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戦うと決めたら徹底的に戦うこと 『私の愛馬は凶悪です』

私の愛馬は凶悪です新井輝

『Room No.1301』の新井輝の最新作。『Room』シリーズのファンにはぜひお薦め。

高岡霧理は直情径行な女の子。武道をやっていて、まっすぐな性格で、そして奥手。えっちなことはあんまり考えたことないし、詳しくない。いるよねえ、こういう女の子。ライトノベルとかゲームにはさ。現実にはいないかもしれないけど。そんな風なありがちな設定に見える女の子、男の子がありがちでない恋愛をしていくのが、新井輝の小説である。

えっちなことに耐性が無い霧理は、えっちな男の子に関わろうとは思わなかった。だけど堪忍袋の緒が切れることもある。放課後の教室で、堂々と女の子との「予約」の日程を調整している女たらしを前にすれば。他校の教室にやってきて、そんな話をしている女の子を見れば。怒るのも仕方ない。

しかし非常識な行為を説教していたはずが、何故だか、射水君が「予約」をやめるかわりに、霧理が彼の話し相手になる約束をしていた。常識を越えた射水君の言動に振り回され、彼のペースにつき合ううちに、やがて思いがけない複雑な事情を知ることになる。

霧理の単純な物差しでは、射水君は測れない。愛されて育てられた霧理と彼の間には、大きな常識の隔たりがある。すれ違いも少なくない。そんなつもりが無くても、傷つけてしまう事があり、傷ついてしまう事がある。途中で下りたほうが楽かもしれない。

しかし霧理のモットーは師匠の教えの通り。「武道家は、まず戦わない道を探す。でも戦うと決めたら徹底的に戦うこと」。お互いの言葉が全然通じない世界にいるわけじゃない。小さい子供のような心を持った射水君。何事も一直線で、えっちな事にうとい、お子様な霧理。アンバランスだけど、だから補えるのかもしれない。

まだまだ戦いは続く。きっと先は長い。けれども一つ一つの戦いを乗り越えた向こうにしか、戦いの終わりは無い。霧理の恋愛はまっすぐだ。

恋ってなんだろう? 好きってどういうことだろう?
恋愛に向かい合うのが苦手な少年や少女の愛の追求の物語という点は『Room No.1301』と共通しているものの、主人公の性格の違いもあって、物語の終着点はこちらの方が見えやすい。完結までの道のりはたぶん『Room No.1301』よりも短いでしょう。まずはここから新井輝作品に触れてみるのもいいんじゃないでしょうか。
「お互い様……なのかな? 俺は霧理さんに返せてる?」
「返せてないかもしれないけど……いいのよ、それで」
「どうして?」
「この先、返してもらえるかもしれないし、そんなに焦って返さなくてもいいの」
「……そういうものかなあ」
「それはそうなの。だって、私たちずっと友達なんでしょ? だったら、いつか返せる。そういう気がしない?」

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テーマ:ライトノベル - ジャンル:小説・文学

「堕落する準備はOK?」 リアルってレベルじゃねーぞ。あなたには身に覚えがある選択肢?

これから超傑作の話をしよう。
人は物語と出会う。
人はその人生の必要なタイミングで、ふさわしい時にふさわしい本に出会う。自分の心境に、悩みに、幸福に、不幸に、悲しみに、喜びに、怒りに妙にぴったりはまる物語に出会う。本を読んでいる人間は、誰しもがそれを信じている。そういう体験をしてきたからこそ、いまだに本を読んでいる。

目はすっかり肥えてしまい、傑作に遭遇するより凡作を掴むことが多くなったとしても、本を読み続けるのはそのためだ。本という形に限らない。年間何本も映画を観続けている人もそうだろう。物語を読み続けている人は、小さな確信を持っている。

人はどうして物語を生み出したのか。
その深遠な問いの答えかもしれない。
だけど、今は超傑作の話をしよう。人によっては変人奇人がバカ騒ぎするくだらないお話にすぎないかもしれない。けど、物語はきっとふさわしい読者に届く。人はふさわしい物語に絶対に出会える。


2004年の隠れた名作が掘り起こされる

らくえん ~あいかわらずなぼく。の場合~(TerraLunar)


PC美少女ゲームの愛好家なら、タイトルぐらいは知っている人が多いかも。2004年に発売され、隠れた名作あつかいされているソフトです。現時点で入手するのは少し難しいのですが、ダウンロード版の販売が始まったようです。(Vectorダウンロード販売ページ

推定5000本以下の売上で、普通に埋もれてしまったソフト(PC美少女ゲームの平均売上は当時でも3000本以下とかそんなもんだったはず)。このゲームを実際にプレイした人はそれほど多くない。

実はボクも今年になってから遊んだクチ。買う前にネットの評判もチェック。更新停止中のASTATINEさんを検索すると、やはりあった。
ASTATINE:「らくえん」評。
 今でも、世間様に隠れつつも、同人誌がタップリ詰まった紙袋抱えて、有明なり、秋葉原なり・・・をトコトコ歩いていると、なーんか虚しくなって、普通に仕事としてエロゲーの論評やっている・・・同人ショップやパソコンショップの店長さんやら、秋葉原みたいな人通りのあるところで・・・等身大美少女の大旗振りながら販促やってたりするメーカーさんなんかが、羨ましくなったりする。でも、実際、そんな楽でもないし、同人ならともかく、商業でやっているんだから、それなりのリスクがある。自分らはリスクを取らず、彼らはリスクを取った。さて、どちらが「シアワセ」なのかな?・・・多分、永遠の問いだろうし・・・もしかすると、エロゲーに関わっている限り、何時、どんなキッカケで、“向こう”へ転がるか分かりもしないので・・・そら恐ろしくもある。ハイリスクハイリターン。所詮、「楽園」は神が創るのではなく、人が造るモノだ・・・と徹底させられると、ここまで居心地悪いシロモノになるんだな・・・と、ハッキリと思い知った気がする。

 しかも、「居心地悪い」=「身に覚えがある」だから、この物語は、性質が悪い。
この感想を読んで、ボクも購入を決意しました。この物語を端的に表すなら、美柴可憐の名台詞「堕落する準備はOK?」に還元される。あなたはこの選択肢に身に覚えがありますか?


リアルってレベルじゃねーぞ

売れない同人作家で受験生(浪人)の主人公がふとしたきっかけで、弱小エロゲー制作会社「ムーナス」で働くことになる。妹2人に心配をかけながら、駄目人間のお兄ちゃんは、受験勉強を放り出してエロゲ制作にのめり込んでいく。ライターが逃げる等々のトラブルが連発し、まさに弱小零細企業の開発現場を地でいく展開が続く。

某Aさんのエロゲークリエイター体験記
この体験記と同様の底辺の制作現場が描かれているが、このゲームを作った会社TerraLunarはホントに潰れている。リアルってレベルじゃねーぞ。

オタクが集まったクローズドサークルという点では、高校生の文化部モノや、『げんしけん』のような大学生のオタクサークルモノと似ているが、ムーナスの連中は食うために働いている点で大きく異なる。

高校時代、大学時代、オタクサークルに入ったところで、人生踏み外すわけじゃない。そもそも生活がかかってない。一方、ムーナスは企画が通る前の資金は自前。1本目のソフトが完成し、売れなければ、当然会社は倒産する。サークルと会社の違い。生々しい現実がそこにある。

無論、エロゲである以上、「幻想」「夢」は存在する。妹2人の存在といい、エロゲ的なご都合主義は少なくない。実際、美柴可憐ルートの後半は、やや強引な展開である。しかし同時に「現実」「痛さ」も突きつけてくるから、油断できない。

この『らくえん』というゲームが真実すばらしいのは売れなかったことだ(失礼)。主人公たちの作っているゲームは、陳腐な作品で、面白そうではなく、たぶん売れないだろうし、実際売れません。彼らが睡眠を削り、身体を削り、徹夜に徹夜を続けて制作しているゲームは、年間数百本の大量のエロゲーの山に埋もれてしまう。

凡庸たる我々の青春は、凡庸に埋もれていく。このゲームの真価はパロディでも、サクセスストーリーでもなく、青春ストーリーにある。いいじゃないか、埋もれたって。そんなもんだ、現実は。でも彼らはとても楽しそうじゃないか。

みかルートにおいて、ゲーム内と現実はリンクする。だからこそ、彼らを描いたこの作品も、やはり売れるべきではない。このゲームは埋もれてしまったし、制作会社のTerraLunarは潰れてしまった。ここまで完璧なメタゲームをボクは生まれて初めて見た。真似したくたって、できるもんじゃない。かの奇作『セガガガ』さえ完全に凌駕した痛さ。メタゲームとは本質的に「痛い」ものなのだな。


超傑作のもう1つの理由

ボクがこのゲームを超傑作と呼ぶ理由はもう1つある。極めて個人的な理由によるものだ。

     「堕落する準備はOK?」
      →はい   いいえ

ゲーオタのまま生きるか、ゲーム制作の側に飛び込むかというのは1つの選択で、その選択においてボクは「堕落」することを選んだ人間。

けれども、今から10年ぐらい前の話になるが、ボクは今の会社に入る前にギャルゲー(18禁ではない)のシナリオを書いていたことがあって、まあ発売はされたし、声優さんのラジオなんかも流れていたんですが、ハッキリいってクソゲーだった。実際、市場の中に埋もれてしまった。

底辺の現場をイヤというほど味わった。時代はPS1バブル、クソゲー天国のまっただなか、当時関わっていた3本中2本が開発中止。発売されたゲームだって、クソゲーにも程がある。ただ、きれいに惨敗したから、今の自分はここにいる。開発力のある所に行って、売れるもんを作ろうと思った。マニア向けはもういいよ、メジャー志向万歳、売れるもんを作ろう。

あの適当な時代にそこそこの成功をおさめていたら、たぶん違う場所にいたんだろうな。その後のギャルゲーの動向(コンシューマーの弱体化とPC系美少女ゲームのブーム)を考えると、今頃はエロゲーのシナリオを書いていたかもしれない。その「もう1つの人生」は割とリアリティがある。

するとあの選択肢が自分の中の暗い所から浮かび上がってくる。「堕落する準備はOK?」。ゲーム制作という点ではきっちり「堕落」したものの、エロゲー制作という点では堕落せずに引き返した。堕落していく快感も知っているし、そのうえでASTATINEさんの言う「居心地の悪さ」も感じている。無論この歳になれば、『らくえん』なんて無いことは百も承知。

エンターテインメントの王道は、より多くの人に楽しんでもらうことだ。それに異論はないし、この10年はずっとそればかりやってきて、経験もちょっとはたまって、エンターテイメントする技術もそれなりに身についた。たぶんさらに経験を積んで、制作技術はもっともっと高精度になるはずだ。

ただなあ、究極的には万人向けを志向するエンターテインメントというものに飽きてきているのも正直な気持ちなんだよな。もちろん上を目指せばキリが無い世界で、「飽きた」というのは傲慢な物言いではある。申し訳ない。だが。

美柴可憐の「悪魔の誘惑」は、ボクの心に凶悪な刃として突き刺さるんですよ。折しも、一昨年、去年と2年連続で同期が辞めて、それぞれの目指す方向へ、本気で「堕落」していますしね。
すぐに影響されるほど若くはないものの、何とも思わなかったといえば、さすがに嘘。そのタイミングで、しかも2007年のいきなり冒頭に、こいつに出会うとは……。まさしく人は出会うべくして物語に出会う。堕落するか、それとも居心地の悪さを噛み締めるか。選ばなければならない選択肢が突きつけられた。

客観的に見れば、たかが5000本以下の売上のソフトにすぎない。万人どころか、普通のエロゲープレイヤー相手にも、自信をもってオススメはできない。けれども人の人生を変える、狂わせる、惑わす、苦悶させる「毒」がこの中にはある。

極めて個人的な理由で恐縮だが、それを超傑作と呼ぶのは自然なことだ。実はこのゲームを遊んで、この文章を書いたのは、「かさぶた。」というブログを始めて間もない頃。4ヶ月近く寝かせておいた。しかしボクはいまだに選択肢の前にいる。
このお仕事を始めてからガムフーセンをふくらませられるようになった。
こういうのも成長っていうのかな。

(by ナマイキでない方の妹。○学生だけど、この作品の登場人物は全員18歳以上です)

