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リセットし続ける勇者の物語 『All You Need Is Kill』

All You Need Is Kill桜坂洋
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「据置ゲーム機の分裂」で予告したとおり、桜坂洋の代表作『All You Need Is Kill』の書評を書きます。SFで戦場物というと、人類が絶滅の危機に脅かされていると相場が決まってますが、この小説の人類も例外ではありません。

突如人類の前に現れたギタイという謎の敵によって、人類勢力は後退と減少を続けていました。交渉のできない相手との生存を賭けた戦争が続くなか、臆病な少年、新兵のキリヤ・ケイジは世界のあちこちにいる、使い捨てのろくでもない雑魚として、あっけなく戦死しました。

……はずなのに目が覚めれば、自分は生きていて、クソったれな出撃前日の朝に戻っているのです。最初は夢かと疑い、戦死。そしてクソったれな朝に。現実と認識すれば、戦場から逃走するも戦死。そしてクソったれな朝に。拳銃で自殺を図るも、やはりクソったれな朝に。

敗北必至の激戦の前日を永遠に繰り返すループ。キリヤはこのループから抜け出す努力を続けます。戦場の牝犬リタ・ヴラタスキのように圧倒的に強い兵士になり、独力で敗北戦を生き残る! 出撃、戦死。出撃、戦死。出撃、戦死。出撃、戦死。出撃、戦死。出撃、戦死。出撃、戦死。出撃、戦死。出撃、戦死。出撃、戦死。出撃、戦死。出撃、戦死。出撃、戦死。出撃、戦死。出撃、戦死。出撃、戦死。出撃、戦死。出撃、戦死。出撃、戦死。

どんなベテラン兵士でさえ経験できない、膨大な数の死地を乗り越えて、臆病な新兵にすぎなかったキリヤは人類最強の兵士に成長していきます。そしてループが158回を数えた時、戦場の女神と再会します。

繰り返されることで、キリヤの「生」は薄っぺらくなっていき、「死」への恐怖も次第に薄らいでいました。彼女との再会後、急激に生の実感が回復していく様子は、心温まる微笑ましい部分です。
 渦巻く梅干しの中からひと粒を選びだし、リタは口の中に放りこんだ。
 もぐもぐ。ごくん。ぺっ。種が転がった。
「すっぱくなんかないぞ」
 目尻に涙が浮かんでいる。
 彼女は樽をずいと押した。次はぼくに食べろということらしい。
 できるだけ小ぶりのひとつを選びだし、口に入れる。
 食べる。種を吐きだす。
「ぼくもすっぱくなんかない」
 チキンレースだ。受けてたとう。
しかし、この二人に関しては、もういくつかエピソードが欲しかったのも確かです。ネットでも、後半をもっと描きこんでほしかったという意見を割と見かけます。これだけのクオリティの物語がコンパクトにまとまっている事には作者の大きな力量を感じますが、読者は贅沢なもの。優れたアイデアの作品に出会ったとき、もっと味わいつくしたいという欲求をおぼえるものです。

本好きでも、SFというと文章が読みにくいというイメージを抱いている人はいらっしゃると思います。そういう人にぜひオススメします。この本は密度の濃い物語が、読みやすい文体で綴られています。もちろん、戦場SFが大好きな野郎どもにも最高の一冊。

実際、この作品によって、『よくわかる現代魔法』という少女小説でデビューした桜坂洋は、本格SF作家として認知されるようになったのです。
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テーマ:ライトノベル - ジャンル:小説・文学

タグ:桜坂洋  

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