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松下は全開発社員に買って読ませるべき。ゲームデザイン本のタッチジェネレーション 『ニンテンドーDSが売れる理由』

ニンテンドーDSが売れる理由サイトウアキヒロ小野憲史

ボクはゲーム制作者だが、ふだんゲーム関係の本をほとんど取り上げない。率直にいえば、紹介したくなるような本が無いからで、その状況はちょっと悲しいものがある。

ゲームニクスって?

さてこの本はゲーム制作者のサイトウ・アキヒロ氏と、元ゲーム批評編集長であり、数多くのゲーム関連記事を執筆してきた小野憲史氏が「ゲームニクス」について書いた本である。著者たちによれば、ゲームニクスとは「任天堂をはじめとした日本のテレビゲーム業界が蓄積してきた、UIや操作デバイスに関する膨大なノウハウの集合体」らしい。

要は、ユーザーの誰もが直感的に操作がわかり、使っているうちに自然と熟達して、奥深い使い方もできるようになる、制作ノウハウであり、そのノウハウは家電や他の分野にも応用できると著者たちは考えたようだ。

「勝ち組は、最先端の技術を使わず、消費者のニーズをソフトや使いやすさで汲み取った米アップルコンピュータと任天堂だけだった」と考える松下は、全開発社員に買って読ませた方がいいのではないか? それも緊急に!(参考:「もうハード頼みは通じない」

という煽りが嘘にならない内容である。
とはいえ、読んでもニンテンドーDSが売れる理由はわからない。ゲーム制作において、基本的すぎることが書かれているだけである。そもそも売れるソフトと売れないソフトの差を、著者たちは理解できてない節がある。しかしプロや志望者が読んで苦笑したり、怒るのは間違っている。

この本は端的にいえば、「ゲームデザイン本におけるタッチジェネレーション」である。海外において、現場感覚から遊離するほどに理論の複雑化が進んでいるゲームデザイン本とは明らかにベクトルが異なっている。また数少ない日本のゲームデザイン本のように、ゲームを知らない人には、何を書いているのか、よくわからない本とも違う。
Chapter1 DSの大ヒットから読み解けること
Chapter2 ゲームニクス理論
Chapter3 商品開発への応用
Chapter4 教育分野への応用
この本のメインは2章で、全体の半分以上のページを割いて、ゲームニクスの4つの要素を解説している。4要素とは「直感的なUI」「マニュアル不要の操作理解」「はまる演出と、段階的学習効果」「ゲームの外部化」であり、古今のゲームがいくつも引用されている。入力インターフェイスに関連したメニュー作りをここまで丁寧に書いている本は珍しい。

また第3章では、非ゲームとゲームのインターフェイスを比較検討している。WindowsとWiiの操作チュートリアル、えいご漬けのPC版とDS版を細かく比較し、さらに家電メーカーにおけるシンプルリモコンへの取り組みを紹介している。

タッチジェネレーションのソフトが、1日に何時間もゲームに熱中するゲーマーではなく、ゲームに興味の無い人たちに向けて作られたように、この本もまた、ゲームオタクやゲーム制作者の方は向いてない。著者の1人、小野憲史氏はブログにおいて「実際に現場で開発している人や、学校で勉強している人にお勧め」と言ってるが、冗談ではない。弱気すぎである。

この本をお薦めすべきなのは、国内家電メーカーの開発要員をはじめとする、ゲーム以外の分野の人たちである。その人口はゲーム開発者の数倍、数十倍におよぶ。日ごろからアップルのUIは素敵だね、任天堂のUIはすばらしいね、とブログで書いている「デジタル家電UI論者」こそ、最初に狙うべきアーリーアダプターだ。


この本に書かれていない「ニンテンドーDSが売れる理由」

任天堂は『脳トレ』をファミ通のクロスレビューに出してない。宮本茂氏が見開きのインタビューでコンセプトを語ることもない。ゲーマーを拒絶してはいないが、ゲーマーに熱心にアピールし過ぎることで、商品がボヤけてしまうことを恐れたのだろう。