テーマ:▼ゲームの話 - ジャンル:ゲーム

タグ:美少女ゲーム  オタク人生  

さよなら。

さよなら、くたたん。

んー、なんか書こうかと思ったけど、特に浮かばず。
前回の人事で道はつけられていたわけで、予定どおりに進行しただけですよね。

ふり返れば、2年前の初期不良騒動の際に、さっさと謝っておけばよかったんでしょう。結局あれが尾を引いてるんだよな~。当時、ボクがブログで初期不良について取り上げていたら、「てめえも業界人なら、たかだか初期不良ごときでガタガタ騒ぐんじゃねえよ。大したことじゃないだろ」的な意見が書き込まれた事もありました。

一部のゲーム業界人のユーザー無視の姿勢が頂点を極めた時代でしたね。そういう姿勢では生き残れないということが満天下に示されて、良かったんじゃないでしょうか。

「ゲーム機2世代交代説」がますます信憑性を帯びてきそうです。まぁこの業界、不思議と、増上慢の企業には鉄槌が下るんですよね。家庭用ゲーム機市場が立ち上がって10年、任天堂に鉄槌が下りました。それから10年、ソニーに鉄槌が下りました。さてこれから10年後、鉄槌が下るのはどの企業でしょうか。もちろん増上慢に陥る企業が無いのが理想です。期待しましょう。

テーマ:▼ゲームの話 - ジャンル:ゲーム

成功の生み出したズレ? 不調相次ぐタッチジェネレーション

『もっとえいご漬け』に続いて、『Wi-Fi対応 世界のだれでもアソビ大全』も初週販売が絶不調だったようです。忍之閻魔帳の忍さんが苦言を呈しているとおり、メーカー側の市場認識の甘さが露呈しているように思えますね。
「もっとえいご漬け」「世界のだれでもアソビ大全」の不振は

小手先を変えた程度でもう一度財布を開いてくれるほど
ライトユーザーは甘くない

という現実を任天堂に突きつけているような気がする。
ううむ……空前の実用ソフトブームを生み出した一方で、「出せば売れる」という高ぶった気持ちも生まれてしまったのかもしれませんね。昨年末の『マジック大全』あたりからキナ臭いにおいはしていたものの、『もっとえいご漬け』『世界のだれでもアソビ大全』とやや安易な売り方が目立つようになってきました。「成功は最高の毒になる」という法則を見事に実践しつつあります。

どうもなあ……。
無線LANを前提としたWiiチャンネルにしてもそうですが、任天堂の実用路線が微妙にライトユーザーとズレてきている気がします……。一方で『Wiiスポーツ』のように遊びに力点を置いたソフトは上手く回っていますね。

タッチジェネレーションのタイトルも全部が売れているわけではなく、実際には売れてないタイトルが結構あるんですけどね。ただ、前作が売れているソフトの場合は「不調」と言わざるを得ないですね。

いくつか感じたことを挙げておきます。
  • 1つのテーマを刈り尽くすペースが早くなっている。
  • DSで実用ソフトをやると、効果が高いんじゃないかという期待感は下がっている。
  • アレンジバージョンは通用しない。(『世界のだれでもアソビ大全』はもちろん、『もっとえいご漬け』も普通のユーザーからはそう見える)
  • 『もっと脳トレ』が成功したのは、『脳トレ』がボリューム不足だった事を始め、いくつかの理由がある。むしろ例外的な事例。「もっと」戦略はそもそも成り立たないと考えるべきかも。
  • WiFiコネクションが成功をおさめたといっても、「WiFi」そのものが商品を牽引するほどの魅力は無い。
  • ネット対応の携帯ゲームは増えているが、売れているタイトルは顔の見える距離で遊べるローカル通信にも対応している。コンシューマーゲーム市場において、ネット専用はいまだに敷居が高い。(ダウンロード販売の先行きはまだ険しいかも)

テーマ:▼ゲームの話 - ジャンル:ゲーム

今期アニメ感想(4月25日)

ハヤテのごとく
手堅い出来。実は原作を読んでなかったんですが、この間全部読んできました。やっとヒナギク人気が理解できましたが、あははは、かわいいな、ヒナギクは。
ヒナギク人気を反映して、4話目にして早くも学園編突入。さすがだ。

らき☆すた
なんだかんだで継続してます。
キャスティングがイメージ通りにピッタリきてるので、適当に流し続けられる感じ。こなた(平野綾)は特にすばらしい。ツンデレ(ハルヒ)もいいけど、ユル声も素敵です。

映像よりもむしろBGV的に(Background Voice)良い。らっきー☆チャンネルといい、なんつーか、ラジオ番組っぽい心地よさがありますね。

魔法少女リリカルなのは StrikerS
とりあえず、そろそろ視聴者の皆さんもガマンの限界なんじゃないのか……?
ストーリー展開の遅さにゲンナリ。4話目にして事件らしい事件も起きず、新人の試験だの、出会いだの、訓練だの、平和きわまるエピソードが続きます。

焦点を新人側に当てるのか、なのはたちに当てるのかが定まらず、誰に感情移入して観ていたらいいのか。同じ組織モノでも『パトレイバー』とは比較にならない。雲泥の差。

『パトレイバー』の場合、特車二課の個性的な面子があった上で、
   ミスキャストっぽい面々
  →割と派手めの事件
  →メンバー1人1人に焦点を当てたエピソード
  →前後編を要する手ごわい敵
と流れが素晴らしかったんですよね。

1度の実戦も経てないので、新人たちの個性や欠点、克服すべき課題がよくわからない。関心のポイントが見出せないまま、特訓シーンが長いので退屈。

全体的に追加設定の説明が多く、盛り上がりに欠けます。
1つの部隊に複数の高ランク魔導師が所属できないというルールがあって、リミッターをかけて本体の力を抑えているという設定はどうなんだ? いや、まあ、ほぼレベル最高のなのはたちには、制約の1つも課さないとピンチに陥れるのが難しい、という事情はわかるんですけどね。

ううむ。序盤、平和な雰囲気をこれだけのほほんと描いてるのは、後半一気に奈落へ突き落とすための「溜め」だと思いたい。

テーマ:アニメ - ジャンル:アニメ・コミック

若造にはオススメできない 『孤独のグルメ』

孤独のグルメ(原作・久住 昌之、作画・谷口ジロー)

一般に会社勤めの人間の何が困るかといえば、毎日の飯である。皆さんも悩んではいないだろうか。近所の弁当屋、コンビニ弁当、定食屋、出前、社員食堂、自炊弁当。狭い選択肢の中から、選ばなければならない。

たまに違うものを食いたくなると、時間をかけて会社から離れた所に行くこともあるが、貴重な昼休みに毎日遠出するのも大変である。手間をかけたくないが、同じような飯では気が滅入る。

出張でもあれば、見知らぬ店にふっと入りたくなる。しかし初めての店に足を踏み入れるには、ちょっとした勇気が要るものだ。当たりかはずれか、自分を勘を信じて選ぶ運試しである。そして普段と異なる雰囲気の中に入っていく時は、ちょっとした緊張感がつきまとう。この本はそういう緊張感を知っている、大人だけが楽しめるグルメ漫画である。若造にはオススメできない。

この漫画には高級料亭やレストランは出てこない。主人公の井之頭五郎は、どこにでもあるような街角の定食屋やラーメン屋で食べる。ふと訪れた店は店主というヌシがいて、「いつもの常連客」でごった返している。店ごとに独特の雰囲気ができている。そこに入る。常連客が店の住人であるとするなら、五郎のような一見の客こそまさに真の客である。

この本の主題は味ではない。『美味しんぼ』のように「食」文化などという、ご大層な看板も掲げない。描かれているのは、店主と常連客と料理で構成される「食堂」という場である。

始めから終わりまで五郎はひたすら呟き続け、モノローグで考え続ける。細やかに描かれた、食堂で食べる人々の様子と相まって、この漫画独特の雰囲気を作り上げている。
「ぶた肉いためとライスください」
「はい」
 俺はできるだけ物おじせずハッキリという。注文を聞き返されるのはやっかいだ。
「あとおしんこ」
「おしんこ、何?」
「何があるんですか?」
「えーとナスとキュウリとハクサイと……」
「ナスください」
 こういう店のおしんこってのはきっと自家製なんだろうな。
「ハ~イ。ぶた肉いためとライス」
「あ……あとスイマセン、とん汁ひとつ」
 注文をしてしまうと少し気が楽になり、店内を見回すゆとりがでてきた。
 しかし……みんな帽子を被っているのはなぜだろう?
 でもある種の美意識が感じられる……。
 うーん……ぶた肉ととん汁でぶたがダブってしまった。なるほど……この店はとん汁とライスで十分なんだな。
「ウン。うまい」
 このおしんこは正解だった。浸かりぐあいもちょうど良い。ぶたづくしの中ですっごく爽やかな存在だ。
 まるで小学校の土曜日に家で食べるお昼のようだ。
 なんだかあったかくていい店じゃないか。
 しかし結局この店の中で食う客ってのは、ほとんど飯より酒の客なんだな。
 ああ、くそっ、腹が減ってきた。まだ飯食ってないんだよ、俺。じゃあ、コンビニ行ってきます。

テーマ:感想 - ジャンル:アニメ・コミック

ささやかな親近感でゲームの外と中がつながる。トロステで紹介『ミミズクと夜の王』

『どこでもいっしょ』シリーズの制作者である南治一徳氏のブログを読んで知ったのですが、4月から『まいにちいっしょ』で本の紹介を始めていたのですね。PS3、XBOX360、Wii、次世代機は最近どれも起動してないので、まったく気づきませんでした。うちでは次世代据置ゲーム機は全滅状態です。

4月15日のトロステでは『ミミズクと夜の王』を紹介していました。トロとクロがどんな風に紹介しているかは、PS3を立ち上げて実際に見ていただくとして、将来的にはアマゾンに直接飛べて、本を買えると便利ですね。なんというか、自分の好きな本を薦めていると、ささやかな親近感がわいてくるから不思議なものです。トロやクロに、というより中の人にですが(笑

『ミミズクと夜の王』はライトノベルでありながら、挿絵が無く、一般小説のような装いで出版されています。むしろハードカバーで出版したら良かったんじゃないでしょうか。不思議であやしく、少し切ない恋愛を描いた良質な童話。読み終わると他人に薦めたくなる魅力があります。

じつはうちのブログで最も売れているのがこの本です。2位の本に2倍近い差をつけ、断トツの売上。たぶん街中の普通の書店より売れてるんじゃないかな。うちのブログの読者層の好みがうかがい知れる一冊でした。

ミミズクと夜の王紅玉いづき


以前掲載した書評はこちら。
ジブリにアニメ化してもらいたいような、まっすぐな物語 『ミミズクと夜の王』

テーマ:ライトノベル - ジャンル:小説・文学

2007年4月定点観測 - 中小にはチャンスの時代 -

年末商戦が終わって4ヶ月。この時点での国内市場の動向について簡単にまとめておきます。

よく粘っているWii

Wiiはよく粘ってます。任天堂の据置ハードはN64、GCの実績を見ると、150~200万台まではスムーズに伸びるものの、その後急速に売上が鈍化する傾向があります。ファミコン世代とファミリー層に多くのファンを抱えているため、ある一定の数字までは早いけれども、それ以降はさっぱり……というわけです。

Wiiもやはり150万台を越えたあとは徐々に販売が鈍化していきました。しかし春商戦では再び『Wiiスポーツ』のテレビCMを流し、販売を少し持ち直させました。7万台の週が2週つづき、その後は再び5万台前後に落ち着いています。

また、その後も「笑っていいとも!」の特番で、一時的に販売を押し上げるなど、任天堂は本当に販促戦略が巧みになったなと感じますね。鈍化/失速してるものの、そのカーブは緩やかで、目立つタイトルが少ない状況でうまく凌いでいるといえます。そういう意味で、「よく粘っている」と評すのが妥当でしょう。

とはいえ、新しいユーザー層を取り込むソフトが続かなければ、「いつもの任天堂据置ハード所有者+α」で止まってしまうでしょう。少し前に忍之閻魔帳の忍さんも「Wiiに関してはやけに呑気」と懸念を表明していましたが、DSの時はタッチジェネレーションが春に始まったことを考えると、確かにそう評されても仕方ないですね。

もっとも、DSの時はローンチが『さわるメイドインワリオ』と『マリオ64DS』という続編&リメイク作品で、『Wiiスポーツ』という新規タイトルを準備したWiiよりもずっと貧弱でした。また、ゲームへの関心が薄い人に向けてWiiチャンネルが積極的にリリースされている点も忘れてはいけません。

