Latest Entries
後輩と先輩の恥ずかしい関係 『ARIA 10』
ARIA 10(天野こずえ)

テラフォームによって人間が居住可能になった火星<アクア>に再現された、水の都ネオ・ヴェネツィア。水路を行き交うゴンドラを操る水先案内人<ウンディーネ>の視点から描かれた、アクアの風物詩が『ARIA』シリーズである。
水先案内人に憧れて、地球<マンホーム>から火星にやってきた水無灯里は、一人前<プリマ>を目指して修行を続ける。アクアの四季折々の風物にふれて1年が経ち、藍華とアリス、同年代の友達もできた。水の三大妖精と賞される3人の先輩や、アリア・カンパニーを創設したグランドマザーも加わって、彼女たちの時間は穏やかに過ぎている。
まったりした時間を過ごすうちに、この時間がなんだか永遠に続くんじゃないか、という気になってくる。大多数の読者も、灯里も、目標を忘れてたんじゃなかろうか。少なくとも僕はそうだ。けれどもこの巻で、彼女は次のステップを明確に意識するようになる。
憧れの先輩のもっと役に立ちたい、でも半人前の自分にはできる事が少ない。悩む灯里はトラゲットをやってみたらと勧められる。半人前は通常、単独ではお客を船に乗せられない。ただしトラゲットだけは例外で、半人前2人が渡し舟の前と後ろに乗って、河の対岸までお客を運ぶ。
いつもの友達と異なる、他社の人間と話すことで、灯里は自分の立ち位置や目標を再確認していく。半人前の彼女たちの会話は切実ではあるが、かわいらしくもある。
物語の世界に限らず、現実の世界でも、半人前というのは悩める年頃である。仕事は覚えて、多少の余裕ができてきた。けれども責任を全部引き受けさせてもらえないし、そこまでの自信はまだ持てない。やる気はあるが、このままでいいのかな、と迷いも感じ始める。
経験からいえば、若い人が辞めようかと迷うのも、だいたい3年目~5年目。そこそこの自信を持ち、一方で疑念も抱える頃。多くの人がそうした経験をしているんじゃないかな。僕はすでに、彼女たちにシンパシーを感じる年季は過ぎて、アリシアのように見守る立場に近いわけだけど、かつての経験と記憶を振り返りながら、微笑ましく読んだ。
この巻ではもう1つ、なかなか面白い話がある。
灯里とアリシア、藍華と晃、アリスとアテナ、3組の後輩と先輩はどこも仲が良いのだけど、教え方はそれぞれ異なっている。後輩と先輩の2人がいれば、まったく同じ関係にならないのは当たり前である。
一度も灯里を叱ったことがないというアリシアのやり方に、ふと疑問をおぼえるアリス。後輩が深刻なミスをしても叱らないのは、後輩の成長に無責任すぎるのでは? ちょっと冷たいんじゃないか?
それに対するアリシアの答えは……。
『ARIA』で描かれている世界は、美しく、穏やかで、優しく、善良さに満ちている。現実の世知辛さは完全に排除され、理不尽さが無いかわりに心くすぐる不思議さにあふれている。現実の会社を舞台にした物語とは、趣が異なる。見ているこちらが恥ずかしくなるような答えが返ってくるが、それが『ARIA』という作品の醍醐味である。いや、正直言って、うらやましい恥ずかしさなんだな。

テラフォームによって人間が居住可能になった火星<アクア>に再現された、水の都ネオ・ヴェネツィア。水路を行き交うゴンドラを操る水先案内人<ウンディーネ>の視点から描かれた、アクアの風物詩が『ARIA』シリーズである。
水先案内人に憧れて、地球<マンホーム>から火星にやってきた水無灯里は、一人前<プリマ>を目指して修行を続ける。アクアの四季折々の風物にふれて1年が経ち、藍華とアリス、同年代の友達もできた。水の三大妖精と賞される3人の先輩や、アリア・カンパニーを創設したグランドマザーも加わって、彼女たちの時間は穏やかに過ぎている。
まったりした時間を過ごすうちに、この時間がなんだか永遠に続くんじゃないか、という気になってくる。大多数の読者も、灯里も、目標を忘れてたんじゃなかろうか。少なくとも僕はそうだ。けれどもこの巻で、彼女は次のステップを明確に意識するようになる。
憧れの先輩のもっと役に立ちたい、でも半人前の自分にはできる事が少ない。悩む灯里はトラゲットをやってみたらと勧められる。半人前は通常、単独ではお客を船に乗せられない。ただしトラゲットだけは例外で、半人前2人が渡し舟の前と後ろに乗って、河の対岸までお客を運ぶ。
いつもの友達と異なる、他社の人間と話すことで、灯里は自分の立ち位置や目標を再確認していく。半人前の彼女たちの会話は切実ではあるが、かわいらしくもある。
物語の世界に限らず、現実の世界でも、半人前というのは悩める年頃である。仕事は覚えて、多少の余裕ができてきた。けれども責任を全部引き受けさせてもらえないし、そこまでの自信はまだ持てない。やる気はあるが、このままでいいのかな、と迷いも感じ始める。
経験からいえば、若い人が辞めようかと迷うのも、だいたい3年目~5年目。そこそこの自信を持ち、一方で疑念も抱える頃。多くの人がそうした経験をしているんじゃないかな。僕はすでに、彼女たちにシンパシーを感じる年季は過ぎて、アリシアのように見守る立場に近いわけだけど、かつての経験と記憶を振り返りながら、微笑ましく読んだ。
この巻ではもう1つ、なかなか面白い話がある。
灯里とアリシア、藍華と晃、アリスとアテナ、3組の後輩と先輩はどこも仲が良いのだけど、教え方はそれぞれ異なっている。後輩と先輩の2人がいれば、まったく同じ関係にならないのは当たり前である。
一度も灯里を叱ったことがないというアリシアのやり方に、ふと疑問をおぼえるアリス。後輩が深刻なミスをしても叱らないのは、後輩の成長に無責任すぎるのでは? ちょっと冷たいんじゃないか?
それに対するアリシアの答えは……。
『ARIA』で描かれている世界は、美しく、穏やかで、優しく、善良さに満ちている。現実の世知辛さは完全に排除され、理不尽さが無いかわりに心くすぐる不思議さにあふれている。現実の会社を舞台にした物語とは、趣が異なる。見ているこちらが恥ずかしくなるような答えが返ってくるが、それが『ARIA』という作品の醍醐味である。いや、正直言って、うらやましい恥ずかしさなんだな。
スポンサーサイト