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感じられない幸福感、そして身体性の回復 『シャギードッグ2』
シャギードッグII 人形の鎮魂歌(七尾あきら)

おいおいおいおい、週刊誌じゃないんだからさっ(笑
すごい引きです。
喩えるなら、衝撃的な事実を両親から聞かされた女の子が、フラフラと車道に飛び出したら、そこに4トントラックが走ってきて、女の子が死を覚悟して目をつぶったところで、次巻に続く――。
ふうっ。
落ち着いて。
それにしてもこの巻で一気に登場人物と伏線が増えてきた。この物語の行く末もまだ不明だ。そこら辺も含めて、かなり面白い。サイバーパンク+格闘アクション+青春小説といった感じ。すでに化けつつあるような気がするが、さてどこまでの竜だろうか。
プログラムを脳にインストールするとその戦闘能力を使える格闘プログラム保持者(ホルダー)。ヤクザの息子、鳴神大介もその一人だが、常に争いをさけようとしている。しかし彼の中に隠された秘密は、そんな生き方を許しはしない。
鳴神大介の周りには、徐々に仲間やクセモノやライバルや強敵が集まってくる。
他人の精神を思うままに操れるがゆえに、孤独に苦しみ続けるオズ。お節介焼きは天下無双、幼なじみのまりん。スポーツ選手としての人生を挫折した時沢沙織。殺人許可証をもつ<西の魔女>堂本亜夜。ナチュラルボーン最強の異能者、桂翁。気は優しくて力持ち、おまけに料理の天才の西平。
そして最悪の敵カイ。
実に色々な要素がぶち込まれた娯楽要素のごった煮。全然違う作品ではあるが、サイバーパンク格闘といえば、『銃夢』も実に多彩な出来事が連続する、自分を確立するまでの物語だった。
身体を失った人間が自分を再確立する。
機械やネットというものを、自然の一部として受け取れるようになった世代の若者の中には、肥大化した自意識や人生観を抱えて、いつまでも自分が好きになれない、幸せを感じられない人がいる。
自分が好きになれないから、幸せを感じられない。不幸だと思ってるから、その原因である自分が好きになれない。1個の人間の枠を越えて拡張された自意識は、人間を、少なくとも一部の人間を不幸にしているのかもしれない。
ゆえにこの種の物語において、主人公は身体性を取り戻す方へと進んでいくはずだ。すなわち、1人の人間が普通に実感できる範囲の人生を回復するのだ。
だからこそ、サイバーパンクにおいて格闘は不可欠の要素なのだろう。機械の体で身体性を回復することが、若者がネット社会で見失った幸福の実感を取り戻すことにシンクロする。無論、そんなに簡単ではない。
この辺り、ゲームにも話はおよぶ。何故ならゲームこそ、サイバーパンクそのものと言っていい。世間でSFが流行らないのも当たり前だろう。実物が目の前にある世界になってしまった。ゲームと身体性もまた、面白いテーマではあるのだ。
最近のゲームは、より高品質な映像で形成された世界に没入していく方向ではなく、むしろプレイヤーの身体性を強く実感させる方向へ進化している。また2ちゃんねらのような、ふだん運動してなさそうな人たちがビリーに飛びついているのも面白い現象だ。オタク系サイトでも「買いました」という話をよく見かける。身体性の回復はいまや現実の世界にこそ広がりつつある。
しかしそちらを掘り出すと、書評の域からは完全に外れてしまう。ここでいったん止めておこう。まぁとりあえず、身体を動かしたり、昼間に外を出歩くより、部屋で本を読むのが好きな俺らは、この本を買っとけってこった。
関連
デビューから10年以上、溜めに溜めたものを吐き出した新感覚サイバーパンク『シャギードッグ』

おいおいおいおい、週刊誌じゃないんだからさっ(笑
すごい引きです。
喩えるなら、衝撃的な事実を両親から聞かされた女の子が、フラフラと車道に飛び出したら、そこに4トントラックが走ってきて、女の子が死を覚悟して目をつぶったところで、次巻に続く――。
ふうっ。
落ち着いて。
それにしてもこの巻で一気に登場人物と伏線が増えてきた。この物語の行く末もまだ不明だ。そこら辺も含めて、かなり面白い。サイバーパンク+格闘アクション+青春小説といった感じ。すでに化けつつあるような気がするが、さてどこまでの竜だろうか。