けれどもWiiチャンネルがWiiを買う動機になり得ていない点は不安要因です。ライトユーザーにとって、無線LAN環境は敷居が高く、お天気やニュースもテレビや携帯電話で見られるもので、Wiiでなくてはという訴求力が高いとは言いがたい。家族から敵視されない要素にはなっても、積極的に購入してもらう動機にはなっていません。Wiiチャンネルがネットユーザの玩具の域を脱していないのは、誤算といわざるを得ないでしょう。


おいおいおいおいおいPS3

でもまぁWiiには、悠長なことをしている余裕はあるんですよね。XBOX360は国内では全然売れてませんし、PS3も週間売上が1万1948台(4月9日~4月15日)という有り様。年度内100万台はおろか、この分だと100万台突破は夏前までかかりそうです。

ソフトメーカー各社も急いでソフトを投入する必要性を感じず、普及台数が伸びてからと考えるでしょうし、「ソフトが出ないから売れない。売れないからソフトが出ない」という悪いスパイラルに入りつつあります。

日本で不調でも、海外で売れていれば、まだ可能性はあるのですが、それも厳しい。欧州はそれなりに堅調な滑り出しでしたが、北米ではXBOX360との競争が激しく、伸び悩んでいます。

3月の北米での売上台数はNPDグループ集計によれば、Wiiが25万9000台、XBOX360が19万9000台、PS3が13万台でした。米国では日本よりもHDテレビの移行が進んでいますから、次世代機ではHDゲーム機がSDゲーム機のシェアを越えています。しかし方向性の似た2つのハードが存在するため、XBOX360とPS3はどちらもWiiを下回る傾向が出ています。

今の所、ソフトメーカにとって「PS3」という市場は存在せず、「海外のXBOX360」あるいは「PS3+XBOX360」という市場のみが存在する、と言ってもいいでしょう。ソフトメーカー各社はXBOX360とのマルチ化を進めつつあり、PS3が巻き返すのは徐々に難しくなっています。

ネットでは値下げの噂が流れていますが、タイミングが問題です。夏に『みんなのGolf 5』『ぼくのなつやすみ 3』が投入されることもあり、バンドルパックなどの施策が発表される可能性は高いものの、中途半端に値段を下げても状況は良くならないでしょう。4万円を切る価格が必要ですし、『GT』クラスのタイトルが起爆剤としてほしいところです。


中小にはチャンスの時代

ソニー、PLAYSTATION 3の20Gバイト版を北米で販売終了--公式に認める
北米でのPS3が60GBモデルのみになります。XBOX360の『エリート』もそうなんですが、HDゲーム機はゲーム機に高いお金を払うコアゲーマーの争奪戦になっています。両社とも値下げ合戦はせず、付加価値で競争しています。

値下げ合戦が激しかったPS2世代とは異なり、プラットフォームホルダー各社は今の所、不毛な価格競争を嫌っています。そのため低価格のWiiが漁夫の利を得て、販売台数を堅調に伸ばしています。

そのため中小の開発会社にとっては、チャンスが拡大しつつあります。大手ソフトメーカーは、HDゲーム機市場の成長を睨んで、そちらに開発リソースを割いておかなければいけませんが、中小の開発会社ならザックリ割り切れるからです。

あるいは、バーチャルコンソール中心のWiiとは違い、PS3とXBOX360は新規タイトルのダウンロード販売に積極的ですから、HDゲーム機でも低リスクでチャレンジできる余地があります。

DS市場が良い例です。大手ソフトメーカーの実用ソフトが苦戦している中、ロケットカンパニーの『漢検DS』、レベルファイブの『レイトン教授』のように、中小の躍進が目立っています。

少し前に「これからは巨額の開発資金と高い技術力が必要な時代。日本のゲーム産業の中小企業は脱落していく」という主張を唱える人たちがいました。けれども同じようなことは以前も言われていたのです。PS2時代には「今は続編と版権しか売れない。大手が有利」と言われ、DS時代には「脳トレは宣伝で売れた。巨額の宣伝費を使える大手が有利」と言われたのです。

しかし事実はそうではありませんでした。要は、チャンスが目の前にあっても手を伸ばさない人間が、自分の臆病さを正当化するために、「みんな、同じ! みんな、チャンスが無い! だから俺がこうなってるのは仕方ない!」と叫んでいただけなのです。

今ふたたび新しい戯言が生まれつつあります。目の前にあるチャンスを捨てて、新しいチャンス(もどき)に飛びつこうという言説です。セカンドライフに代表される仮想空間サービスです。これからは仮想空間サービス? ゲームはサービス化?

そういう寝言は資金力のある大手に「遊んで」もらって、作られたブームに乗せられることなく、稼げる時にきっちり稼いで、成長すべきでしょう。鈍重な象があちこちに目移りしている間に、中小が小回りで勝負する。堅実な積み重ねこそが企業を成長させるのですし、今はそれができるのですから。

テーマ:★ゲーム業界★ - ジャンル:ゲーム

闘え、前に進め! 敗残兵たちの報復が始まる 『つどうメイク・マイ・デイ』

フルメタル・パニック! つどうメイク・マイ・デイ賀東 招二

戦場で育った少年は、あるときから、戦争の世界と平和の世界の両方に身を置くことになった。世界各地の紛争を武力でもって解決する謎の軍事組織ミスリルに所属する一方、千鳥かなめを護衛するため、日本のふつうの高校生として過ごす。

彼、相良宗介の二重生活は、長編シリーズと短編シリーズで顕著に分かれた。本編は敵勢力アマルガムとの戦いに比重が置かれ、舞台も日本とは限らない。海外のあちこちが戦場になる。短編シリーズは、日本の高校に迷いこんだ傭兵として、とんちんかんな言動を取り、無用の騒動を引き起こす役回りである。

しかし徐々にその生活にも慣れつつあった……かに思えた。だがすべては奪いつくされた。平和の象徴だった校舎は破壊された。仲間たちは敵の襲撃を受け、散り散りになった。愛機は敵機によって無残に破壊された。護衛の対象にして最愛の人は敵の手に落ちた。

宗介が所属したミスリルは、完膚なきまでに壊滅させられた。それでも彼は屈しなかった。ただ一人で、自分が守るべき相手、千鳥かなめを求めて、戦いを続けた。絶望の底で、前に進めという声が聞こえる、戦えという声が聞こえる、自分を鼓舞する声が湧き出してくるのだ。

前巻『燃えるワン・マン・フォース』は宗介の孤独な戦争を描いた力作である。そして最新巻『つどうメイク・マイ・デイ』は、かつての仲間たちが再び戦場に集まってくる。新型AS ARX-8<レーバテイン>もいよいよ姿を現す。

彼らは何のために戦うのか。
正義のため? 冗談ではない。敗残兵たちは激しい闘志を燃え上がらせ、勝ち誇るクソ野郎どもを地獄に叩き落としてやりたいだけだ。ただの復讐である。
「もちろん『絶対的な平和、恒久的な平和』の構築は不可能です。それを踏まえた上で、『可能な限りの平和』を目指すために暴力を行使していたのが<ミスリル>でした。そうした武力の是非について、いまさらあれこれ言うつもりもありません。理想的な平和主義から人間の屑呼ばわりされたとしても、あなたがたはかけらも動揺しないことでしょう。そう呼ばれても仕方がないのが暴力というものです。名誉も勲もない。その上で、わたしはこの艦――人類最強の暴力装置から手を離しません。徹底的に彼らを妨害して、必ず敵を追い詰めるつもりです。きれいごとはやめておきましょう。これはただの復讐です。メリダ島で死んだたくさんの部下の借りを、わたしは返してやろうと思います」
そうして反撃が始まった。
もちろん敵は強大で、反撃の一矢程度では痛痒にも感じないだろう。ミスリルを裏切ったある男も、これから恐るべき敵手として立ちはだかってくるに違いない。ふっきれた宗介とかなめも、まだまだ困難に直面していくだろう。テッサは内に爆弾を抱えこんでいる様子で危うい……。

東西の冷戦がいまだ継続している、この歪んだ歴史の世界は、そもそも何なのか? ウィスパードと呼ばれるオーバーテクノロジーを理解できる能力者たちの正体は? 大きな謎をいくつも抱えたまま、物語は最終決戦へと向かっていく!

テーマ:ライトノベル - ジャンル:小説・文学

タグ:賀東招二  フルメタルパニック  

最近の気になるゲーム(4月19日)

この春に発売された実用ソフトを何本かプレイしたので、簡単な感想を書いておきます。どのゲームも初日のみプレイし、継続プレイはしていません。1週間遊んでみて初めてわかる要素や、じっくり使ってみてどれだけ実用的だったかは、まったく評価してないので、その点はご留意を。

■私のハッピーマナーブック(タイトー)

今回紹介するソフトの中では、最も好印象だったソフト。デザインセンスに統一感があり、ゲーム内容も全体的に丁寧なつくりで好感がもてる。テキストの質もこの手の実用ソフトの中では高く、ウェルメイド。
  • 診断結果によってカリキュラムを組んでくれるという流れが良い。説得力を感じる。
  • 日付や季節におうじたメッセージも適切。
  • 占いが地味にうれしい。
  • カレンダーに予定を登録できて、内容におうじたマナーのレッスンを受けられる機能は便利。気が利いている。
  • マナーはシチュエーションに付随するものなので、シチュエーションを疑似体験できる「ノベル」があるのは良いアイデア。(漢字ソフトなどに無意味にストーリーモードを付けているのとは違う)

■タイツくん 上司が怒りにくいさわやかマナー(サクセス)

マナーや常識を学べるソフトが大量に発売されているなか、各タイトルは差別化を図らざるを得ないが、『タイツくん』は明らかに男性向けを狙っている。キャラクターはクセがある絵柄だが、大人が楽しめるテイスト。
  • 常識や挨拶、マナーのように正解が確実に1つに絞られる問題が4問つづき、5問目に応用問題として判断が問われる問題が出題される。
  • 応用問題は、100人の受付嬢にアンケートして一番多かった答えが正解となる。判断やセンスを試される点では『大人力検定』(コナミ)と同じだが、個人のセンスよりも多数決の方が説得力を感じた。
  • 応用問題の内容も、「喫茶店でサボっている時に上司が入ってきた」ときの行動や、「社長が取引先と飲んでいるときに機密事項をしゃべり出した」ときのフォローなど、やや特殊ではあるが、面白い。
  • 「受付嬢に挑戦」では、身たしなみでどこに最も気を遣うべきか?など、受付嬢に好感をもたれる答えを選ぶことになる。

■大人力検定(コナミ)

企画力が高い一方で、やや安直にソフトを乱発するイメージもあるコナミ。「らしい」仕上がりと言っては失礼が過ぎるか。企画段階でかなり間違えていたような気がする。
  • 常識やマナーのような知識ではなく、著者の考え方に基づいた問題がぼとんどのため、著者の考え方にあわせないと、不正解にされてしまい、理不尽感が残る。(知識系は全5ジャンルのうちの1つ)
  • 状況によってユーモアが問われたり、ユーモアを抑えた礼儀を問われたりするが、基準がわかりにくい。(正解/不正解を判定する)クイズゲーム的な作りと演出がベストだったのか、疑問が残る仕様。
  • タッチペンの操作性が悪い。線を引くときなどに厳しく判定されてしまう。
  • ユーザー登録する際、どう使われるかわからない割りに、かなり細かくプロフィール情報を入力させられる。面倒くさい。たくさん入力項目があると、不信感もわく。

■爽快まちがいミュージアム2(バンダイナムコ)

基本的に遊びとしては単純で、とっつきやすく、楽しい。前作で完成しているソフトで、安心感をもってオススメできる。バンダイナムコは知育系&実用系ソフトを早くから投入しているだけあって、ホームランこそ無いものの、『まちがいミュージアム』や『平成教育委員会DS』など、安打も何本か出している。規模が大きい会社だけに、「数撃ちゃ」戦略ができるのが強みか。
  • 「結果発表」の画面の演出が地味すぎ。動きもない。フェードを抜けて、右脳指数の数字が回ってそれだけ。「爽快ポイント」「正解数」などの評価項目が最初から出っ放し。上から順に出現するとか、プレイヤーの注意をひきつけ、視線を誘導する最低限の演出はほしい。
  • 前作と違い、メニューで決定する際、丸を描く必要がなくなった。これは楽。
  • 登録しているユーザーの右脳指数をグラフで比較できるが、メニュー階層の奥にあるので、気づかない人も多いのでは? 説明書にも画面写真は載ってない。パッケージ裏には
    載っている。商品の中でのこの画面の位置づけがハッキリしてない感じ。もったいない!

