Latest Entries
開発マネージメントについての議論が高まっている
■デバッグについての話題を多く見かけた
バンダイナムコの『カルドセプト』、セガの『ファンタシースターユニバース』と『ぷよぷよDS』、任天堂の『ポケモン』など、ゲームソフトの不具合が相次いでいます。そのせいか、昨年末から年頭にかけて、ゲーム開発者のブログや掲示板で、デバッグについての話題をいくつか見かけました。
ユーザーレベルの議論としては、重大なバグを出した会社を吊るし上げて集中砲火で叩く意見が圧倒的に多いものの、一方で制作サイドとしては、対岸の火事として安穏と眺めてもいられない気分なのでしょう。騒がれ、目立った事例だけが問題ではなく、たまたま騒がれなかった事例もあるはずで、リスクが高まっているという認識が、ゲーム制作者の間で共有され始めています。
単に、重大なバグを出した会社の問題という視点ではなく、ネットの普及にともない、不具合についての情報、それに対する企業の対応がまたたく間にネットを駆け巡って、炎上する時代だというリスク認識です。
同業他社の人と飲んだり、あるいはメール、チャット、その他で色々な雑談をしていても、不具合に関する話題はやはり出てきました。こういうブログをやっていると、開発スタジオの現場の方からタレコミ的、オフレコ的なメールをいただく事もあります。議論の深さはまちまちなものの、問題がそう単純ではないという認識に至ります。
わかりやすい理由に帰結できるかというと、意外と根深いものに突き当たったりします。個々の事例にフォーカスを当てすぎると、表層的な理由が目について、かえって深層の要因を見失う可能性もあります。包括的に見ていけるよう、事例の収集を淡々と行い、精神論や表面的な解決に陥らないことが必要でしょう。
■要因を探る
比較的、表層レベルの要因を箇条書きにしてみます。
少なくない企業で、品質に対してのモチベーションが低下しがちのようです。短納期化は明らかに、この傾向に拍車をかけています。何故なら、期間内で開発を終えることは評価されやすいのですが、不具合を起こさないことは評価されないからです。起きたら責任を問われますが、起きなければ何の評価もされない性質のため、相対的に優先度が下がってしまうのです。失敗を防ぐ仕事は、失敗が起こらないがゆえに評価されないというジレンマを抱えています。
また失敗事例は、企業内においてタブー視されがちです。誰だって、成功はみんなから誉められたいし、失敗は誰からも言及されたくないからです。失敗を失敗と言うと、当事者や関係者から無用の恨みを買ったり、組織内に亀裂を入れることになりかねません。そして失敗はろくに要因分析されず、腫れ物にさわるような扱いになり、結果として同じような失敗を繰り返します。
これは別にゲーム会社に限らず、一般的によく起きていることで、その反省から例えば「失敗学」などが注目を高めているわけです。企業経営において、いかに感情をこじらせずに失敗データベースを蓄積し、未然のミスを防ぐかは、優先度の高い課題になりつつあります。
■「知」の継承
また開発のノウハウ、基本知識の継承がうまくいってない事例も耳にします。と書くと、ゲーム開発者でない人間がまたぞろ「ゲームデザイン学が……」などと言い出しかねませんが、従来感性でやっていた部分を合理化しようという話ではなく、それ以前の問題なのです。
事はもっと単純かつ深刻で、「誰がやってもあんまり変わらない部分」がきちんと伝達されていないケースが多いようです。
学問的な志としては、ゲーム開発において感性や才能に依存した部分を解体し、汎用化し、プロセス化(マニュアル化)したいという欲望があるのかもしれませんが、じつは現場に最も不足しているのは、「誰がやってもあんまり変わらない部分」のプロセス化と共有化なんじゃないかと思います。
