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「もっと」戦略崩壊に見る、実用ソフトの「終わり」

期待を大幅に下回った『もっとえいご漬け』の売上

累計実売170万本を越える『えいご漬け』の続編、『もっとえいご漬け』の売上が低調です。発売週の本数でみて、26万本の前作と5万本弱の今作。あまりに大きな開きがあります。『もっと脳トレ』が『脳トレ』以上に売れた事例もあり、甘い期待を抱いた流通関係者もいたはずです。
ゲームソフトが売れた理由を分析するのは存外難しいものです。売れた要因はクオリティ、宣伝、テーマなど色々あります。けれども1つ確かなのは、続編が売れ続けるには、ユーザーの満足度が非常に重要だということです。前作に満足しなければ、次は買いませんから、売上は伸び悩みます。

ごくシンプルに考えれば、『えいご漬け』を買った人の満足度が低かったから、『もっとえいご漬け』を買わなかったのでしょう。しかしこの場合の満足度とはなんでしょうか? グラフィックですか? 面白さですか? いえ、一番は学習効果でしょう。

『脳トレ』で楽しく頭をきたえた人たちが、今度は『えいご漬け』で楽しく英語を身につけたいと考えてソフトを購入したものの、長続きしなかった。英語力が高まらなかったのでしょう。

他にも、
  • 『えいご漬け』の発売から時期が開きすぎた。
  • 『脳トレ』と違い、面白さに欠ける。
  • 『えいご漬け』でも十分難しく、さらに上級と思われる『もっと』に挑戦しようという意欲がわかなかった。
……などの理由が考えられます。コナミの『NOVAうさぎ』を始め、『えいご漬け』以外のDSの英語学習ソフトもまったく売れていませんから、ユーザーはDSで英語学習することに過度の期待をしなくなったのでしょう。本やCDや英会話教室などに比べてどの程度効果的なのか、ユーザーの目に現実が見えてきました。

昔から多くの英語教材が現れては消えていきました。「これなら、私でも簡単に英語が身につく!」と期待された商品は大ヒットしますが、実際にはなかなか身につかないわけで、その結果、だんだんブームが冷めていきます。『えいご漬け』もその1つだったのでしょう。


実用性と娯楽性のバランス

2006年は数多くの実用ソフトが発売され、実用ソフトの面白さについても議論になりました。『脳トレ』は実用性の皮をかぶりながらも、中身はゲーム集でした。面白さの比重が高く、楽しみながら使えたのです。

ゲームは反復してだんだん上手くなる過程を楽しませる娯楽です。原理的にはトレーニングと親和性が高いのです。その頃のゲーム制作者の理解は「実用ソフトといっても、ゲーム的な原理、面白さがあるからこそ、ヒットするんだ」というものでした。

しかし『えいご漬け』『お料理ナビ』と、実用ソフトが続くにつれて、徐々にゲーム性は薄れていきました。『えいご漬け』はお勉強の要素が強く、『脳トレ』のような楽しさを期待した人からは、失望したという意見も聞こえてきました。でも『えいご漬け』はよく売れました。
実用性と娯楽のバランスは難しい

そして夏には『お料理ナビ』がヒットしました。衝撃的だったのは、『お料理ナビ』がトレーニングソフトではなかった点です。それまで、『楽引辞典』や『指さし英会話』といった、非トレーニング型の実用ソフトはさほど売れていませんでした。

『お料理ナビ』が売れたことで、実用性と娯楽性のバランスについての議論は、ネットでは見かけなくなりました。そして『もっとえいご漬け』が発売され、前作を大幅に下回るスタートとなりました。


過剰な期待が現実に変わるとき

『脳トレ』で楽しく脳を鍛えられた体験により、DSはただのゲーム機ではなくなりました。「DSなら続かなかった○○○○が続くんじゃないか」という期待感がふくらんだのです。DSの爆発的な普及に後押しされ、ソフト市場も爆発的に拡大。人々は色々なテーマの実用ソフトを購入しました。

ソフト単体の品質は当然として、『えいご漬け』や『お料理ナビ』はその勢いに後押しされたおかげもあったでしょう。けれども過剰な期待感は、やがて現実に変わります。実際に購入して使ってみれば、どの程度楽しく学べるのか、本にくらべてどれだけ役に立つのか、はっきり理解できます。

つまりDSの実用ソフト市場は、過剰な期待から現実へと着地しつつあるフェーズに入った、といえます。なんだかんだいって、ゲームの「何度もくり返したくなる」仕掛けのノウハウは、大したものなんです。それが再認識されるんじゃないかな。

ボクはレシピソフトの市場も懸念しています。『お料理ナビ』や『健康レシピ1000』は、レシピソフトとして異例の売上を達成しましたが、売上ランキングを見ると、『脳トレ』や『えいご漬け』に比べて売上の鈍化ペースが早い印象です。

本屋にいくと、料理本はまだまだたくさん棚を並んでますから、料理というテーマへの関心が下がったわけではありません。おそらくは、ゲームの内部に毎日続けさせるための仕掛けが無く、持続力が弱いためでしょう。