プログラムを脳にインストールするとその戦闘能力を使える格闘プログラム保持者(ホルダー)。ヤクザの息子、鳴神大介もその一人だが、常に争いをさけようとしている。しかし彼の中に隠された秘密は、そんな生き方を許しはしない。
鳴神大介の周りには、徐々に仲間やクセモノやライバルや強敵が集まってくる。
他人の精神を思うままに操れるがゆえに、孤独に苦しみ続けるオズ。お節介焼きは天下無双、幼なじみのまりん。スポーツ選手としての人生を挫折した時沢沙織。殺人許可証をもつ<西の魔女>堂本亜夜。ナチュラルボーン最強の異能者、桂翁。気は優しくて力持ち、おまけに料理の天才の西平。
そして最悪の敵カイ。
実に色々な要素がぶち込まれた娯楽要素のごった煮。全然違う作品ではあるが、サイバーパンク格闘といえば、『銃夢』も実に多彩な出来事が連続する、自分を確立するまでの物語だった。
身体を失った人間が自分を再確立する。
機械やネットというものを、自然の一部として受け取れるようになった世代の若者の中には、肥大化した自意識や人生観を抱えて、いつまでも自分が好きになれない、幸せを感じられない人がいる。
自分が好きになれないから、幸せを感じられない。不幸だと思ってるから、その原因である自分が好きになれない。1個の人間の枠を越えて拡張された自意識は、人間を、少なくとも一部の人間を不幸にしているのかもしれない。
「ぼくはね、もっとずっとジコチューだからー。欲ばっかりなのー」
「どーゆーこと?」
本気でいぶかる大介に西平は丸顔をほんのり染めて照れ、恥ずかしそうに続けた。
「だからさー、あんなきれいな女の子と、ふたりで手つないで歩いたりさー、美味しいもの食べに行ったり、してみたいじゃんー? それか、夢みたいだけど、もし彼女がぼくを見て、ほっこらあったかく笑ってくれたら最高だよねーとか……そんなこと考えてるだけなんだよー」
「…………」
瞬間、大介は自分でも思いがけないほどの敗北感に襲われ、打ちのめされた。
西平の語るオズが、大介が想像したこともないほど人間らしく、幸せそうだったからだ。
その、想像したこともない、ということ自体がどうしようもなくショックだった。
オズの人としての幸せを望む以前に実は、幸福なるものを思い描くことすらできない――そこには、西平の半分も人生の可能性や人間関係を信じていない、信じられていない自分がいた。
なんてみじめな人間だろう。それよりなにより――
幸福を空想すらできないやつが、他人を幸せにできる……わけがない。
ゆえにこの種の物語において、主人公は身体性を取り戻す方へと進んでいくはずだ。すなわち、1人の人間が普通に実感できる範囲の人生を回復するのだ。
だからこそ、サイバーパンクにおいて格闘は不可欠の要素なのだろう。機械の体で身体性を回復することが、若者がネット社会で見失った幸福の実感を取り戻すことにシンクロする。無論、そんなに簡単ではない。
この辺り、ゲームにも話はおよぶ。何故ならゲームこそ、サイバーパンクそのものと言っていい。世間でSFが流行らないのも当たり前だろう。実物が目の前にある世界になってしまった。ゲームと身体性もまた、面白いテーマではあるのだ。
最近のゲームは、より高品質な映像で形成された世界に没入していく方向ではなく、むしろプレイヤーの身体性を強く実感させる方向へ進化している。また2ちゃんねらのような、ふだん運動してなさそうな人たちがビリーに飛びついているのも面白い現象だ。オタク系サイトでも「買いました」という話をよく見かける。身体性の回復はいまや現実の世界にこそ広がりつつある。
しかしそちらを掘り出すと、書評の域からは完全に外れてしまう。ここでいったん止めておこう。まぁとりあえず、身体を動かしたり、昼間に外を出歩くより、部屋で本を読むのが好きな俺らは、この本を買っとけってこった。
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デビューから10年以上、溜めに溜めたものを吐き出した新感覚サイバーパンク『シャギードッグ』
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