つまり学問的には、ドキュメント化しにくい部分をドキュメント化しやすくするために、理論と用語を整備しましょう、というのが第一歩になりがちなのですが、現場的に必要性が高いのは、ドキュメント化できる/しやすい部分をまずはきちんとドキュメント化しましょうよ、という事です。
■開発戦略とモチベーションの維持
ゲーム会社の存在意義
モチベーションの維持は非常に重要な課題で、ゲームのマボロシのあれれさんの記事は、ゲーム会社のマネージャー向けの、興味深い問題提起です。ゲーム業界は他業種に比べて、ユーザーの声が大きく、伝統的にユーザー志向の強い産業ですが、制作者の「作りたいもの」とユーザーの「欲しいもの」が乖離している、という指摘は説得力があります。
経営側は開発側よりも先に市場に反応しますから、開発側に「作りたくないもの」を押しつける事があり、去年表出した「脳トレクローンなんて作りたくないけど、会社が作れって言うんだよ」問題が思い出されます。開発側からは「ブームなんてすぐに終わる」「脳トレクローンなんて売れないよ」という抵抗が出てくることもありましたが、50万本出荷した『漢検DS』を筆頭にサードパーティの実用ソフトの売れ行きが堅調なため、任天堂の実用ゲームしか売れないという主張は瓦解し、経営サイドが自信を深める材料がむしろ揃いつつあります。
ややバブリーに展開してきているので、さほど長くは持たないかもしれませんが、弾けるまでの儲けられる間に儲けたいのが経営サイドの欲望でしょう。1、2年の間は、この路線の案件は増えるでしょう。
開発技術のキャッチアップにしても、「キャハ。キバっちゃっても、どうせショボグラはショボグラだろ。スクウェア以外ほしくねーよ、ぶははは」という辺りが、ユーザーサイドからの残酷な本音でしょう。開発サイドの強迫観念に報いるほどのリターンはどこにも無いのが実情でしょう。無論、スクウェアやカプコンなどは高い開発力を維持する努力に、リターンが得られます。ユーザーの使える時間が減っているなか、全体として「選別」が進んでいます。いまだに筋の悪い路線に、多大な労力が無駄に突っ込まれている感はあります。
■日本のゲーム業界は復調しているはずだが……
2006年の国内ゲーム市場は97年の記録を追い抜き、史上最高の規模に成長しました。E3縮小を受け、ゲームショウも4日間に増え、日本のゲーム業界は衰退どころか再び絶頂期を迎えつつあります。
任天堂のひとり勝ちと言われつつも、スクウェアエニックスは大幅に利益拡大し、カプコンも北米市場で大成功をおさめています。ハドソン、イマジニアなど、小回り重視で儲けている会社もあり、各社の業績は上向いていて、悪い材料は少ないです。据置ゲーム市場の縮小のあおりで、ロスが生じている企業はあるものの、来期には路線転換の効果が現れてくるはず。2003年頃の停滞期に比べれば、明るい材料が多いです。
しかしモチベーションに関連して、最近「うつ」の話を耳にする事が増えました。ボク自身はあまり縁のない(少なくとも実感のない)ものなので、身近な所でどれぐらい深刻なのかはじつは把握できてはいないのですが、ここ数ヶ月、同業他社の人たちから「うつ」についての話が出てくる事があり、なんとなく頭に残った状態で本屋に行くと、割と目立つところに「うつ」本が置かれているのを見ると、流行ってるのかなあ……などと思うのですが、サンプリング数が少なすぎて、全体の傾向としてどうなのかはちょっとわかりません。
今年一年の様子を見てみないと、何とも言えませんが。
とはいえ、好景気のほうが仕事の量は増えるから、労働負荷という点では、じつは増加傾向にあるのです。また市場の変化が急激なため、多くのゲーム開発者に考え方の転換が求められていて、大きな負荷になっている可能性はあります。数字を達成するために各企業でストレスが生じているのでしょうかね?
ある種の有能さが従来の路線への最適化によるものだとするなら、有能な人物に限って、変化への対応が遅れ、心理的なストレスも抱えこむという、嫌な事態を招いているのでしょうか?
