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本当の問題はどこにあるのか? 理念と戦略/ビジネスモデル/環境のズレ

任天堂の株価が再び下落しているようで、従来ぶ厚い岩盤だった1万円の底が抜けてしまうと、1ランク下に地滑りする可能性もあります。

任天堂、失望売り誘った2つの誤算
1つは携帯型ゲーム機「ニンテンドー3DS」の値下げが海外で通用せず、想定以上の販売不振の状況が決算で明らかになったこと。
 「日本における3DSの販売状況と比べると、(欧米市場には)全然勢いがない」。26日の決算会見で、岩田聡社長はこう漏らした。
前期の営業損益が赤字に転落する見通しだと発表したその場で、岩田社長は「13年3月期は任天堂らしい利益水準を取り戻す」と力強く明言。これが独り歩きする格好で市場には強気の見方が広まり、「13年3月期の営業損益は1000億円の黒字に回復する」といった観測にまで結び付いた。

 今期の会社予想は「任天堂らしく保守的に見積もった数字」(前田氏)と専門家はみるが、「多くの投資家はもっと力強い数字を期待していたはずだ」(ドイツ証券の菊池悟シニアアナリスト)。27日の株価急落の背景には、市場との対話不足があった面は否定できない。

株価の下がっている要因は、欧米での3DSの販売ペースが年明け以降、芳しくないこと。年末商戦と大幅な値下げで、DSから3DSへの移行を大きく前倒ししただけという危うい現状が露呈しています。

またもう1つは今期の黒字額が投資筋の期待値を下回っていること。これは岩田社長の過去発言「任天堂らしい利益水準」がひとり歩きしたのが原因です。上場来初めての赤字を出したことで、次期こそは!という意気込みが言葉に出てしまったのかもしれませんね。

しかしこうした目標値に関するコミュニケーション不足はまだ良いのです。いずれにしても、実態が変わるわけではありません。より深刻なのは将来的なビジョンが見えなくなってきたことでしょう。実際、決算説明会の質疑応答において、「ゲーム人口の拡大」戦略への疑問が発せられています。

2012年4月27日(金)決算説明会 質疑応答
ちょっとアンチテーゼ的な質問になるが、任天堂らしいかどうかは別にして、業績回復に向けての基本戦略は、長らく「ゲーム人口の拡大」という話だった。アンチテーゼというのは、「果たしてこれでいいのか」ということを質問するからで、今までマネジメントの方々が重視してきた一つの指標である世帯当たりのユーザー数と、単年度ないし複数年度累計の利益の相関関係というのは必ずしも高くないと思う。ゲーム人口の拡大というのは、いうなれば恒常的な課題であって、これから復活を期するには、その進捗をマイルストーンごとに確認するためのもっと具体的な目標が必要ではないか。

なんとも非常に痛烈な質問ですね。
美しい理念を掲げているが、それが売上と利益に結びついてないではないか、という本質を突いています。ゲーム人口が増えれば、ゲーム専用機を購入するユーザーが増え、ハードウェアのインストールベースが拡大することでソフト売上も伸びていく。それがDSとWiiの成功スパイラルでした。

しかしこの2年ほどの任天堂は明らかに変調しています。それは3つの問題があるからです。

1.理念と戦略のズレ
奥の深さの追求を掲げており、コアゲーマー向けのラインナップを増やそうとしており、軸がぶれた。軸がぶれることでメッセージが不明確になり、全体として半端な印象を与えてしまっている。またゲーム人口を拡大するためのラインナップが相対的に減ってしまった。

この件に関しての岩田社長の説明はなかなか驚かされるものです。以下に引用します。
今回、過去のニンテンドーDSやWiiの時と比べて、ニンテンドー3DSでは、いわゆるユーザー拡大型のソフトウェア展開が遅いように見えているということについては、ある程度考えてやっていることでもあります。最初にお客様が、「この機械は自分たちのものではない」と受けとめられた場合、後からその認知を変えることはとても難しいということを私たちは学んでいます。そのため、まず私たちは「幅の広さと深さを両立させたい」と申し上げてニンテンドー3DSやWii Uを展開(略)
両取りを狙って失敗したという事が露呈しています。ゲーム人口の拡大という理念はどこへ行ったんだ、と誰もが突っ込みたくなります。やってはいけない事の典型でしょう。せっかくDSとWiiで取り込んだユーザーを自らの戦略ミスで失ってしまったわけです。