■美味しんぼ DSレシピ集(バンダイナムコ)

ちっとも売れなかったなあという印象が残っているが、『美味しんぼ』の原作ファンなら買ってもいいのでは。『お料理ナビ』が売れたといっても、1本買ってみて、ユーザーが英語ソフト同様、見切ってしまっている可能性もある(参考:「もっと」戦略崩壊に見る、実用ソフトの「終わり」)。レシピソフトの市場性は『まるごと帝国ホテル』の売上でよりハッキリするはず。
  • 『お料理ナビ』の200品も、発売前には「少ない」という意見があったと記憶しているが、さらに下回る119品。非常に少ない。
  • 原作ストーリーのデータベースが入っているほか、料理の知識を問うクイズで海原雄山と対決できるなど、原作モノとしての価値もあり。原作ファンなら買ってもいい。

★ご注意
「気になるゲーム」はボクが気になっているゲームを紹介する記事です。発売済みのソフトも、これから発売予定のソフトも両方あり、プレイしたもの、未プレイのものもあります。

以前からゲームの紹介をしてほしいという要望は聞いていたんですが、結構な本数が出てくるなか、最後まで遊んでレビューするのは現実的に難しいです。

無論、ゲームで飯を食っている人間として、発売されるゲームをチェックしています。しかし必ずしも、自分が好きなゲームや面白い作品をプレイするわけではありません。むしろ失敗作から課題を見つけることもあります。気になっていても時間が取れなくて遊べないソフトもあります。

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日本最強対日本最強 『刀語カタナガタリ 第4話 薄刀・針』

刀語カタナガタリ 第4話 薄刀・針西尾維新

全12冊の時代劇語りも、ついに4冊目。
刀を使わない剣術「虚刀流」を継ぐ鑢七花(やすり・しちか)と、胸に革命の意思を秘めた幕府の奇策士・とがめのバカップル道中記も、3分の1に差しかかった。

公私の区別もあいまいになり、今ではとがめは七花のことを「しちりん」と呼ぶ始末。傍から見ると、本気で恥ずかしいぞ、お前ら。周囲を気にしなくなったこのカップル、見境なさすぎ。
「気持ちはわかるが、おれの前で他の刀をそこまで褒めるな――錆がどれだけ最強なのか知らないが、虚刀流だって、一応は最強の剣術をうたってるんだ。おれにだってあんたの刀としての誇りがある。必要以上にその気位を刺激されちゃ困る」
「あ、ああ……っていうか、鎖骨、鎖骨やばい。鎖骨弱い」
「?」
「だ、だから鎖骨から手を離せ。くてっとなる。くてっとなっちゃう。やめてやめてやめて。お願いだから」
「……? そんなに強く握ってないぞ。むしろ優しく撫でているくらいの気持ちだ」
「それがむしろまずい……や、やんやんやん」
「やんやん? なんだそりゃ、大陸に生息する珍しい白黒動物の名前か? 大丈夫かよ、なんだか怖いぞ」
「い、いいからおとなしく髪を持ってろというのだ。ほ、本当にやばい。ごめんごめんごめんごめん、謝るから」
「よくわからんなあ、とがめは」
「そなたにだけは言われたくない……」

(注:地の文を省略しています)
今回の相手は日本最強の剣士と称される錆白兵。空に浮かぶ太陽すら真っ二つにできるといわれ、驚異の剣技の数々を使いこなす。虚刀流の足運びさえ越える「爆縮地」、刀の柄と鞘を使用する「逆転夢斬」、刀の刃渡りの伸縮を自在にあやつる「速遅剣」、独自の居合い抜き「一揆刀銭」、虚刀流の攻撃を完全に見切った受け太刀「刃取り」、薄刀・針だからこそなしえる「薄刀開眼」。1つ1つの技を描くだけでも大変だよ、こんなの。とばかりの剣技の嵐。

はたして七花ととがめは、日本最強の剣士とどう戦い、勝ちを拾うのか!!
序盤最後の巻を飾るにたる、最強最長最大の戦闘活劇がいま開幕、開幕ぅ~!

















……となるはずだったんだけど、さすがは西尾維新。読者の予想を越えた展開が待っていた。毎度毎度、敵の剣士と戦うだけでは、芸が無い。この巻では真なる最強、究極の戦闘恐怖が描き出される! その強さ、ぶっちゃけ、あり得なさすぎ!

この人の参戦で、七花ととがめの刀集めの旅はいったいどうなることか。ドキドキしながら3ヵ月後、7月発売の『悪刀・鐚(びた)』を待ちたいところ。予想を裏切る展開だった4巻のあとは、いよいよ来月から、変体刀12刀の連続戦闘、中盤戦に突入する。

関連
西尾維新が送る、12ヶ月連続刊行の時代活劇『刀語カタナガタリ 第1話 絶刀・鉋(ゼットウ・カンナ)』
砂漠での対決! 居合VS無刀の『刀語カタナガタリ 第2話 斬刀・鈍(ザントウ・ナマクラ)』
千人の巫女 VS 無刀!? 『刀語カタナガタリ 第3話 千刀・ツルギ』

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市場を知り、己を知らば、百戦危うからず 『テレビゲーム産業白書2007』

テレビゲーム産業白書2007(メディアクリエイト)

ひょんなことから、1冊いただきました。3万5000円もするので、個人ではまず買わなかったでしょう。ありがたいことです。

この本は
  第1章 テレビゲーム市場総括
  第2章 テレビゲーム業界各論
  第3章 テレビゲーム市場動向
  第4章 テレビゲーム業界傾向
  第5章 テレビゲーム小売店動向
という構成を取っています。

第1章と第2章では、ゲーム業界関係者が2006年のゲーム市場について、コラムというか論考を書いています。率直にいって玉石混交なのは否めないものの、P.48~の「地域間格差による均一マーケティングの限界」は、各ハードのユーザー層を「ユーザーの年代」と「都市と地域」で分析し、現在のゲーム市場の実像をたった数ページで見事に描き出しています。必読の価値あり。特にSCEの人間は義務かもしれません(笑 贅沢をいえば、男女別の分布図があれば、より各ハードの特色が鮮明になったでしょうね。

最近の市場動向で注目すべきは、やはり女性向け市場の拡大でしょう。『白書』でも、P.212~の女児向けタイトルについての分析や、P.222の男性向けゲーム・女性向けゲームの分析で、最近の動向が論じられています。男性向け市場にくらべて競合が少ないこともあり、大小さまざまな企業が女性向けソフトにチャレンジし始めています。

もっとも、実際のマーケットにおいては、女性のみに向けたソフトは大して売れません。極度に女性に寄ったソフト、男性がついてこれないソフトはよほど強力なタイトルでなければ、通用しません。

とりわけ、若い女性をターゲットにしたソフトは難しい。現実には、女性向け市場を支えているのは女児で、いっしょに母親も遊んでいるという形でしょう。家計を握っているのが母親だとはいっても、自分のためだけにゲーム機を買うか、ソフトを買うかと言うと、なかなか腰が重い。お父さんや息子も遊ぶから、娘といっしょに遊ぶから、という言い訳はやはり必要。敷居を乗り越えるための「言い訳」を多く提供したソフトが買われやすいはずです。

時間が無い人は、第3章のジャンル別の売上分析、第4章の「業界傾向」を読むだけでも、頭の中がスッキリ整理されるはず。興味深いデータがいくつもあり、例えば、2006年のオンライン対応ゲームの売上比率は、少し前には考えられない数字に達しています。

できれば、第3章の「新品ソフト販売本数Best500」と「中古販売Best100」に目を通してみることをお薦めします。ゲーム雑誌に載るのはせいぜい年間売上100位まで。しかしそれでは大手のタイトルばかりになってしまいます。500位までの掲載であれば、大量のソフトが網羅され、「ランキング上位には現れないが、コンスタントに売れている」ソフトの姿が見えてきます。

日陰に種は落ちている
「次の種」は日陰に落ちているものです。上位100なんて見る必要はありません。101位~500位のソフトをざっと見てみましょう。時間が無いなら、101位~300位でも構いません。そうやって何か感じたことがあれば、それが自分自身の手で掴んだマーケット感覚です。

そういう訓練を意識的にやることで、マーケットへの感性が研ぎ澄まされていきます。こういうデータ集的な本は、何と言っても詳細かつ大量のデータに触れられるところが醍醐味ですよね。

この手の本は高いので、個人で購入しやすくはありません。でも、じつは会社が購入していて、資料棚に置いてあるのに、手に取る人が誰もいなかったという事も結構ありそうです。もし会社に無かったとしても、会社の金で1冊ぐらい購入するのも悪くないでしょう。「市場を知り、己を知らば、百戦危うからず」です。

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愛らしさ、ナンバーワン 『夜は短し歩けよ乙女』

夜は短し歩けよ乙女森見登美彦

デビュー作『太陽の塔』の印象が強くて、森見登美彦というと、どうにも暑苦しい、汗臭い小説を書くイメージを抱いていた。いや、この本も男の視点、「先輩」なる人物の一人称はあいかわらずの濃厚なとんこつスープだ。妄想と現実が溶け合い、筋書きは荒唐無稽な乱痴気さわぎのなかに埋没し、愚直なまでに一途な妄念を抱いた男は、一直線に(?)迷走する。

そのままでは、多くの一般人は耐えられない。森見登美彦が知る人ぞ知るマイナーな作家というポジションだったのも、やむなきかな。ところがこの小説で、森見登美彦は新しいメニューを読者の前に供してみせる。脂ぎったとんこつとあわせて、クリームあんみつを盆に載せて差し出したのである。「黒髪の乙女」の一人称がそれだ。

この本は妄想男と天然娘の2人の視点で物語が進む。妄想男の妄想はやはり暑苦しいのだけれど、天然娘のかわいらしさが効いて、臭みとクドさを感じさせない。彼女の考えること、やること、なすこと、あれもこれもどれも可愛らしい!

主人公は京都大学の学生で、後輩の「黒髪の乙女」に一目ぼれした。素直に告白するかと思えば、まず外堀から埋めると称して、彼女をつけ回す。「たまたま出会う」「偶然いっしょになる」という運命のいたずらを演出すべく、後輩を追跡する姿はただの変態である。京都を舞台にしたストーカー小説と間違われてもおかしくない。

もっとも、彼の懸命な努力にもかかわらず、素直な性格の「黒髪の乙女」は、本当に偶然だと受け止めている。妄想男と天然娘の組み合わせは恐ろしい。「先輩」は変態扱いされて、嫌われることはないものの、なかなか親密になれない。

この小説の中で、二人はすれ違い続ける。近づいてるのか、遠ざかってるのか、ちっとも分からない。「先輩」が街中で襲われてズボンとパンツを奪われているとき、悪性の風邪をひいて臥せっているとき、「黒髪の乙女」は別の場所で、まったく関係ないことをしている。「乙女」がガチンコの飲み比べをしているとき、緋鯉を背負って学園祭を練り歩いているとき、「先輩」はやはり別の場所にいるのである。

かくして「先輩」は日夜、悶々と妄念を働かせ続ける。一方「乙女」も持ち前の天然ぶりを発揮して、この世の不思議と渡り合っていく。森見登美彦の手にかかれば、現代の京都は魔都の中の魔都になる。妄想と現実が溶け合い、宙に浮かぶ天狗、古本市の神様、学園祭を騒がす偏屈王に韋駄天コタツ。次から次へと、怪異が飛び出す。

騒ぎに騒ぎまくり、妄想と現実の境界がいよいよ怪しくなった果てに、幸せなエンディングにたどり着く。お祭り騒ぎの狂騒っぷりと、宴のあとのさびしさ。それは何となく、『うる星やつら』を、とりわけ『ビューティフルドリーマー』を思い出させる(念のために書いておくが、オチは違う)。

このラブコメ小説には、あえて「恋愛喜劇」という持って回った言い回しを使いたい。それにしても、この小説の文章の巧みな愛くるしさは、尋常ではない。
「親指をひっそりと内に隠して、堅く握ろうにも握られない。そのそっとひそませる親指こそが愛なのです」
 彼女はそう語った。
 幼い頃、彼女は姉からおともだちパンチを伝授された。姉は次のように語った。
「よろしいですか。女たるもの、のべつまくなし鉄拳をふるってはいけません。けれどもこの広い世の中、聖人君子などはほんの一握り、残るは腐れ外道かド阿呆か、そうでなければ腐れ外道でありかつド阿呆です。ですから、ふるいたくない鉄拳を敢えてふるわねばならぬ時もある。そんなときは私の教えたおともだちパンチをお使いなさい。堅く握った拳には愛がないけれども、おともだちパンチには愛がある。愛に満ちたおともだちパンチを駆使して優雅に世を渡ってこそ、美しく調和のある人生が開けるのです」

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ゲーマーが遊んでいないセカンドライフ

いったい誰が遊んでいるの?

