでいるんだと。1歩ではない。2歩も3歩も先に進んでいるのだ。それはとてつもない才能だが、逸脱しすぎた才能ゆえの不遇もある。後続の作品が生まれて、ようやく地に足着いた解釈をされ、適切に受容されるのだから。

実際、僕はこれまでに西尾維新作品についての書評で、納得できたものを1つとして読んだことがない。たとえば、「限界小説書評」という試みがあり、第1回から西尾維新の戯言シリーズを取り上げているが、4人もの評者をもって、十分に語られているとは言いがたい。一方、この連載で語られる奈須きのこ論は、それなりに説得力を持っている。はてな界隈の「現代学園異能」も、奈須きのことその系譜を理解するフレームとして、なかなか有用なツールに思える。

勘違いしてほしくないんだけど、これは作家の優劣の問題じゃない。先行してるから偉いわけでもない。作家でも、芸術家でも、理解されないよりは理解されたほうが、八分よりも十分に理解されたほうが、少なくとも生きている間は幸せなんだろうし。かといって、天才が意図的に足踏みするのも難しいと思う。この『刀語』シリーズは頑張って足踏みしようとしている作品ではあるのだが。


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