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才能と葛藤の物語 『ダン・サリエルと白銀の虎』

しばらくお休みしていたが、そろそろ書評を再開しよう。

神曲奏界ポリフォニカ ダン・サリエルと白銀の虎 神曲奏界ポリフォニカシリーズ (GA文庫)

複数の作家が執筆しているシェアードワールド「神曲奏界ポリフォニカ」の1作品ではあるが、他作品とは雰囲気がかなり違っていて、精霊どうしのバトルは無く、設定や歴史もあまり絡まないので、この本を単独で読んでも十二分に楽しめる。

神は八つの腕で音楽を奏でて世界を創造した。それがポリフォニカ大陸。
音楽を糧として生きる存在、精霊――彼らは人間が生み出す音楽と引き換えに人間では行えない奇跡の力を提供する。精霊のための音楽、創世の音楽の一端を「神曲」と呼び、神曲を奏でる特別な才能を「神曲楽士」という。

あざの耕平の描く『ダン・サリエル』シリーズは、神曲楽士と精霊の関係ではなく、おもに人間の側、若い音楽家たちの悩みと葛藤に焦点を当てている。神曲楽士が精霊のために音楽を奏でるのに対し、音楽家は人のために、自分のために音楽を奏でる。

若き天才、楽界の革命児と呼ばれるダン・サリエルは傲岸不遜で傍若無人な男である。幾つものコンクールで優勝し、コンサートを開けばほぼ満員状態。親しみやすく、わかりやすい演奏に加えて、整った容姿とかっこよい態度と口上で、女性を中心に高い人気を集めている。

一部のパトロンのための音楽ではなく、真に大衆的な音楽をめざすサリエルは、楽界の老人達とぶつかることも多い。彼にとって音楽はみんなのもの、誰もが楽しむもの。音楽を一部の人間に閉ざす行為は許せない。理想に燃えて、楽界の旧弊な体質に反発し、反抗し、それを実行できる才能にあふれている。

その反面、サリエルはコンプレックスも抱えている。自ら好んで、大衆のための音楽を志向しているにも関わらず、自分の音楽が一過性の流行に過ぎず、芸術の高みに届かないことに引け目を感じていた。

彼は音楽に対して真摯で、あまりに正直すぎた。大衆からの人気で自分を偽ることができない。大衆が真にすばらしい音楽を理解できないこともまた、誰よりもわかっている。自分の音楽が大衆に受けがいいだけの薄っぺらい音楽だと、ずっと悩み続けているのだ。

何たる矛盾! だがそれが人間臭さというものだ。
世の中には無数の物差しがあり、多くの人間は複数の物差しを持っているのだ。自分が望む物差しで計ってもらえない事など、日常茶飯事ではないか。あらゆる表現者が抱える悩みでもある。


サリエルはコンサートの終わった後、偶然出会った白銀の虎――上位精霊コジに自分の抱える葛藤を指摘される。感情的に反論するも、コジを気に入ったサリエルは契約を申し出るが、あっさり断られてしまう。コジにはすでに決めた相手がいるのだという。キーラ・アマディア。名門<七楽門>に連なるキーラ家の神童である。

サリエルは傲慢な男である。名門? 神童? 俺様の知ったことか。意固地になった彼は、どちらの演奏が優れているかを示すため、キーラ・アマディアの住んでいる土地まで出かけていく。

名門の令嬢が住んでいるにしては辺鄙な町の道端で、チェロを演奏する女性に出会う。それは素人目にも下手くそとわかる、ひどい演奏に聞こえた。彼女は通りがかった村人に嘲笑され、尻尾をまいて逃げ帰ってしまう。聞けば、彼女こそ、キーラ・アマディア当人だという。お屋敷から外に出てきては下手くそな演奏をして去っていく彼女は、村での笑い種になっているらしい。

しかしサリエルは、外での演奏が彼女の本当の音楽ではない、と見抜いていた。かつて神童と呼ばれた女性に何があったのか。精霊コジが彼女と契約すると決めている理由とは。サリエルは彼女の「秘密」に迫っていく。

続きはぜひ表題作『ダン・サリエルと白銀の虎』を読んでほしい。読み終わる頃にはサリエルという傲慢な男の別の、魅力的な一面が浮き彫りになっているはずだ。傲慢で意地が悪く、しかし誰よりも真剣に音楽に向き合い、ゆえに矛盾している。だが前へ進む力を持っている。

このシリーズは短編連作という形式を取っており、1巻には4話の短編が収録されている。表題作に加えて、ポリフォニカシリーズでも屈指のコメディ『ダン・サリエルと栄光のヤマガ00壱型』、サリエルの「芸術」への葛藤が描かれる『ダン・サリエルと孤高の老楽士』、契約精霊のモモの視点でつづられる、癒される短編『モモ・パルミラ・ファルスタッフの幸せな一日』。

シリアスもコメディも織り交ぜられ、バランスの良い短編集に仕上がっている。なお、表題作はポリフォニカシリーズの短編集『ぱれっと』に収録されていて、そちらが初出になっている。評判が良かったため、独立したシリーズとして続くことになったようだ。


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