少し前に社内ブログに書いた話をこちらにも書いておきます。一時期、IT業界の人や一部のゲーム系ライターが『セカンドライフ』を持ち上げていたのですが、ボクには本当に盛り上がっているようには見えませんでした。

巡回先のゲーマー系ブログはどこも完全にスルーしてますし、洋ゲーマーな人のブログでもまったくと言っていいほど触れてません。日本語版が開始すれば状況が変わるのかもしれませんが、少なくとも現時点で日本のゲーマー界隈では、『セカンドライフ』はまったく流行っていません。

もしかすると、あの複雑なインターフェイスの『セカンドライフ』をライトユーザーが遊んでいるんでしょうか? 冗談にしてもタチが悪い。では、いったいどこにプレイヤーはいるんでしょうか?

プレイヤー不在のブーム

その割にはメディアでの露出はなかなかのものですよね。不思議な話です。と思っていたら、
切込隊長BLOG(ブログ):「セカンドライフ」バブルがうぜえ

少し古い記事になりますが、切込隊長が一刀両断していました。要は、一連の『セカンドライフ』ブーム(?)はかなり意図的に作られたものだということです。ははあ、なるほど、なるほど。そういえば、ゲーム系ライターで『セカンドライフ』を礼賛している人たちって……。

数年前に日本でMMORPGブームが捏造されて、たくさんの投資案件が動いていました。大半がまったく会員数が集まらず、破綻しましたけど、「投資家のみなさん!! これからはPCのオンラインゲーム! その王道がMMORPGですよ!」なーんて感じで、煽り記事がばらまかれていました。しかし煽ってた人たちの努力は虚しく、そのバブルは膨らみきる前に弾けちゃいました。ご愁傷さま。

で、MMORPG投資を煽っていたゲーム系ライターが、今回も『セカンドライフ』を煽ってるわけです。「MMORPG」の次は「3D仮想空間サービス」ですか? ははははは、わっかりやすいねえ、ホント。

ちなみに『セカンドライフ』ですが、ゲーム制作者の間では、意外なほど遊ばれてないですよ。「あー。なんかニュース記事も見かけるし、そろそろ遊んでみないとなあと思います。つまんなそうだけど(苦笑 義務で、ええ、そろそろ」みたいな話はよく聞くんだけどさ。

『セカンドライフ』って、仮想世界の土地ころがし狙って、今のうちに土地を買い占めておきたい業者さん、煽り記事書くライターさんばかりが集まってるイメージなんですよ。プレイヤー不在のブームに見えます。「仮想社会で元銭ゼロで収益無限大」も、「Home@PS3でSCE大勝利」も、ボクには同じぐらい根拠が薄っぺらく感じられるんですが。

そういえば、百式管理人さんが運営していたREAL*REALは更新停止しています。「ノンゲーマーの視点」って聞こえはいいけど、要は『セカンドライフ』バブルで儲けようというIT業界からの視点のブログでした。

エロで伸びた話を隠すなよ(笑

海外においてセカンドライフがアダルトコンテンツで伸びたという話も、日本ではあまり書かれません。ネットで集客力のあるコンテンツはやはりエロですし、ユーザークリエイションといっても、同人市場を引き合いに出すまでもなく、エロがかなりの割合を占めるものです。

そういう実態を正視せず、事実を語らない人たちはやっぱり信用できませんね。オブラートにくるんで出会い系を薦めてるのと変わらんよ。エロがいけないわけじゃない。ただ不必要に隠す人たちの言葉はうさん臭い。
新清士氏はきちんと「性的なコンテンツ」の存在に触れていて、この点は大いに好感がもてます。一方、「動画投稿元年」ならぬ「仮想空間元年」を唱えるあれれ氏は完全スルー。勉強不足か、意図的に触れてないのか、どっちでしょうか。

YouTubeが成功した要因として、リンクが張れる、ブログに貼り付けられる、という点はあったにしても、やはり何と言っても著作権を無視した映像がばんばん投稿されている事実があります。『セカンドライフ』の魅力がエロだけではないのは当然としても、そこも含めたコンテンツの自由度や、生々しい現実感(エロも人生には不可欠。第二の人生にも)が成功に結びついたのは確かです。

Home@PS3でも、アダルトコンテンツはOKなのか、という質問を記者から受けて、SCEの偉いさんが不機嫌になったという話がありましたが、要は「アダルトまでOKかどうか」は仮想空間サービスの1つのポイントとして考えられているわけです。

日本のゲーム会社が仮想空間サービスに乗り出すべきでしょうか。ボクは非常に懐疑的です。大手ソフトメーカー各社はMMORPGに飛びついて苦しんだ記憶を忘れるべきではありません。また、エロコンテンツOKの仮想空間サービスを始める度胸をお持ちでしょうか? 無謀な考えに囚われない、冷静さと真の決断力をお持ちの方には、甘いささやきをする連中に、ズバッと切り返してほしいものですね。

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美少女ゲームにおける擬似家族と本物の家族の対立。そして『レジンキャストミルク』

レジンキャストミルク 6藤原 祐

クライマックスに近づいていく物語

あり得たはずの可能性の世界=虚軸(キャスト)。虚軸を現実世界=実軸(ランチ)に具現化させた人間は、滅んだ可能性に関する、特殊能力を用いることができるが、引き換えに何かを失う。痛み、子どもの頃の記憶、特定の感情、他人を認識する能力、……。

4年前、城島晶の日常は砕かれて、家族は奪い去られた。残った自分の日常を守るため、城島晶は妹の姿を取っている虚軸・硝子といっしょに、他の虚軸と戦っていた。成長した彼らの前に、家族を奪い去った敵【無限回廊】(エターナル・アイドル)が再び姿を現した。新たな虚軸を生み落とす力をもつ【無限回廊】が差し向ける敵と戦ううちに、晶と硝子は急速に力をつけ、お互いの絆を深めていく。

しかし皮肉にも、それこそが敵の狙いだった。晶が日常よりも硝子を選択したとき、本当の敵が実軸に出現した。というのが前巻までの物語である。

現代学園異能の代表作の1つ『レジンキャストミルク』。この巻ではいよいよ主人公・城島晶の秘密や、敵の目論見が明らかになる。が、晶は終始、翻弄されっぱなしである。一方的に弄ばれている。酷い状況に陥っても、冷静さを失わない(?)のが売りの主人公ではあるのだけど、相手の狙いが不明なうえ、自分が知らない事実が次々と明かされれば、後手後手に回るのも仕方ないかもしれない。

でも、叩かれてへこんだときに助けてくれるのが仲間であり、逆境から立ち直ってこそ成長というもの。仲間を利用するんじゃない、信頼する。彼らに頼る勇気も覚悟も必要。腹をくくってこそ、前へ進める。

次巻からは、やられっぱなしだった晶たちの反撃がいよいよ開始されるはず。クライマックスに向かって物語は加速していく。


美少女ゲームにおける、擬似家族と本物の家族の対立

しかしこの物語、まさしく偽者対本物の戦いなのだな。主人公の晶は実より虚を選び、擬似家族と共に本物に抗うことを決意する。硝子も晶を全肯定する。
「イエス、マスター」
 彼女は応える。
「罠を張って待ち伏せ、策に嵌めて陥れましょう。罠を張られても笑ってかわし、策に嵌められても足掻いて抜け出しましょう。たとえ向こうが真でこちらが偽でも、そんなことはわたしたちの現実には関係ありません。私と貴方と偽の世界たちは現実なんかには負けません」
現代学園異能は主人公が美少女たちと日々の生活を送る「ギャルゲー的な日常空間」と、異能の力で敵と戦い、頭脳をつかって勝利する「少年マンガ的異能バトル」を組み合わせたジャンルだが、ほとんどの美少女ゲームは主人公の両親が登場しないという特質を備えている。

主人公の父親、母親は死んでいたり、海外を駆け回っていたり、転勤して遠くにいるのが通常である。主人公の家には彼の他に誰もいないか、血がつながっていない姉妹が生活している。あるいは、主人公は幼なじみの家に居候している。

ジャンル的な要請もある。主人公の自宅に親がいては、おちおち自室でセックスできない。まあ出来ないことはないが、色々と不便である。また、親がいないからこそ、幼なじみや級友が主人公の夕飯を作りにやってきたり、朝起こしにやってくる理由が生まれる。

もう1つの理由は、主人公と父親がライバル関係にあるからだ。美少女ゲームの出自はもともと、エロゲーである。古典的なエロゲーにおいては、主人公と父親はどちらが優れた種馬かを競うライバル関係にある。主人公は父親が築いた楽園から離脱し、自分の楽園を築く。エロゲーにおける正しい世代継承とはそういうものだ。しばしば攻略対象として、未亡人の母(血はつながってない)が含まれているのも、父親の楽園から王妃を簒奪し、正統な継承を果たしたという権威づけの意味があるわけだ。(注釈

楽園というのは、まあエロゲー的にはハーレムなのだが、それをやや現実寄りに帰着させるなら、家族の形成が必要になる。美少女ゲームにおいても、主人公は次代の楽園=家族を築くという暗黙の目的を背負う。それは必ずしも現実の家族である必要は無く、一時的なものとして、擬似家族を形成することもある。『家族計画』のように、擬似家族モノと美少女ゲームは親和性が高い。

多くの美少女ゲームでは、両親の不在という形で、暗黙に世代=家族の継承をおこなう。わざわざ旧世代との対決は行わない。プレイヤーが自分の楽園に埋没するうえで、無粋な対立は不要だからだ。

けれども小説という形態を主軸にする、現代学園異能においては、話は変わる。現代学園異能の先頭集団に属する『レジンキャストミルク』において、再びそのテーマが掘り起こされている点は非常に興味深い。

関連
ノベルゲームの持つ原罪を小説はどう処理したか? そして『ひぐらしのなく頃に 賽殺し編』

注釈
90年代中盤までは、その種馬競争的なニュアンスが色濃く残っていた。そのため、より年若い少年向けに、あえて濃厚な部分やエロを排除した「ギャルゲー」(コンシューマーの美少女ゲームをそう呼んでいた時代がある)が発売される意味があった。
しかし90年代後半に至り、LeafやKeyの作品が人気を集め、エロゲーにおいて「純愛」物が流行るようになると、種馬競争的な濃厚さは隅に追いやられる。結果としてギャルゲーはアイデンティティを失い、市場を縮小させていく。

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超法規的検閲と戦え図書館! 正義の味方にあこがれる乙女の 『図書館戦争』

図書館戦争有川 浩

有川浩といえば、自衛隊スキーとして知られる小説家である。デビュー作『塩の街』に始まり、『空の中』『海の底』と続けざまに自衛隊を登場させ続けた。しかも毎回、やたらとカッコいい。たとえば『空の中』は怪獣映画的なSF小説であり、少年がワンダーに触れるファーストコンタクト物であるが、怪獣映画的なのに、自衛隊はただのやられ役=雑魚キャラではない。

有川浩の小説には、自衛隊への愛がみなぎっている。もし彼女がコバルト文庫でデビューしていたなら、日本初の自衛隊内恋愛小説を書き上げていたやもしれぬ。それほどまでに、乙女チックに、純真に、朴訥に、直球に、自衛隊への愛が書き貫かれているのである。

自衛隊というと、僕はつい、大好きな作家である浅田次郎を思い浮かべる。だが有川浩の描く自衛隊は、そういう漢の視点とは違う。彼女の手にかかれば、自衛隊員はまるで弱い乙女を救いに現れる白馬の騎士のようだ。正義の味方と言い換えてもいい。また彼女は、女性隊員を登場させることが多い。安直な理解をすれば、ある種の「分身」なのだろう。安直だ。いや、しかし、その、なんだ、本当にそういう安直な理解で正しいのかもしれない、とも思う。