してみると、昨年末あたりからネット上において、マネージメントについての議論、論考が増えつつあるのも、潜在的なニーズが高まっているからかもしれません。
以上、まとまりの無いトピックを飛び飛びに書きましたが、今後ぽつぽつと関連する話題を書いていこうかなと思っています。
(センシティブな話題なので、コメントの際に「管理者にだけ表示を許可する」を使っていただいても結構です。これをチェックして投稿すると、管理人のボクにしか読めませんし、ボクでも公開は不可能です。オフレコ専用機能ですね。)
バンダイナムコの『カルドセプト』、セガの『ファンタシースターユニバース』と『ぷよぷよDS』、任天堂の『ポケモン』など、ゲームソフトの不具合が相次いでいます。そのせいか、昨年末から年頭にかけて、ゲーム開発者のブログや掲示板で、デバッグについての話題をいくつか見かけました。
ユーザーレベルの議論としては、重大なバグを出した会社を吊るし上げて集中砲火で叩く意見が圧倒的に多いものの、一方で制作サイドとしては、対岸の火事として安穏と眺めてもいられない気分なのでしょう。騒がれ、目立った事例だけが問題ではなく、たまたま騒がれなかった事例もあるはずで、リスクが高まっているという認識が、ゲーム制作者の間で共有され始めています。
単に、重大なバグを出した会社の問題という視点ではなく、ネットの普及にともない、不具合についての情報、それに対する企業の対応がまたたく間にネットを駆け巡って、炎上する時代だというリスク認識です。
同業他社の人と飲んだり、あるいはメール、チャット、その他で色々な雑談をしていても、不具合に関する話題はやはり出てきました。こういうブログをやっていると、開発スタジオの現場の方からタレコミ的、オフレコ的なメールをいただく事もあります。議論の深さはまちまちなものの、問題がそう単純ではないという認識に至ります。
わかりやすい理由に帰結できるかというと、意外と根深いものに突き当たったりします。個々の事例にフォーカスを当てすぎると、表層的な理由が目について、かえって深層の要因を見失う可能性もあります。包括的に見ていけるよう、事例の収集を淡々と行い、精神論や表面的な解決に陥らないことが必要でしょう。
■要因を探る
比較的、表層レベルの要因を箇条書きにしてみます。
- 短期開発の案件が増えて、デバッグ期間も短くなった。
- 国内市場の拡大や、欧米の次世代機市場の好調を受け、仕事の発注が増えていて、管理が甘くなっている。
- 次世代機の開発において、十分な開発期間が得られなかったり、技術的についていけない部分があり、チームの人数が肥大化したことで、不具合発生の確率が上昇した。
- デバッグチームの外注化が進み、デバッグ専門の会社の仕事のクオリティにばらつきがある。
- 海外拠点の活用をふくめて、開発の分業化が進んだため。
少なくない企業で、品質に対してのモチベーションが低下しがちのようです。短納期化は明らかに、この傾向に拍車をかけています。何故なら、期間内で開発を終えることは評価されやすいのですが、不具合を起こさないことは評価されないからです。起きたら責任を問われますが、起きなければ何の評価もされない性質のため、相対的に優先度が下がってしまうのです。失敗を防ぐ仕事は、失敗が起こらないがゆえに評価されないというジレンマを抱えています。
また失敗事例は、企業内においてタブー視されがちです。誰だって、成功はみんなから誉められたいし、失敗は誰からも言及されたくないからです。失敗を失敗と言うと、当事者や関係者から無用の恨みを買ったり、組織内に亀裂を入れることになりかねません。そして失敗はろくに要因分析されず、腫れ物にさわるような扱いになり、結果として同じような失敗を繰り返します。
これは別にゲーム会社に限らず、一般的によく起きていることで、その反省から例えば「失敗学」などが注目を高めているわけです。企業経営において、いかに感情をこじらせずに失敗データベースを蓄積し、未然のミスを防ぐかは、優先度の高い課題になりつつあります。
技術の伝え方(畑村洋太郎)![]() amazon bk1 | 失敗学のすすめ![]() amazon |
■「知」の継承
また開発のノウハウ、基本知識の継承がうまくいってない事例も耳にします。と書くと、ゲーム開発者でない人間がまたぞろ「ゲームデザイン学が……」などと言い出しかねませんが、従来感性でやっていた部分を合理化しようという話ではなく、それ以前の問題なのです。
事はもっと単純かつ深刻で、「誰がやってもあんまり変わらない部分」がきちんと伝達されていないケースが多いようです。
- 各チームで使用するCGツールの種類がバラバラ。
- 効率的な作業法やデータの管理の方法が異なる。
- 開発用語の微妙な方言。
