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経済小説+現代ファンタジー。金はそれを目撃していた 『ムシウタ 09.夢購う魔法使い』

ムシウタ 09.夢購う魔法使い岩井恭平

アニメが始まり、部数の拡大が期待される『ムシウタ』シリーズの最新刊。相変わらず、実験的な試みが好きな作者だなあと思う内容ですね。誉め言葉ですよ。『ムシウタ』が面白くなったのは、主人公・薬屋大介の視点にこだわらなくなった3巻以降だと思うんで。

この巻の異色な点は”虫”の出現という異常現象を、金の観点から追いかけているところです。人間の夢を食らうかわりに、宿主に超常的な力を与える”虫”が現れて10年。いつのまにかそういう社会になっていたものの、絶対に、最初の虫憑きが誕生した瞬間があるはずです。
「金という魔物は必ず、それが生まれた瞬間も見ていたはずなんだ。そこで私は真っ先にこの国の経済を調べ尽くした。すると十年以上前のある時期に、この国の経済が不可解な揺れ方をしていることに気づいた。国全体が動揺していたと言っても良い」

舞台にあがる彼らは商人
赤瀬川財団を受け継ぐ少女、金を操る魔法使い・赤瀬川七那。虫憑きたちの自由を守るゲリラ的組織「むしばね」を資金面から支える宗方槐路。売り手良し、買い手良し、世間良しの三方良しをモットーとする丁屋弐兵衛。3人の商人は、3つのキーワード「エンクロージャー」「バブル」「パラダイムシフト」を手がかりに、経済を牛耳る「円卓会」に接近する。

虫憑き同士の戦いもありますが、あくまでメインは商人同士の騙し合い。金を操る魔法使いたちの戦いは、忍耐と覚悟を要する知恵比べ。あたかも別の小説を読んでいるような新鮮さで、長丁場のシリーズの中では気の利いた趣向です。

『ムシウタ』シリーズは実の所、主人公の魅力はあまり感じませんが、群像劇になってからは、ぐっと面白さを増しています。巻を追うごとに新しい人物が登場し、彼らが後の巻でも登場し、様々な人物の思いと努力が積み重なっていく。そういう構成の方が色々な趣向を試したい作者の性格とも合っているように思いますね(だからたった1クールのアニメ化は、ずいぶん心配なんですよね)。

この巻でも過去のエピソードとの絡みがあります。読む前にぜひとも、『ムシウタbug』4巻の「15.夢守る魔法使い」を先に読んでおいた方がいいです。もちろんこの巻だけでもわかりますが、読んだ時の感動度はずいぶん違うはず。実際、ボクは次の日仕事だというのに、朝の4時までかかって一気に読んでしまいました。

理由は主人公の七那。言動はわがままで、金のことしか信じられず、酔っ払ってばかりで、八つ当たりで親友の人生を滅茶苦茶にするような人間です。殺されたって文句は言えない仕打ちを色々としてきた。
 赤瀬川七那という少女は、弐兵衛と逃げている間、「……」だの「……」だのとぶつぶつとカウントしていた。彼女が囁いている言葉を聞いて、戦慄した。彼女はあれほど茫然自失としていたのに、いちいち――自らに費やされたものの値段を数え続けていた。
 そんな行為をしていた理由は、おそらく彼女の言った言葉通りなのだろう。百万倍にして返すという大言壮語を、本気で実行できると信じて疑っていなかったのだ。
 怒りよりも先に、呆れ果てた。
 こいつは、金しか信じていない――。
 目の前にいる弐兵衛のことなど、まるで信じていない。視界に映っているのかどうかも分からない。そう考えると、彼女を助けているのが馬鹿らしくなって、こんなやつなどクリスティに殺されてしまえと思った。
8巻で七那が親友のきらりにした仕打ちを読めば、本当に殺されたって文句は言えない。でも悪かというと少し違うんですよ。金に善悪は無い、のと同じように、善と悪に分かちがたい。あえて言えば、クソ外道。金と同じく魔物の類です。

それは七那自身がいちばんよくわかっている。金しか持っていない人間であると。だから金で返せない好意を理解できない。他人から与えられたものはすべて借りであり、金で返さなければならないもの。他人の好意すべてを金額に変換して生きている。

にもかかわらず、七那は無償の好意によって救われる。彼女は自分では理解してないが、金以外に他人に与えられるものを持っている。その証拠がポチや”優しい魔法使い”鬼道ツカサです。鬼道ツカサの人生を変えた、救ったのは、七那のたった一言でした(しつこいけど、ぜひ『ムシウタbug』の4巻を読んでほしい)。

結局、人は自分が何を与えられるかに無自覚なのかもしれない。魔法のように金を操る、天才・赤瀬川七那の物語は、孤独と自己嫌悪との戦いだった。自分のことが大嫌いなすべてのあなたに、一読をオススメします。


関連
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テーマ:ライトノベル - ジャンル:小説・文学

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