さて、この『図書館戦争』は珍しく、奇跡的にも、自衛隊が登場しない小説である。しかし騙されてはいけない! この本こそ、有川浩の自衛隊ラブが究極的に結実した乙女チック軍隊小説なのである。

公序良俗を乱し人権を侵害する表現を取り締まる法律として、『メディア良化法』が成立した時代。超法規的検閲に対抗するため、図書館は『図書館法第四章』を成立させた。図書館の自由を掲げ、検閲を退けて、あらゆるメディア作品を自由に収集し、市民に提供する。対立するメディア良化委員会と図書館の抗争は、過激化の一途をたどった。図書館は武装化した警備隊「図書隊」を結成。両法の成立から30年、検閲対図書館の衝突は今なお継続中である……。
念願の図書館に採用されて、私は今、毎日軍事訓練に励んでいます
笠原郁は図書隊の防衛員を志望している、新人女性隊員である。3人の兄に揉まれて育った、元気いっぱい、根性底なし、熱血紅蓮の山ザル娘。でもたまに、驚くほど涙もろい。

なにしろ志望動機からして、乙女チックなのだ。高校三年のとき、検閲の魔の手から、若い図書隊員に助けてもらった。そのかっこよさと凛々しさにしびれて、あこがれて、自分も図書隊に入って、本を守る正義を貫こうと決意したのだ。しかも採用試験の面接で想いを熱く語るのである。あまりの恥ずかしい話に、面接官たちは爆笑したが、結局彼女は採用された。

何ともまっすぐな娘である。新隊員の訓練中にも、鬼教官に目をつけられ、1人だけ集中的にしごかれる毎日。でもめげない。目標は憧れの「王子様」である。むかつく鬼教官なんて知るものか。王子様のような、立派な図書隊員をめざして、一直線。

郁の言動たるや、つくづく熱血少女漫画の世界を地で行っている。これが高校や大学のバレー部なら、いったい何十年前の青春乙女ストーリーだよ、と突っ込みたくなるほどである。それを軍隊でやってしまう所が、さすが有川浩。これだけ熱くて、燃えて、甘くて、こっ恥ずかしい本を書ける作家は、日本広しといえども、この人だけだ。

タグ:図書館戦争  有川浩  

あ、そういえば、らき☆すたがあったんだっけ

先日、今期のアニメは(個人的には)『なのは』と『ハヤテ』かなと書いたけど、そういえば『らき☆すた』もあったんだった。いかん、いかん。すっかり忘れてました。

ちなみに単行本は全部買ってます。このまったり感、ゆるゆる感が好きなんですよね。「まったり」「ゆるゆる」というのは、小説ではなかなか表現しにくい、漫画独自のものですよね(アニメも表現可能だけど、退屈な映像になりがちなリスクは割りと高め)。

らき☆すた1美水かがみ
らき☆すた2
らき☆すた3
らき☆すた4

でもアニメに関しては、オープニングを見れば十分かも。『ハルヒ』のダンスと同じく、超絶的に動きまくり、京アニの凄まじさを感じる出来。
らき☆すた OP「もってけ!セーラーふく」

しかし中身は、原作ベタ移植に近くって、いやその忠実度はさすがなんだけど、忠実すぎて予想の範囲を寸分も出ない。忠実すぎるつまらなさ。原作を化けさせるような改変、強化、抽出、純化は特に見られない。

ううむ。『ハルヒ』は原作組にとっては、当初割りと不安物件だったんだよな。あの文体(キョンの饒舌なしゃべり)をどうやってアニメで表現するか、とか、第1話における(意図的な)暴走とか。これ、どうやってアニメ化するんだろうという難しい作品や、普通レベルのスタジオにアニメ化してもらいたくないような作品なら、京アニの力も生きると思うんだけども。

テーマ:らき☆すた - ジャンル:アニメ・コミック

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最近の気になるゲーム(4月10日)

■クラシックブームの火付け役『のだめカンタービレ』

DSの実用ソフトではテーマ選びが重要です。去年は言語学習系が目立ちましたが、今年になって顕著なのは「健康」(運動)と「音楽」(クラシック)。すでにドラスの『デューク更家の健康ウォーキングナビ』、コナミの『どこでもヨガ』、スクウェアエニックスの『今日から始めるDSヨガレッスン(仮称)』など、多数の健康系ソフトが発表済み。

「のだめ」人気で火がついたクラシックは、スクウェアエニックスの『DSでクラシック 聴いてみませんか?』が発表済み。クラシックを題材にしたDSソフトは他にも出てきそうです。ゲーム版の『のだめカンタービレ』はアドベンチャーゲーム的な作りで、ファン向けのグッズ。下手に実用ソフトとして仕立てなかったバンダイの判断は冷静……ではあるものの、残念な思いが。ブームの火付け役だけに、クラシック物の大本命たりえたのになあ、と。

実用ソフトの活況は一通りテーマをやり尽くしたら落ち着くと思われます。今年は残るテーマを刈りつくし、来年からは徐々に落ち着いていくんじゃないかな。


■けっこう長かったね『逆転裁判4』

DS初期から期待されていたタイトルの割りに、具体的な情報が出てくるまで時間がかかったし、その後もなかなか待たされた感じ。DS版の『逆転裁判』の追加シナリオ等、寄り道があった影響? それともカプコンの携帯ゲーム機(DSかPSPか)に対するスタンスに揺らぎがあった影響?

ま、それはさておき、DSのメインユーザーとは異なるユーザーを惹きつけるタイトルなのは確か。ライトユーザーの獲得競争では、DSが圧勝している状態ですが、ゲーマー層の奪い合いはむしろ激化しています。ソフトメーカー各社も、全体としてDSに寄りながら、DSとPSPでのタイトルの住み分けを意識しています。(参考:ゲーマーはまだ次の「俺達のゲーム機」を選んでいない。

『ウィッシュルーム』がけっこう売れたみたいですし、DSのアドベンチャーゲームは(このジャンルの現状からすると)堅調に動いているので、シリーズ最多の売上も夢ではない?


■待たされたなあ『Fate / stay night』

正直、待ちつかれたという人も少なくないのでは。ボクもそうです……。2006年の時点では「今冬発売」だったのが、ずれにずれて、4月発売。表現の過激さから修正が入っていた『ひぐらしのなく頃に祭』とは違い、純粋に制作の遅れが原因だそうですが、3月ではなく4月になったのは、決算を安定させるための角川の判断かもしれませんね(前期は『ハルヒ』が大ヒットして好調だったので、今期大幅に落ち込むのを避けるため)。

「名前は知ってるけど、エロゲーはちょっと……」という人は、この機会にぜひプレイを! 

『Fate』といえば、カプコン発売(キャビア制作)の『フェイト / タイガーころしあむ』が発表されましたね。大手ソフトメーカーがエロゲーの関連作品を発売する日がくるとは……。商業と同人、コンシューマーとエロゲーの境界が希薄になってきている現状をよく象徴してますね。

次は以前から根強く噂されている『月姫』のリメイク版でしょうか? そろそろ完全新作を……という思いが強まります。以前、奈須きのこ氏がどこかのインタビューで答えたところでは、夏に小説『DDD』に片がついて、新作は来年末あたりを目処に……とのこと。なんか、だんだんドラクエみたいなスパンになっているような(笑


■ライトノベルっぽい世界観に惹かれる『ペルソナ3 フェス』

ライトノベルっぽい雰囲気が以前から気になってたのですが、いまだに遊べてません。アトラスのこの手のゲームは時間がかかるというイメージがあって、ちょっとおよび腰。最近は、ほんと、研究目的でしかゲームを遊びません。今度こそ……。と思ってますが……。

ゲーム、とりわけ非ノベルゲームのストーリーが昨今のライトノベルの状況にどれだけ追いついているのか、その点が気になってます。最近はストーリーメディアとしての力が落ちてますからね。


■うむむむむむむむむむむむむ……『FF12 レヴァナント・ウイング』

『FF12』の外伝がリメイク『FF3』よりショボいってどういうことなんですかねー? という疑問を抱くのはボクだけでしょうか? キャラクターデザインもちっとも魅力的じゃありませんし。FFというタイトルに求められる何かを見失ってるような!

これが『聖剣伝説』なら「爆死だね」で片付けられますが、仮にも『FF』ナンバーズの外伝ですからね。内容にはまったく興味ありませんが、『FF』の名前の力を測るソフトとして、売上動向にだけは関心があります。

そいや、DSの『聖剣伝説 ヒーローズ・オブ・マナ』は爆死しましたが、『聖剣』シリーズは凋落が著しい。つか、最近のスクエニって、旧スクウェア系のタイトルの枯らしっぷりが凄まじいです。


★ご注意
「気になるゲーム」はボクが気になっているゲームを紹介する記事です。発売済みのソフトも、これから発売予定のソフトも両方あり、プレイしたもの、未プレイのものもあります。

以前からゲームの紹介をしてほしいという要望は聞いていたんですが、結構な本数が出てくるなか、最後まで遊んでレビューするのは現実的に難しいです。

無論、ゲームで飯を食っている人間として、発売されるゲームをチェックしています。しかし必ずしも、自分が好きなゲームや面白い作品をプレイするわけではありません。むしろ失敗作から課題を見つけることもあります。気になっていても時間が取れなくて遊べないソフトもあります。

テーマ:▼ゲームの話 - ジャンル:ゲーム

最強の天才が人生を再開する物語 『鋼殻のレギオス』

鋼殻のレギオス雨木シュウスケ

汚染物質によって、人類の文明が衰退した時代。人々は自律型移動都市の中に住んで、かろうじて文明を維持していた。天才的な武芸者のレイフォンは、ある過ちを犯したことで生まれ育った都市グレンダンを追放され、他の都市で新しい生活を始めなければならなかった。

武芸に嫌気がさしていた彼は、剣以外に打ち込める何かを見つけようと、学園都市の普通科に入学した。しかし、学園都市を取り巻く危機的状況は、天剣授受者だった彼を、放っておいてはくれなかった。

無理やり武芸科に転属させられたレイフォンは、とある自衛小隊に入れられる。そこは、レイフォン同様、有り余る才能をもちながら、力を発揮しようとしない連中が集まった吹き溜まり。ただ1人、リーダーのニーナは試合に勝つための努力を続けていたが、他のメンバーのやる気が無い状態では結果は見えていた。

この作品が現代的なのは、主人公がまったく努力を要しない存在ということだ。最初からレイフォンは最強である。さしたる実戦経験もない、ヌルい学園都市の武芸者が相手になるはずもない。汚染物質を食らい、移動都市を破壊する巨大生物、汚染獣と単身で戦う怪物。もしもその気になれば、1人で学園都市の全武芸者を殺すことも可能かもしれない。

でも彼はその力を発揮しようとしない。凡庸な武芸者の振りをし、目の前の課題から逃げて、そのままやり過ごそうとする。武芸で得たかつての名声、失ったかつての人生を後悔しているからだ。他人のために戦う気持ちは無いのだ。

主人公が圧倒的な天才という設定で、物語を続けるのは大変なことだ。一歩間違うと、存在そのものがただの嫌味になってしまう。能力の制限が無いから、主人公の行動の動機づけが弱いと、説得力の薄い物語になってしまう。その点、この小説は、物語の展開がなかなか巧みで、自然に読み進んでいける。

物語の本筋とはあまり関係ないけど、レイフォンはやたらと女の子にモテるよなあ。生まれ育った都市に住む幼なじみ、危ない所を助けた気弱な女の子、小隊のリーダーである先輩、同じく小隊の仲間である無口少女。もう完璧超人ですね、こんちくしょう。今の所は、恋愛関係というより、友達レベルで進んでます。カップリングさせ放題。個人的には、文通でつながる幼なじみのリーリンが好みだけど、だんだん感情表現が豊かになっていくフェリの人気が高そうだなあ。

テーマ:ライトノベル - ジャンル:小説・文学

タグ:鋼殻のレギオス  雨木シュウスケ  

大人のドラマが読みたいあなたに 『ドラグネット・ミラージュ』

ドラグネット・ミラージュ賀東 招二
ドラグネット・ミラージュ 2 10万ドルの恋人

本当に書きたいものを書いた作品

今回はちょっと文体を変えてみる。
プロとして長く続けるには、好きなことで飯を食えて、それが自分に向いているという2つの幸運が必要。でもそうやってプロを続けていても、プロには好きなものを書けないというジレンマがつきまとう。

大抵の場合、自分が本当に書きたいものと、仕事で書いているものと、売れているものには大なり小なり隔たりがある。小説でも、ゲームでもそう。自分と周囲を省みてもそう思う。自分の会社を見回して、この3つが完全に一致しているように見える人はほとんどいない。この、なかなか一致しない、ままならないものを、一致させるべく努力を継続し、試行錯誤するのが人生における戦略なんだろう。(最近の梅田望夫さんの記事とも関係するかな?)