どこで終わったかが大切

実用ソフトが通常のゲームと異なる点はいくつもありますが、その中で特に大きいのが「エンディングが無い」ことです。RPGなどのストーリーゲームは、終わりを迎えて、世界が平和になったり、登場人物たちがハッピーになって、プレイヤーは感動し、満足します。

では実用ソフトは、どこで終わるのでしょう?
まず考えられるのは、途中で飽きた時、途中で挫折した時です。しかしこれって最低ですよね。プレイヤーが満足した状態で終わらない。すると次は買わなくなります。

学習ソフトは段階的に勉強します。学習ソフトをやめた時、多くのプレイヤーは最終段階をクリアしているでしょうか? いえ、おそらくは段階の途中で挫折しているのでしょう。レシピソフトを買った人は、起動しなくなった時点で、実際にいくつの料理を作ってるんでしょうか。

一方、『脳トレ』は前提となる知識や技術がほぼゼロのため、挫折しにくいですし、ある程度満足した所でやめやすいんです。脳年齢が20歳になった時、実年齢より下がった時、すべてのゲームがオープンした時、……。それなりに満足感をもって終われる区切りがあるんですね。


終わりの無いゲームの終わり方

多くの実用ソフトは、毎日使ってもらうことを、毎日継続してもらうことを念頭に置いています。理想はエンドレスです。けれども実際には、大多数のユーザーはどこかでやめてしまいます。だから気持ちよく終われるように作っておかなければいけないのです。終わりの無いゲームで「終わり」を意識する。これはちょっとしたジレンマです。

3日か、1週間か、2週間か、1ヶ月か。大半のユーザーがどこでやめてしまうかは、ソフトの内容にもよるでしょう。そこでやめた時に、自分で立てた目標を達成できているのか、ゲーム内の大半の要素はオープンしているのか。そういうことが大切です。

最近いくつかの会社の実用ソフトを遊んでいて、とても気になったのは、ゲーム内の要素を出し惜しみし過ぎている点です。中身が見えているのに、グレー表示で選択できないメニュー。しかもクローズドの要素が圧倒的に多く、最初はチマチマした物しか選べず、1回目のオープンまでにつまらないプレイを反復させられる。

毎日続けさせることを意識するあまり、出し惜しみしすぎて、それこそ3日も続かないソフト。それはまるで、後半のステージに派手で、楽しい要素を持っていき、序盤はつまらなくてショボいステージが連続するゲームと同じです。

長い期間、毎日遊んでもらいたい。けれども大半のユーザーは途中でやめてしまう。このジレンマに対して、どう落とし所を作るのか。「終わり」のゲームデザインが重要なのです。

コメント

DSで始まった知育系ゲームのブームですけど、その実用度の部分で疑問符がつき始めたのは事実でしょうね。
実は知育系をやっても殆ど向上しないことをみんな実感してきてます。
今までは頭の体操的な内容が多くて、それが即実生活の上で成果として見えてこなかったぶん、売れていたんでしょう。

しかしテーマが英語や料理など、実際の成果として直結するようなものになってくると、ゲームをしばらくやったのに英語力が向上しなかった、料理がうまくならなかったなどと成果の伸びの無さを実感してしまうようになります。
楽しくゲームで向上するはずがあんまり向上してないとなると、娯楽的な投資よりも実際の英語教本や英語スクールにいったほうがいいに決まっているという当たり前の結論に落ち着いてしまい、あくまでゲームのカテゴリーに入っているDSソフトはまず投資対象から外されることになります。

いっそのことゲーム要素を廃して純粋に辞書ソフトとか会話文ソフトといった実用ソフトとして売ったほうがいいような気がしますね。持ち運んでいるDSでゲームをするときはゲームをし、必要となったら実用ソフトを刺して実用的に使うというPDF的な使い方へ。

終わりのないゲームの難しさというのは実用ソフト以外でもあてはまりますね。
どのような形で満足させるのか、どのような形で次回作につなげていくのか。

今回の記事を見て、どうぶつの森がすごく心配になってきました。
DS版約400万のうち、どれだけの村が現在も稼働しているのか。
稼働していない村の持ち主はどのような形でそれを終わらせたのか。
あの独特のゲーム感覚は、話題性込みで400万にふくれあがった
ユーザーのうち、どれくらいの人に理解されたのか。
どうぶつの森Wiiを最大のキラータイトルの一つと位置づける向きもありますが、
状況によってはまさかまさかの結果も、と・・・。

>Dさん
所詮はたかがゲーム機ですからね。本に比べれば、コストは高いし、よほどの効果がなければ、ボクは個人的には買う気がしません。ただ、一度これだけ広がったマーケットですから、ある程度沈静化するとしても、一定の市場は残るでしょう。ほぼゼロになるというような事は無いと思います。

