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百合と拳銃の作家が送る最新作 『バニラ A sweet partner』

バニラ A sweet partnerアサウラ

『黄色い花の紅』で話題を集めた作家の最新作がついに登場。7ヶ月は思いのほか長かった。
デビュー作は、バイオレンスのあふれる世界に百合的な要素をほのかに匂わせた、美しく苛烈な小説だった。特に主人公の激しい感情表現は素晴らしかった。少女が無力さを痛感する場面、自分の境遇に対して怒りを覚える場面、激情を力に変える術を学んで戦う場面は、美しい激情がみなぎっていた。

唯一、欠点と言えるのが、作者の拳銃への過剰な愛情。小説を書きたいのか、銃について語りたいのか、どちらかわからないぐらいウンチクがあふれていたのだ。しかしその欠点は、最新作『バニラ』で完全に超克された。銃のウンチクが大幅に抑制され、小説としての完成度と面白さがぐぐっと増している。

後書きによると、丸々一本ボツを喰らっているそうだけど、その難産の末、これだけ洗練されたのなら、読者としては喜ばしい。確実に小説家としてのレベルは一段以上、上がっていると思う。

継母となじめずに家を追い出された少女と、ある出来事で男性恐怖症になった少女が、拳銃の力で未来を切り拓いていく。自分たちに不利なルールを押しつける世の中への反撃。理不尽へのカウンター。そして繰り返される狙撃事件。

他に手段は無かったのか。あったかもしれない。でも選ぶことはできなかった。追い詰めた状況が悪いのか、手にした力が凶暴なのか。いずれにしても暴力は決して無力ではない。力を行使した責任を求め、贖わせるのが社会というものだ。警察が徐々に彼女たちの正体に迫っていく。追いつめられた二人は、銃撃戦の果てにどういう結論を下すのか。

この結論に納得する人もいれば、ちょっと納得できない人もいるかもしれない。それは実際に読んで、自分の目で確かめてほしい。警察機構もマスコミも、大の大人たちを巻き込んだ大騒ぎ。最初から最後まで中心にいたのはこの二人だった。それを「痛快」と思うのは不謹慎が過ぎるか? 「バニラの房を口にする猿」になった大人でも、いやだからこそ、そう思うのだ。
「無理じゃない! 無理なんかじゃない! 絶対に当てる! 場所は……わかってる。だから、だから……当たるの!」
 そう言って再び構え直すナオ。でも間もなく閉じた瞼からは涙がこぼれ、焦りで、はっはっはと呼吸すらままならない状態になってしまう。銃口の先は落ち着きなく上下していた。
「もう無理だよ、ナオ。万全の時だってこの状況は難しい。それなのにそんな状態じゃ……」
「だって、ケイ……やられたままじゃ、いやだよ。それもケイがやられたのに、何もできないなんて。わたしは、やだ!」
 今やナオはライフルを構えたまま肩を震わせ、涙と鼻水を垂らしながら、それでもなおスコープを覗いていた。さっきまでのカッコ良さはもはやない。
「約束したじゃん、ケイにヒドイことした奴はわたしが倒すって」
 そしてナオにヒドイことした奴はあたしが倒す、と約束した。そう、約束したのだ。

お互いの心の欠落を埋め合わせるように繋がる二人。
百合的な描写はデビュー作より増えているが、必然性はあるし、助け合う二人は美しい。まあ、この大騒動の犯人が少年二人なら、世間も読者も許しはしないだろうけど(笑

思春期の少女二人が追いつめられていく状況を書くという点では、桜庭一樹の『推定少女『少女には向かない職業』に近いという意見もネットで見かけるが、僕はかなり違うと思う。桜庭作品が追いつめられていく心理状態を重点的に書いているのに比べて、この小説はそこまで力点を置いていない。

またこの小説では「殺人」という一線を簡単に越えていて、扱っている題材の割りに「軽い」。だからあくまで娯楽小説として、一気に読める。無論、それは失敗ではなく、作者の明らかな意図によるものだ。例えば、粗暴なナンパ野郎を狙撃するシーンの描写にも現れている。
 スコープ越しのこの距離ではかろうじてそいつが鼻血野郎であることがわかる程度。表情まではよくわからない。人を殺すというその感覚が薄くて良い。きっとハンドガンだけだったらこんなに頻繁に撃つことはなかっただろう。
こうした描写により、「軽さ」はフォローされ、リアリティが保たれる。

ともすると、現実感の希薄な少女たちがゲーム感覚で人を殺しているかのように受け取られないかねない危険性をはらんでいる。だが警察側の視点(大人の側)を導入した上で、警察側の人間が彼女たちの心情を追いかけていく過程をしっかり描き上げたことで、少女たちの世界と大人の世界は一瞬の接続を果たす。振り回された大人たちの役どころは「刺身のツマかアイスのコーン」に過ぎなかったかもしれないが、その時確かに、この作品はきちんと地に足ついたのである。総じて完成度があがった、デビュー第2作だと思う。

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テーマ:ライトノベル - ジャンル:小説・文学

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