賀東招二という作家の代表作は『フルメタルパニック』。本物の戦場で生き残ってきた傭兵の少年が日本の高校にやってきて、とある女子生徒を護衛する話。いかにもライトノベルっぽい無茶な設定だ。随所にミリタリーマニアな嗜好や、ハードアクションへの愛着が見られるものの、若者向けのライトノベルとして、かなり抑制されている。

しかし売れている作品を書き続けていると、それなりに溜まるものがあるんだろう。もっと尖がったものを書きたくなる。そうして、思う存分、趣味に走ったのがこの『ドラグネット・ミラージュ』。

1巻では「原案:賀東招二、著者:きぬたさとし」となっていたけど、正体バレバレ。素直に開き直って、2巻では「著者:賀東招二」となっている。『フルメタルパニック』を完結させるまで他のシリーズを書かないと公約してたせいだが、そこまでして書きたかったのか! ならば期待するなという方が無理というものだ。


大人のドラマが好きなあなたに

西太平洋上に未知の超空間ゲートが出現した。妖精や魔物のすむ異世界「レト・セマーニ」につながり、そこには地球と同じように人間が住んでいた。両世界の人類は何度か争いを起こしながらも、平和的な交流を模索している。

舞台となるサンテレサ市は、超空間ゲートを目の前にした玄関港である。200万人を越える両世界の移民が居住し、日々異なる文化の衝突が起こっている。セマーニの魔法の品々と地球の兵器や薬物が裏取引され、これまで無かった形の犯罪も生まれている。サンテレサ市警察は、世界で最も新しい都市の治安をおびやかす特殊な犯罪に立ち向かっている。

主人公は敏腕刑事のケイ・マトバ。4年間組んでいた相棒が殺された「妖精」がらみの事件を追っているが、同じく妖精を追ってきた異世界の騎士との共同捜査を命じられる。相手はなんと若い少女騎士ティラナ。二人の第一印象は最悪だった。

よくわからない騎士としての誇りをもち、猪突猛進で、何かにつけすぐに剣を振り回すティラナが、マトバには足手まといに思えて仕方ない。一方、ティラナも礼儀しらずのマトバが気に入らないし、妖精をペットとしか思ってない警察の姿勢にも不満を抱く。

相棒の死。考え方や文化の合わない無鉄砲な若者とのペア。なかなか進展しない捜査。対立する二人。お互いの意外な面を知る機会。意外な視点の提示。見えてくる糸口。……海外刑事ドラマのような展開が続く。

しかし典型だからといって、飽きることはない。異世界と地球の人間が混じったサンテレサ市の状況は、現代都市には見られないハードなリアリティが満ちている。人々はしたたかで、悪賢く、過去にこだわり、変化に溺れ、憎悪を抱きつづけ、愛嬌があり、ユーモアをもち、しぶとく生きている。

何より作者の愛情が全編にわたって満ち満ちていて、本当に楽しんで書いているな、と伝わってくる。それは小説にとっても、読者にとっても幸福なことだ。

海外刑事ドラマが好きな人には間違いなく薦められる。才能をもった少年少女が強運や閃きで困難を克服する、清く正しいライトノベルに飽きた人にも、強くプッシュしよう。ゲームでいえば、小島秀夫氏の『ポリスノーツ』や『メタルギア』が好きな人にもぜひ読んでほしい!

テーマ:ライトノベル - ジャンル:小説・文学

タグ:賀東招二  ゼータ文庫  ドラグネット・ミラージュ  

「もっと」戦略崩壊に見る、実用ソフトの「終わり」

期待を大幅に下回った『もっとえいご漬け』の売上

累計実売170万本を越える『えいご漬け』の続編、『もっとえいご漬け』の売上が低調です。発売週の本数でみて、26万本の前作と5万本弱の今作。あまりに大きな開きがあります。『もっと脳トレ』が『脳トレ』以上に売れた事例もあり、甘い期待を抱いた流通関係者もいたはずです。
ゲームソフトが売れた理由を分析するのは存外難しいものです。売れた要因はクオリティ、宣伝、テーマなど色々あります。けれども1つ確かなのは、続編が売れ続けるには、ユーザーの満足度が非常に重要だということです。前作に満足しなければ、次は買いませんから、売上は伸び悩みます。

ごくシンプルに考えれば、『えいご漬け』を買った人の満足度が低かったから、『もっとえいご漬け』を買わなかったのでしょう。しかしこの場合の満足度とはなんでしょうか? グラフィックですか? 面白さですか? いえ、一番は学習効果でしょう。

『脳トレ』で楽しく頭をきたえた人たちが、今度は『えいご漬け』で楽しく英語を身につけたいと考えてソフトを購入したものの、長続きしなかった。英語力が高まらなかったのでしょう。

他にも、
  • 『えいご漬け』の発売から時期が開きすぎた。
  • 『脳トレ』と違い、面白さに欠ける。
  • 『えいご漬け』でも十分難しく、さらに上級と思われる『もっと』に挑戦しようという意欲がわかなかった。
……などの理由が考えられます。コナミの『NOVAうさぎ』を始め、『えいご漬け』以外のDSの英語学習ソフトもまったく売れていませんから、ユーザーはDSで英語学習することに過度の期待をしなくなったのでしょう。本やCDや英会話教室などに比べてどの程度効果的なのか、ユーザーの目に現実が見えてきました。

昔から多くの英語教材が現れては消えていきました。「これなら、私でも簡単に英語が身につく!」と期待された商品は大ヒットしますが、実際にはなかなか身につかないわけで、その結果、だんだんブームが冷めていきます。『えいご漬け』もその1つだったのでしょう。


実用性と娯楽性のバランス

2006年は数多くの実用ソフトが発売され、実用ソフトの面白さについても議論になりました。『脳トレ』は実用性の皮をかぶりながらも、中身はゲーム集でした。面白さの比重が高く、楽しみながら使えたのです。

ゲームは反復してだんだん上手くなる過程を楽しませる娯楽です。原理的にはトレーニングと親和性が高いのです。その頃のゲーム制作者の理解は「実用ソフトといっても、ゲーム的な原理、面白さがあるからこそ、ヒットするんだ」というものでした。

しかし『えいご漬け』『お料理ナビ』と、実用ソフトが続くにつれて、徐々にゲーム性は薄れていきました。『えいご漬け』はお勉強の要素が強く、『脳トレ』のような楽しさを期待した人からは、失望したという意見も聞こえてきました。でも『えいご漬け』はよく売れました。
実用性と娯楽のバランスは難しい

そして夏には『お料理ナビ』がヒットしました。衝撃的だったのは、『お料理ナビ』がトレーニングソフトではなかった点です。それまで、『楽引辞典』や『指さし英会話』といった、非トレーニング型の実用ソフトはさほど売れていませんでした。

『お料理ナビ』が売れたことで、実用性と娯楽性のバランスについての議論は、ネットでは見かけなくなりました。そして『もっとえいご漬け』が発売され、前作を大幅に下回るスタートとなりました。


過剰な期待が現実に変わるとき

『脳トレ』で楽しく脳を鍛えられた体験により、DSはただのゲーム機ではなくなりました。「DSなら続かなかった○○○○が続くんじゃないか」という期待感がふくらんだのです。DSの爆発的な普及に後押しされ、ソフト市場も爆発的に拡大。人々は色々なテーマの実用ソフトを購入しました。

ソフト単体の品質は当然として、『えいご漬け』や『お料理ナビ』はその勢いに後押しされたおかげもあったでしょう。けれども過剰な期待感は、やがて現実に変わります。実際に購入して使ってみれば、どの程度楽しく学べるのか、本にくらべてどれだけ役に立つのか、はっきり理解できます。

つまりDSの実用ソフト市場は、過剰な期待から現実へと着地しつつあるフェーズに入った、といえます。なんだかんだいって、ゲームの「何度もくり返したくなる」仕掛けのノウハウは、大したものなんです。それが再認識されるんじゃないかな。

ボクはレシピソフトの市場も懸念しています。『お料理ナビ』や『健康レシピ1000』は、レシピソフトとして異例の売上を達成しましたが、売上ランキングを見ると、『脳トレ』や『えいご漬け』に比べて売上の鈍化ペースが早い印象です。

本屋にいくと、料理本はまだまだたくさん棚を並んでますから、料理というテーマへの関心が下がったわけではありません。おそらくは、ゲームの内部に毎日続けさせるための仕掛けが無く、持続力が弱いためでしょう。


どこで終わったかが大切

実用ソフトが通常のゲームと異なる点はいくつもありますが、その中で特に大きいのが「エンディングが無い」ことです。RPGなどのストーリーゲームは、終わりを迎えて、世界が平和になったり、登場人物たちがハッピーになって、プレイヤーは感動し、満足します。

では実用ソフトは、どこで終わるのでしょう?
まず考えられるのは、途中で飽きた時、途中で挫折した時です。しかしこれって最低ですよね。プレイヤーが満足した状態で終わらない。すると次は買わなくなります。

学習ソフトは段階的に勉強します。学習ソフトをやめた時、多くのプレイヤーは最終段階をクリアしているでしょうか? いえ、おそらくは段階の途中で挫折しているのでしょう。レシピソフトを買った人は、起動しなくなった時点で、実際にいくつの料理を作ってるんでしょうか。

一方、『脳トレ』は前提となる知識や技術がほぼゼロのため、挫折しにくいですし、ある程度満足した所でやめやすいんです。脳年齢が20歳になった時、実年齢より下がった時、すべてのゲームがオープンした時、……。それなりに満足感をもって終われる区切りがあるんですね。


終わりの無いゲームの終わり方

多くの実用ソフトは、毎日使ってもらうことを、毎日継続してもらうことを念頭に置いています。理想はエンドレスです。けれども実際には、大多数のユーザーはどこかでやめてしまいます。だから気持ちよく終われるように作っておかなければいけないのです。終わりの無いゲームで「終わり」を意識する。これはちょっとしたジレンマです。

3日か、1週間か、2週間か、1ヶ月か。大半のユーザーがどこでやめてしまうかは、ソフトの内容にもよるでしょう。そこでやめた時に、自分で立てた目標を達成できているのか、ゲーム内の大半の要素はオープンしているのか。そういうことが大切です。

最近いくつかの会社の実用ソフトを遊んでいて、とても気になったのは、ゲーム内の要素を出し惜しみし過ぎている点です。中身が見えているのに、グレー表示で選択できないメニュー。しかもクローズドの要素が圧倒的に多く、最初はチマチマした物しか選べず、1回目のオープンまでにつまらないプレイを反復させられる。

毎日続けさせることを意識するあまり、出し惜しみしすぎて、それこそ3日も続かないソフト。それはまるで、後半のステージに派手で、楽しい要素を持っていき、序盤はつまらなくてショボいステージが連続するゲームと同じです。

長い期間、毎日遊んでもらいたい。けれども大半のユーザーは途中でやめてしまう。このジレンマに対して、どう落とし所を作るのか。「終わり」のゲームデザインが重要なのです。

彼らは自然に笑えているか 『薔薇のマリアVer2 この歌よ届けとばかりに僕らは歌っていた』

薔薇のマリアVer2 この歌よ届けとばかりに僕らは歌っていた十文字 青

『薔薇のマリア』の外伝シリーズはザ・スニーカーに連載された連作短編を本にまとめたものです。それ自体は、ライトノベルでは珍しくない構成です。ただ『薔薇のマリア』では、長編のように1冊ごとに物語の主人公が決まっていて、あたかも長編小説のように読むことができました。

でもこの巻は1巻、2巻と異なり、純粋に短編集として構成され、短編ごとに主人公は異なっています。描かれるのは、トマトクン、ピンパーネル、カタリ、マリアローズの4人の過去。その中でも、ZOOのリーダーにして謎の多い男トマトクンと、いつも無口なピンパーネルの昔話はファンなら読み逃せません!