2.理念とビジネスモデルのズレ
DSとWiiの世代においては、ゲーム人口が拡大するにつれて、任天堂のゲーム機のユーザーも増えていくという良い循環を作り出せました。しかしDS→3DSでは、拡大したユーザー人口をスムーズに引き継げませんでした。「DS」というブランドを過信し、「3DS」という名称であれば、ユーザーがそのまま付いてくると考えた任天堂の過信の現れです。

キャリアのように端末を乗り換えても継続を引き継ぐようなビジネスモデルであれば、ユーザーを囲い込んで引き継いでいくことができますが、旧来のビジネスモデルに固執したことが裏目に出ました。将来的にはネットワークアカウントが重要になる。それが見えていなかったのでしょうかね……。この点はアップルが非常に巧みにユーザーを囲い込んでいますね。

3.理念と環境のズレ
F2Pビジネスが広がったことで、多くの人達が基本無料のゲームに流れていき、ゲーム人口=ゲーム専用機人口という図式が大きく崩れてしまいました。F2Pビジネスは、膨大なユーザー母数の一部にアイテム等を購入してもらい、その売上でユーザー全員に対するサービスのコストを賄います。

ユーザー母数の増加がそのまま売上と利益につながりやすい構造になっており、ゲーム人口拡大→F2P人口拡大→課金ユーザー拡大→収益増加というスムーズな流れが形成されています。「ゲーム人口拡大」戦略は、任天堂のようなパッケージゲーム型の企業よりも、ソーシャルゲーム企業のほうがメリットが大きいのですね。

(従来ソーシャル企業は、SNSというコミュニティに集まったユーザーに対してゲームを提供していました。SNS人口拡大→SNS内のゲーム人口拡大→F2P人口拡大→課金ユーザー拡大→収益増加という流れですね。スマートフォンへの移行が進む中、今後はSNS人口拡大、SNS内のゲーム人口拡大が再び焦点になっていくのではないか、と思います。)


任天堂の将来像がぼやけ始めているのは、3DSの初動がたまたまコケたというような具体的な事象が問題なのではありません。上記の3つの問題によって、任天堂は掲げた理念が揺らぎ、理念とビジネスモデルが不適合を起こし始めて、説明しにくくなっているからです。

かつて任天堂は、熱狂的なファン以外にも、アーリーアダプター等からの支持を集め、ネット上で誰もがしたり顔で任天堂の戦略を解説してみせました。それはドヤ顔な人達が賢かったのではなく、任天堂の唱える理念が明確で、その理念からビジネスモデルや具体的な戦略が誰にでも導き出せたからです。アップルは今なお、理念とビジネスモデルが適合しています。そこがアップルと任天堂の運命を分けたのです。

したがって必要なのは、理念を修正するか、理念にあわせて経営戦略やビジネスモデルを修正するか、どちらかです。まー、『脳トレ』が当たったから、もっともらしい理念を掲げてみせただけなのか、それとも「理念→ビジネスモデル→KPIでの進捗確認によるフィードバック経営」を意識していたのか。おそらく前者だったのではないかと思いますが。

ソニーやシャープのような日本の家電メーカーや任天堂に共通して言えるのは、「たまたま」理念とビジネスモデルが適合していた時期に、「理念→ビジネスモデル→KPIでの進捗確認によるフィードバック経営」への転換ができなかったことです。

そう考えれば、質問者の質問に対して岩田社長がかなりズレた回答をしている事もご理解いただけると思います。というか、赤字決算の発表でお疲れだったのかもしれませんが、日本語が理解できているのかなと疑いたくなるレベルです。即答しかねる話題だったため、わざと「かわした」答え方をした、と解釈するのが妥当でしょうか。そうであれば、「かわした」という自覚はお持ちでしょうから、遠からず、本当の回答をしていただけるとうれしいですね。


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