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ゲーム小説が読みたいあなたに話題の逃避作を 『扉の外』

扉の外土橋 真二郎
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中学生や高校生が閉鎖環境に閉じ込められて、あるルールの下で競争させられる。そういうシチュエーションノベルはいくつもありますが、この作品の特徴はお互いの暴力行使は禁じられていて、戦いはコンピュータ上のシミュレーションゲームで行う点です。ミステリアスな舞台設定、ゲームの絶妙なルール、各リーダーの閉鎖環境でのヘゲモニーの取り方など、各要素がしっかり考えられていて、ゲーム小説として秀逸な出来です。

このジャンルが好きな人は、読み逃しのないように。ただし、『バトルロワイアル』のようにルール(および運営者や審判)と対峙する方向には進まないため、その種のカタルシスは得られません。主人公は熱血度は限りなくゼロに近く、むしろ逃避癖が強い少年です。集団の輪の中になじめず、溶け込めず、家族から、クラスから、逃げたがるのです。

クラスの面子といっしょに閉鎖環境に閉じ込められてもなお、彼は逃避しようとするのです。筋金入り。あるヒロインは彼のことを痛烈に批判します。
「出て来た? 違う、逃げてきたんだろ。密室で他人とコミュニケーションが取れずに、別の場所に逃げてきた。お前は昔からそうだ。嫌なことがあると、そこから移動することだけを考える。解決することなく、ただポジションをずらす」
(略)
「おまえはいつもそうだ。いつも逃げてばかりで、地球を一周するつもりか? そうしたらどこに逃げる? 自分の心の中か? おまえはこの世界で存在はない。心の中の国で存在するなんて、なんて情けない人間だ」
彼は明らかなコミュニケーション不全で、読者のなかには中高生のある時期そういう状態になりかけた人もいるでしょう。言ってしまえば、中二病です

この小説を貫く感性は、何か強大なものへの反骨精神だとか、誰かを守るための燃える心ではなく、徹底的な逃避精神です。社会や他人と相容れない、扉の外へと出て行きたがる、その方が落ち着く心。

小説の登場人物に感情移入する読み方では、この本はあまり楽しめないでしょう。この世界の謎はかなり投げっぱなしで終わっているので、そこも人を選ぶところです。しかし、少し引いた視点から読む人には、良くできたシチュエーションノベルとしてオススメできます。

この小説を巡って、ネット上の評価は賛否分かれたようです。まさしく問題作ならぬ逃避作。最後にこの小説の精神をよく表している部分を引用します。
「小学校三年の頃だった。近所の友達と遊んでいた時、遊びの延長で廃棄された冷蔵庫に閉じ込められたことがある。最初はすぐに出してくれるかと思ったが、いつまでたってもドアが開かない。忘れられたのだと思った。狭く暗い冷蔵庫の中で、私は発狂寸前だった。未だに閉所恐怖症だ」
「ひどいことするのね。それで、どうしたの?」
「泣き疲れ、恐怖で磨り減った頭で、私はこう考えた。この狭い空間が私の国だと。闇の広さが国土で、国民は私だけ。ここは私を守ってくれる空間だと」
「世界で一番小さな国ね」
「国民が一人であるのは、少々寂しいとも考えた。だから、最初に私が見た人間を、国民にしてやろうと考えた」
「ということは、助けてくれた人が、国民となったのね」
「ああ、そいつだけは、たった二人の国民だから、未だにイーブンの関係を続けている。その他の人間は、他の国の人間だった。だから、私の人間関係は、支配するか敵対するか関係を持たないか、それしかなかった」


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テーマ:ライトノベル - ジャンル:小説・文学

タグ:土橋真二郎  扉の外  

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