DSの実用ソフトって、本屋にある種本をゲームに持ってきているだけですからね。種本の部分を開発しなくていいから、短期で作れるわけで(ただし、ゲーム化するときに「快適化」する、「満足して終わってもらう」部分は、ゲーム制作者の腕の見せ所)。今は安易な低コストなものが多いけど、じっくり腰をすえて効果を研究していけば、もうちょっと深い所にいけるかもしれません。が、それには3年とか5年とか、長い取り組みが必要でしょう。

『レイトン教授』や『もじぴったんDS』の売れ方を見ていても、お勉強よりは、ちょっと頭を刺激する程度の気軽なものを求めている人のほうが多いんだな、と思います。

まぁ 2006年の売上がちょっと異常で、永遠にあれだけ売れ続けるはずはないので。けれども「もっとえいご漬け」の初週5万本だって、十分売れている数字ですし、一般にブームってのは存外、長く食えるものです。「そろそろピークかな」と思ってももう一段階伸びたり、「もう終わったよね」といわれてもなかなかの利益が上がったり。ブーム的なものは今年1年かなと思いますが、商売としてはまだ3年ぐらいは回していけそうです。

実用ソフトブームで、中小企業にチャンスが回ってきたり、ゲーム業界における他業種との連携が進んだり、副次効果が「次」になにを生むのかも興味深いですね。ボク個人の関心は「次」ですね。


>ちょっと気になるさん
>終わりのないゲームの難しさというのは実用ソフト以外でもあてはまりますね。

今回はあえて触れてませんが、おっしゃるとおり、オンラインゲームや、一部の非ストーリーゲームにも当てはまりますね。「終わり」のゲームデザインというのは、それだけで本1冊は書けそうなほどのテーマです。

日本のゲーム制作者は、欧米とくらべて伝統的にエンディングを重視する傾向があって、オチをつけたがるんですよね。しかし近年は、日本でもオープンエンド志向のゲームが増えてます。オープンエンド志向には慎重な姿勢を示していた堀井雄二氏や宮本茂氏のような著名クリエイターがここ数年で、オープンエンド志向を鮮明化しています。

おそらく昔から可能性は感じていたんでしょうが、製作技術として現実に作れるか、ユーザーに理解されるか、ネットの普及がどれだけか、会社の理解が得られるか、といった点で、慎重にならざるを得なかったんでしょう。たぶん。

堀井氏の『ドラクエ9』はいい例ですよね。ファミコン時代からずっと、ネットゲームを作りたいと語っていただけに、期待もふくらみます。堀井氏はうまく皮をかぶってますけど、根本的にはかなりゲーマーですから、内に秘めたオープンエンドへの憧れは強かったんじゃないかと思います。

宮本氏も、オチをつけたがる傾向が強い一方で、『ピクミン』→『nintendogs』の変遷は興味深いですね。『ピクミン』なんかは、オープンエンドな作りにしてもいいはずなのに、結局、構造は非常にゲームらしくまとめてしまって、ジレンマが見えるゲームでした。

日本におけるオープンエンド志向の先頭は、両氏の代表作ではなく、『ポケモン』と『どうぶつの森』です。オープンエンド志向のゲームは、当たっときの爆発の仕方がすさまじいですね。(日本のゲームは、古典的な構造とか、オチの美学みたいな所で評価されがちなので、ゲームを語る言説がもう少し豊かになってもいいかもしれません)

余談がすぎましたが、どうぶつの森に関しては、N64、GCと続いてきて、ユーザーが大きく減っている印象は無い(DSでは激増した)ので、満足度が高いソフトなんじゃないかな、と思います。とはいえ、「ちょっと気になる」さんが指摘しておられるように、DS版で初めて買った人のほうが圧倒的に多い状況ですから、過去の実績をそのまま適用はできないかもしれませんが。

Wii版については、単純に「1人1台」の携帯機から「1家に1台」の据置機になる影響が大きそうな気がします。据置機でスタートしたタイトルですが、実は携帯機向きの内容だったわけですし。内容が全然発表されてない段階で予想するのは、無意味ですけれど、400万本は無茶かもしれませんけど、キラータイトル級(仮に100万本以上)は売れると思いますけどね。普通に考えて。

どうぶつの森のWii版はやっぱDSほどにはいかないでしょうね。
DS版だとソフト1本につきデータ1つってのもあれだけの売り上げを叩き出せた理由でしょう。
やっぱ誰だって自分の村で遊びたいですし。
それに似たシステムにするとしてもSDカード1枚につきデータ1つとするぐらいでしょう。

ちなみに私の村はもう全く稼動してないですね……
虫と魚をコンプしたせいもありますが一番大きいのは諸事情で数日間ゲームを遊べなかったせいかな。
あのゲームは1日ちょっとずつのプレイでいい代わりに継続してやるってのが1つのポイントだと思うんですわ。
でも何かの拍子で数日プレイに穴が開くとやる気が失せるんですよね。
プレイできなかった間にお気に入りの住人が引っ越してたり、やっとの思いで咲いた花が枯れてたり、限定家具入荷してたりしますし。
多分今はもう稼動してない人の辞めた理由の大半はそんなとこじゃないでしょうか。

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