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落ち着いて眠れる場所 『月光スイッチ』

月光スイッチ橋本紡

橋本紡の小説には、奇妙な特徴がある。行動と場所の関係がちょっとズレているのだ。『毛布おばけと金曜日の階段』では、美人で人当たりの良い「お姉ちゃん」が階段の踊り場で毛布にくるまっている。「わたし」とお姉ちゃんとお姉ちゃんの恋人は毎週金曜日、階段の踊り場にケーキやお菓子を並べて、ちょっとしたパーティをする。『流れ星が消えないうちに』の玄関に布団を敷いて寝ている。他の場所では寝つけない。

そしてこの『月光スイッチ』では、押入れの中でないと寝られない、ときた。言うまでもなく、階段の踊り場はホームパーティをする場所ではないし、玄関は寝る場所じゃないし、押入れで寝るのもドラえもんぐらいだろう。

もちろんこれは意図的な演出だ。その時点では、読者はまだ状況が飲み込めてない。けれども本来寝るべき場所で眠れないのは、なんだか不安定で落ち着かない感じがする。主人公がいるのは、一時的な、擬似的な、仮の場所。そういう感じがする。おそらくずっとそこに居ることはできない。しかし少なくとも小説の開始時点において、彼女たちはそこにいないと生きていくことはできないのも確かだ。

なにしろ、「わたし」は不倫相手のセイちゃんの妻が妊娠で留守にしてるのを見計らって、期間限定の同棲生活をしている最中なのだ。台所にいけば、相手の妻のそろえた調理器具がずらりと並んでいる。不在の間の占領は、愚かさと虚しさと暗い喜びと後ろめたさを伴っている。


もう1つ特徴的なのは、親の存在感が希薄なこと。情けない親、子供を捨てる親が珍しくない。『半分の月がのぼる空』の主人公とヒロインは共に、父親を亡くしている。『毛布おばけ』の主人公も、父親を交通事故で失っていて、母親は心が折れて病院に入ることになり、残された「わたし」とお姉ちゃんは二人で暮している。『猫泥棒』では、父親はいなくなってるし、母親にしても小説の冒頭が「お母さんが家出した」。『流れ星』の主人公である菜緒子は、九州に転勤した父親、母親、妹とは離れて暮している。そして母親と喧嘩した父親が彼女の所に転がり込んでくる。

『月光スイッチ』では主人公の親はまったく書かれない。存在するのか、不在なのかもわからない。だが、この小説の設定を思い出してみよう。「わたし」の恋人のセイちゃんは、胎内にいる子供と妻を置いて、別宅の1つで不倫に勤しんでいるわけだ。

また、2人が同棲するマンションには様々な住人がいる。中には、夫と離婚し、シングルマザーとして娘を育てている女性もいる。どうも、橋本紡はリアルの親子を信じきってないようなところがある。むしろ赤の他人どうしが出会って、「擬似家族」的なつながりを築き上げるほうが何倍もリアルだと感じているかのようだ。

奇妙な住人がすむマンションの奇妙な同棲生活。
その終わりがどうなるか、10人が10人、予想がつく事だろう。橋本紡はそこで奇をてらうタイプの作家ではない。仮の空間の、擬似的な家族。橋本紡作品の特徴をまとめると、そういう事になる。「擬似家族」モノが好きな人には、強くお薦めする。

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