Latest Entries

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

すべてを呪詛する毒舌文体 『ネクラ少女は黒魔法で恋をする』

ネクラ少女は黒魔法で恋をする熊谷 雅人

ライトノベルにおいて大切な要素は、なんだろうか?
イラスト。うん、否定できない。
キャラクター。そうだね、魅力的なキャラこそ、ライトノベルのエンジンだからね。
ストーリー。ま、グダグダなのも時々あるけど。
文章力。……そりゃ無いとね。いちおう。

これらに加えて、忘れてはいけないのが作家ならではの独特の文体だ。
ライトノベルに決定的な転換点(ターニングポイント)をもたらした『スレイヤーズ』の神坂一や、『ブギーポップ』の上遠野浩平、戯言シリーズの西尾維新、『空の境界』の奈須きのこ、『キノの旅』の時雨沢恵一、『涼宮ハルヒ』の谷川流といった例を引くまでもなく、ライトノベルにおいて文体は、作家の独創を具現化する最強のツールであり、言語化された肉体そのものに他ならない。

そこまで有名な作品を引かずとも、『バッカーノ!』の成田良悟、『円環少女』の長谷敏司、『ROOM No.1301』の新井輝、『オイレンシュピーゲル』の冲方丁など、枚挙に暇が無い。幾多の作家が幾多の文体を手に、読者に挑むのがライトノベルという名の戦場だ。特異な文体をもちいて特異な世界を表すだけが文芸ではない。桑島由一やヤマグチノボルのように、平易きわめる文体をもちいて、ノリ良く、テンポ良く、驚異的なリーダビリティを達成する作家もいる。

この武器を持たない作家はいずれ消えていく。
と言っても間違いではない。


さて、この『ネクラ少女は黒魔法で恋をする』はその武器をきちんと獲得した作品である。主人公・真帆の一人称にこめられた怨念が圧巻。本をめくった1ページ目から、自分と自分を取り巻く全てに対する呪詛に満ちている。

何か起こるたびに悪い出来事に思える、周囲の全員から悪意を感じる、つねに不幸を実感している、味方なんて誰もいない。陰鬱をきわめる心はまさに黒魔法少女。
 周りの人間が呆れたような表情をする。人を小馬鹿にしたようなため息が教室の方々からこぼれ、この狭い空間に渦巻き、わたしの周りを取り囲む。二酸化炭素と中傷を大量に含んだその空気が振動し、他の生徒の失笑を伝えた。
 ……こいつら、呪ってやる。
 ああ、陰鬱な気持ち。いつだって、わたしはみんなにバカにされている。卑下されている。見下されている。要するに、わたしは超嫌われている。
 チャイムが鳴った。最悪のタイミング。あと数分早く鳴っていれば、わたしはこんなに悲しい思いをしなくてすんだのに。どうやら、神様までわたしのことが嫌いらしい。マジで鬱になる。

自分に自信をもてない、自分を好きになれない人間の心理なんて、大なり小なりこんなものだろう。世界を規定する基点が自分。自分を好きでないから、世界を好きになれるはずもない。不安定な中高生や、増田(はてな匿名ダイアリー)界隈には、この娘に共感する人もいるのではないか。

『NHKにようこそ』のように、呪詛小説は確かに読んでて面白いが、文体力が必要なジャンルだ。この本にはそれがある。ひきこもり小説ほど絶望的な状況ではなく、むしろ心の持ちようの問題で、自分自身を追い詰めているわけだが、それは彼女がまだ若いせいもあるだろう。

高校生はまだ、何にでもなれるような気持ちを持てる年代である。少なくとも幻想の生きる隙間は十二分にある。呪詛がどれだけ陰鬱でも、彼女の生来の健全な思考はまだどこかにある、と期待して読み進められる。

だから、たとえこの呪詛が世界を覆いつくしても、毒舌が天地に満ち満ちても、本気で絶望することなく、つき合える。世界を呪う以外の手段を知らない、この内気で後ろ向きな女の子が成長するさまを、どうか温かく見守ってほしい。

スポンサーサイト

コメント

コメントの投稿

メールアドレスおよび名前の無い投稿はすべて掲載不許可となります。また明らかに偽のアドレスの場合も不許可です。

管理者にだけ表示を許可する

«  | HOME |  »

2017-10

  • «
  • 1
  • 2
  • 3
  • 4
  • 5
  • 6
  • 7
  • 8
  • 9
  • 10
  • 11
  • 12
  • 13
  • 14
  • 15
  • 16
  • 17
  • 18
  • 19
  • 20
  • 21
  • 22
  • 23
  • 24
  • 25
  • 26
  • 27
  • 28
  • 29
  • 30
  • 31
  • »

検索



カテゴリー

月別アーカイブ

最近の記事

最近のコメント

連絡先

RSSフィード

忍者カウンター

 

 

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。