ZOOのメンバーの中で、いまだ本編に姿を現さないリルコが登場するのも、興味深いところです。一億人に一人の不運を背負ったサフィニア、森に生きる少女ロム・フォウ、妖艶な魔女リルコ。トマトクンって、朴念仁を絵に描いたような男なのに、やたらとモテまくりです。

圧倒的に強い彼も、精神的にはかなり欠けた所の多い人間。長い時間を生きるなか、しだいに生きることの意味を見失っていました。戦い続ける意義を感じなくなった彼は弱くなりました。けれども、そのかわりに確かに何かを得たのです。何を?
 俺はろくすっぽ動けず、こどもにあれこれ尋ねられ、それにぽつぽつ答えるくらいが精一杯だった。それさえも正直つらかったが、こどもはたまに冗談らしきことを言って、笑えよ、と俺に要求した。俺にはよくわからなかった。笑う。どうやるんだ。俺はそう尋ねたんだろう。すると、こどもが笑ってみせた。口を左右に思いきり開いて、歯を見せて、目を細めて、「シシシ」とも「ヒヒヒ」ともいえない、そんな音を出す。それが笑うってことなのか。そうだ。おまえも笑えよ。笑ってみせろ。俺は笑ってみた。「ヒヒヒ」「シシシ」「ヒヒヒ」「シシシ」そんなことをやっているうちに、何か胸のつかえがとれたような気分になって、楽になった。
 笑う。
 そうか。笑うってのは、こういうことなのか。
こうして4人の過去を知ると、彼らがパーティを組むようになったのが必然だったかのように思えてきます。彼らは生きるために集まったのだと。もちろん「生きる」とは、ただ生存するという意味ではありません。彼らは自然に笑えているでしょうか? ええ、彼らは自然に笑えています。


関連
ウィザードリィ小説を継ぐライトノベル『薔薇のマリア』
無力さと絶望と生きるということ 『薔薇のマリア』
トカゲトカゲトカゲトカゲトカゲトカゲトカゲトカゲトカゲ 『薔薇のマリア』
怒涛の新章突入! 人が人に残すもの『薔薇のマリア』
かくして彼らはパーティを組んだ 『薔薇のマリアVer0 僕の蹉跌と再生の日々』
もう1つの薔薇のマリアがここに 『薔薇のマリアVer1 つぼみのコロナ』

テーマ:ライトノベル - ジャンル:小説・文学

タグ:薔薇のマリア  十文字青  

3月の売上集計

3月の売上はやや落ちました。ゲームソフトの売上が激減してます。紹介記事の数が減ってますし、率直にいってめぼしいソフトも無かったので、当然の結果かもしれません。

面白いのは2月に紹介した本のほうが3月に紹介した本よりも売れていることです。中でも『ミミズクと夜の王』と『小説の読み書き』はめざましく、見事に売上の1位と2位を飾りました。


■ライトノベル部門

1位 ミミズクと夜の王紅玉いづき

書評:ジブリにアニメ化してもらいたいような、まっすぐな物語 『ミミズクと夜の王』
2月に紹介した本ですが、堂々のトップセールス!
よく行く本屋でもレジ近くで一押ししてました。世界のおとぎ話の1つに仲間入りしてもおかしくない、時代を超えたウェルメイド。

家畜として村人から虐げられていたミミズクは、深い森の中で夜の王と出会い、森に住みます。人嫌いの夜の王と暮らすうちに、彼女は何かを得ていました。しかしその生活は長続きせず、彼女は優しい人々に「救出」されます。王都で彼女は人間として本来与えられるべきだったものをことごとく与えられます。少女は獣から人に戻ったのです。しかし愛を知った人は、自分の運命を選択するのです。


2位 小説の読み書き佐藤 正午

書評:小説家は小説をどう読むのか? 『小説の読み書き』
作り手視点の読み方というのは興味深いものです。
作り手が鋭い読み手たりえるのは、2つ理由があります。1つは創作に関する知識と経験を持っているからです。もう1つは作り手が「同じ悩み」を共有し得るからです。同じ悩みを持った人であれば、その作品の示した「解」の価値をより強く理解できます。もちろん逆に、同じ悩みを抱いたことがなければ、「解」の価値は理解できないでしょう。

作り手視点の読みは、その人が「執着」している箇所が如実にわかります。ある作品の批評でありながら、結局、自分がどういう部分を重視しているかという、自己言及になるのです。


3位 All You Need Is Kill桜坂洋

書評:リセットし続ける勇者の物語 『All You Need Is Kill』
先月に続いてまたもランクイン。安定した人気です。タイムループ物としての完成度が高く、SFファンにはぜひオススメします。うちのブログの読者は比較的年齢が高いようで、『ミミズクと夜の王』といい、これといい、大人でも読みやすいライトノベルが売れやすい傾向が顕著です。


4位 技術の伝え方(畑村洋太郎)

書評:相手を「伝わる状態」にするのが肝要 『技術の伝え方』
こういう本は地味にニーズがあるみたいですね。もっと積極的に紹介した方がいいのかな? ゲーム業界に限らず、「暗黙知」の継承は大きな課題になっていると思います。どうやって相手を伝わる状態にするかについて書いた本です。薄くて簡単に読み終えられるので、時間の無い人にもオススメです。


5位 麗しのシャーロットに捧ぐ尾関 修一

書評:ミステリーの無いミステリー文庫に誕生したゴシックホラーミステリー 『麗しのシャーロットに捧ぐ』
この本も人気が高いです。「2月の売上集計」で取り上げた本がそのまま今月も売れてるんですよね。「いま売れている」が最強の宣伝文句とはよく言われますが、書評にくわえて、他の人も買っているという実績が背中を押してるんでしょうね。


6位 レインツリーの国有川 浩

書評:真摯な対話を核にした恋愛物語 『レインツリーの国』
ある障害を抱えた女性と健常者の男性の恋愛小説です。この小説の大部分は、その障害をめぐっての二人の対話です。彼のほうは無理解を埋めていこうとし、彼女のほうも前に進む勇気を持とうとします。

二人の立場は違います。真剣に議論すればするほど、お互いの心をえぐるようなやり取りにもなります。人と人が真正面からぶつかり合えば、そうなる事もあります。それでも二人はコミュニケーションを続けます。

すれ違っても、自分の非は謝罪して、でも相手の非も指摘して、前に進んでいく二人を見ていると、なんとも無性に応援したくなります。

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悲劇で終わる小説、いずれ救われる絶望の物語 『Fate / Zero 2 王たちの狂宴』

Fate / Zero 2 王たちの狂宴(虚淵玄)
『Fate』の外伝にあたる、第四次聖杯戦争を描いた同人小説の第2巻。
この巻でもセイバーの苦闘が続きます。相変わらず、セイバーがこっぴどく、いじめられます。いやはや、第四次聖杯戦争では、つくづく酷い目に遭いまくりですね。

王たちの狂宴というサブタイトルにふさわしく、3人の王が一同に集い、その王たる自分の信じることをぶつけ合うのですが、征服王と傲慢王という2人の強大な王に、セイバーは翻弄されるばかりです。
「騎士どもの誉れたる王よ。たしかに貴様が掲げた正義と理想は、ひとたび国を救い、臣民を救済したやも知れぬ。それは貴様の名を伝説に刻むだけの偉業であったことだろう。
 だがな、ただ救われただけの連中がどういう末路を辿ったか、それを知らぬ貴様ではあるまい」
「何――だと?」
 血に染まる落日の丘。
 その景色が、再びセイバーの脳裏を去来する。
「貴様は臣下を”救う”ばかりで”導く”ことをしなかった。『王の欲』のカタチを示すこともなく、道を見失った臣下を捨て置き、ただ独りで澄まし顔のまま、小奇麗な理想とやらを想い焦がれていただけよ。
 故に貴様は生粋の”王”ではない。己の為ではなく、人の為の”王”という偶像に縛られていただけの小娘にすぎん」
「私は……」
 言い返したい言葉はいくらでもあった。だが口を開こうとするたびに、かつてカムランの丘から見下ろした光景が、瞼の裏に蘇る。
ここで描かれている苦しみから彼女が解き放たれるのは『Fate』本編、第五次聖杯において、衛宮士郎と出会ってからです。つまり、この小説の中で、彼女が酷い目に遭い続けるのはすでに確定事項なのです。

この小説を読もうとする人は、おそらく全員が『Fate』本編を知っていると思います。悲劇で終わるほかない物語を読むのは、なかなか大変です。登場人物の大半が死亡することも、彼らの野望や夢や希望がこっぱ微塵に打ち砕かれることも、最初から見えているのですから。

しかし同時に、この小説の未来、『Fate』本編において、次の世代が救いをもたらすことも、僕らは知っています。つまりこれは、苦悩の中で次の世代につなげる何かを見出す物語としても読めるのです。そう読まなければ、彼らを待ち受ける運命、あと2冊で訪れる終局は凄惨すぎます。

もう1つ、この外伝ストーリーの魅力を挙げるなら、何と言っても征服王とそのマスターのコンビでしょう(笑 この2人が出てくると、沈鬱な雰囲気をすべてぶっ飛ばして、もののふの暴れる時代をおっ始めます。『Fate』を呼んでいたらいつのまにか『花の慶次』が始まっていたという感じです。

笑うほかない覇王っぷり。この人が本編に出なかったのが残念ですが、もし登場していたら、ストーリーが完全にぶっ壊れていたでしょうね。外伝だからこそ登場できたお人といえましょう。

Fate / stay night [Realta Nua] extra edition 特典 Fate胸像コレクション第一弾:聖杯【セイバー】付き


関連
夢のコラボレーション小説 『Fate / Zero』

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あれ? いつのまに別の小説に紛れ込んだ? メタSF風味全開の新章 『涼宮ハルヒの分裂』

涼宮ハルヒの分裂谷川 流

『消失』以降の遅々とした展開に業を煮やしていたハルヒファンが歓喜のおたけびを上げるような急展開、新展開の嵐! 嵐! 嵐!
これまで溜めてきた伏線を一気に回収する怒涛の展開です。
今回は1冊で終わっておらず、6月1日発売の『涼宮ハルヒの驚愕』に続く上下巻構成になっています。こんな所で終わりやがって、こんちきしょう。

読者を良い意味で裏切ってくれます。
最初の3分の1、プロローグまでは普通に涼宮ハルヒをしてるんですが、いつの間にやら『学校を出よう!』ばりのメタSF小説に変貌しています。

同じ作者の『学校を出よう!』シリーズは、作者のSF趣味が発揮された作品で、『ハルヒ』はそういうのを意識的に抑制した小説だったんですよね。その甲斐あって、娯楽作品として軌道に乗ったのでしょうけど、ここにきてSF濃度がいきなり激増。

いよいよ姿を現した敵の宇宙人『天蓋領域』周防九曜、おそらく今度こそ登場した(?)異世界人など、新キャラも増えて、どう落とすつもりなんだ、これ? αとβに分裂した小説の行方はいかに?
『天蓋領域』
 芝居っ気を考慮しない長門は、淡々と述べた。
『それは我々から見て天頂方向より来た』
「キョンなんて、すごいユニークなあだ名だね。どうしてそんなことになったんだい?」
「へぇ。キミの下の名は何というんだ?」
「それがキョンになるのか? いったいどんな漢字で……あ、言わないでくれたまえ。推理してみたい」
「多分、こんな字を書くんだろう」
「由来を聞いていいかい? この、どことなく高貴で、壮大なイメージを思わせる名前の理由」
「いいね」
「でも、キョンってほうが僕は好きかな。響きがいい。僕もそう呼んでいいかい? それとも別の名称を考案しようか。どうやらキミはそのニックネームがあまり気に入っていないようだからね」
少しずつ時間が経ちながらも、若干エンドレス風味に見せていた『ハルヒ』ワールドが完結に向けて、本格的に動き出した感じ。最近、不思議な出来事を引き起こさないでいたハルヒがひさしぶりにややこしい事態を起こしたのも、その兆候でしょう。

SOS団という居心地のいい空間で遊ぶことの満足→ハルヒの超常能力の発現頻度の低下=ハルヒの自我の安定という流れでしたが、そのまま落ち着くほど簡単な女じゃなかったですねえ。卒業まで引っ張るようにも思えませんし、かといってどこで終わるか、予想がつくかというとさっぱり読めません。伏線はまだまだあるだけに、続きを読むのが楽しみでなりません。

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