その姿勢を見習えという訳ではないが、「ニンテンドーDSが売れる理由」と冠したからには、さして人口の多くないゲーム開発者の購入を集めて、チマチマと部数を稼ごうというセコさはいただけない。それは、ほら、岩田社長がファミ通でニコニコ愛想笑いを浮かべながら、「ゲーマーの皆さーん、この『脳トレ』はこんなにやり込めるんですよ☆」と語りかけているようなものだ。

「ゲームニクス」を語るうえで、ニンテンドーDSを持ってくるのは確かに適切だ。しかし別段、ニンテンドーDSも、Wiiも、任天堂が「ゲームニクス」理論を勉強して、生み出した商品ではないだろう。そもそも株式会社ダイスの沿革を見れば明らかなように、サイトウ氏はニンテンドーDSにもWiiにも、特に関わっていない。対応ソフトさえ作ってない。

ゲーム批評で7年前にはじめた連載が形を変えて実った。それだけの期間、ゲームニクスを提唱してきた努力はすばらしい。だが同時に、クリエイターのサイトウ氏は「ゲームニクスそのもの」ともいえる商品を自分の手で世に送り出せなかったことを、ライターの小野憲史氏はニンテンドーDSの大ブームが無ければ、「ゲームニクス」の本を出版できなかったことを、それぞれ悔しがるべきだろう。

「ゲームニクス」はこの7年売れなかったが、「ニンテンドーDS」は売れた。その差にこそ、「ニンテンドーDSが売れる理由」があるのだから。つまりタイトルに偽りあり。


ゲームニクス本がゲームニクスを体現していない

この本は良著だが、2つ残念な点がある。1つは上で述べたような著者の姿勢のゆらぎ。
なぜテレビゲームにハマッてしまうのか。そのメカニズムをゲーム以外に応用するにはどうしたらいいのか。この2点についてサイトウさんと2人で、がんばって考えて、がんばって書きました。
という意気込みはいいが、ゲームを知らない人にはわかりにくい部分が混ざっていて、スタンスの曖昧さで損をしている。

もう1つは、1点目に関連するが、この本のインターフェイスが優れていないこと。この本で主張している内容をこの本自身が守ってない。これは本であって、ゲームソフトじゃないのかもしれないが、ゲームニクスはゲームの制作ノウハウを他の分野に応用できるという考え方のはずだよね?

例えば、ゲームに興味の無い人は無名のタイトルを挙げられても、よくわからないのだから、例示するなら写真つきに限定し、写真を載せられないならいっそバッサリ切るべきだった。「どうしてあのタイトルが載ってないの?」というツッコミを恐れたのだろうか? 怖れがあるから、中途半端になり、中途半端になるから逆にツッコミを招く。

ゲーム以外のインターフェイス制作者とゲーム制作者、両方を視野に入れたために起きた問題だが、「熟練度でユーザーを振り分け」られていない。同様の問題は各所にあり、ゲーム制作者には物足りないくせに、非ゲーム制作者には不親切なのだ。

インターフェイスの優れたゲームが売れるように、インターフェイスの優れた本は売れる。以前、そういう本の例として、『キッパリ! たった5分間で自分を変える方法』を紹介した。この本を読めば、優れたインターフェイスとはどういう事か、直感的に、マニュアル不要で、自然と理解できる。
1つのアイデアにつき見開き2ページを使い、右ページの右端にアイデアを太く大きく書いていて、その隣に4コマ漫画を描き、その後に解説の文章が続きます。そして左ページの左端には締めのコメントを簡潔に、これまた太く大きく書いています。つまり中の文章をほとんど読まずにパラパラ見るだけで、書かれているアイデアがわかります。

この本の表紙はニンテンドーDS風だが、中身はそうではない。
今おそらく日本全国、いや世界各地には、ニンテンドーDSとWiiで試行錯誤をしているゲーム制作者が数千人、数万人はいるだろう。そういう人たちがこの本を読んで感心したなら、皮肉なことに、その人は何もわかってない事になる。

「ゲームニクス」という概念が売れるのか、売れないのか、ニンテンドーDSブームが続いてる間だけ持てはやされるだけなのかはわからない。興味も無い。しかし「ゲームニクス」を主張する本そのもの、講義そのものがゲームニクスしていた方が説得力は大きいと思うのだ。

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