- プログラミングにおける注意事項や、リスク回避のコーディングが浸透していない。
- 技術情報がまるで共有化されないし、ドキュメントも無い。
- ビルド周りの環境に落差がある。
- 処理速度やメモリの最適化のノウハウがシェアできてない。
- プロジェクトのホームページおよびドキュメント管理、デバッグ管理に差がある。
- 事後反省がなされない。やっても愚痴と批判の応酬になったり、蓄積されなかったりする。
- :
- :
学問的な志としては、ゲーム開発において感性や才能に依存した部分を解体し、汎用化し、プロセス化(マニュアル化)したいという欲望があるのかもしれませんが、じつは現場に最も不足しているのは、「誰がやってもあんまり変わらない部分」のプロセス化と共有化なんじゃないかと思います。
つまり学問的には、ドキュメント化しにくい部分をドキュメント化しやすくするために、理論と用語を整備しましょう、というのが第一歩になりがちなのですが、現場的に必要性が高いのは、ドキュメント化できる/しやすい部分をまずはきちんとドキュメント化しましょうよ、という事です。
■開発戦略とモチベーションの維持
ゲーム会社の存在意義
モチベーションの維持は非常に重要な課題で、ゲームのマボロシのあれれさんの記事は、ゲーム会社のマネージャー向けの、興味深い問題提起です。ゲーム業界は他業種に比べて、ユーザーの声が大きく、伝統的にユーザー志向の強い産業ですが、制作者の「作りたいもの」とユーザーの「欲しいもの」が乖離している、という指摘は説得力があります。
経営側は開発側よりも先に市場に反応しますから、開発側に「作りたくないもの」を押しつける事があり、去年表出した「脳トレクローンなんて作りたくないけど、会社が作れって言うんだよ」問題が思い出されます。開発側からは「ブームなんてすぐに終わる」「脳トレクローンなんて売れないよ」という抵抗が出てくることもありましたが、50万本出荷した『漢検DS』を筆頭にサードパーティの実用ソフトの売れ行きが堅調なため、任天堂の実用ゲームしか売れないという主張は瓦解し、経営サイドが自信を深める材料がむしろ揃いつつあります。
ややバブリーに展開してきているので、さほど長くは持たないかもしれませんが、弾けるまでの儲けられる間に儲けたいのが経営サイドの欲望でしょう。1、2年の間は、この路線の案件は増えるでしょう。
開発技術のキャッチアップにしても、「キャハ。キバっちゃっても、どうせショボグラはショボグラだろ。スクウェア以外ほしくねーよ、ぶははは」という辺りが、ユーザーサイドからの残酷な本音でしょう。開発サイドの強迫観念に報いるほどのリターンはどこにも無いのが実情でしょう。無論、スクウェアやカプコンなどは高い開発力を維持する努力に、リターンが得られます。ユーザーの使える時間が減っているなか、全体として「選別」が進んでいます。いまだに筋の悪い路線に、多大な労力が無駄に突っ込まれている感はあります。
■日本のゲーム業界は復調しているはずだが……
2006年の国内ゲーム市場は97年の記録を追い抜き、史上最高の規模に成長しました。E3縮小を受け、ゲームショウも4日間に増え、日本のゲーム業界は衰退どころか再び絶頂期を迎えつつあります。
任天堂のひとり勝ちと言われつつも、スクウェアエニックスは大幅に利益拡大し、カプコンも北米市場で大成功をおさめています。ハドソン、イマジニアなど、小回り重視で儲けている会社もあり、各社の業績は上向いていて、悪い材料は少ないです。据置ゲーム市場の縮小のあおりで、ロスが生じている企業はあるものの、来期には路線転換の効果が現れてくるはず。2003年頃の停滞期に比べれば、明るい材料が多いです。
しかしモチベーションに関連して、最近「うつ」の話を耳にする事が増えました。ボク自身はあまり縁のない(少なくとも実感のない)ものなので、身近な所でどれぐらい深刻なのかはじつは把握できてはいないのですが、ここ数ヶ月、同業他社の人たちから「うつ」についての話が出てくる事があり、なんとなく頭に残った状態で本屋に行くと、割と目立つところに「うつ」本が置かれているのを見ると、流行ってるのかなあ……などと思うのですが、サンプリング数が少なすぎて、全体の傾向としてどうなのかはちょっとわかりません。
今年一年の様子を見てみないと、何とも言えませんが。
とはいえ、好景気のほうが仕事の量は増えるから、労働負荷という点では、じつは増加傾向にあるのです。また市場の変化が急激なため、多くのゲーム開発者に考え方の転換が求められていて、大きな負荷になっている可能性はあります。数字を達成するために各企業でストレスが生じているのでしょうかね?
ある種の有能さが従来の路線への最適化によるものだとするなら、有能な人物に限って、変化への対応が遅れ、心理的なストレスも抱えこむという、嫌な事態を招いているのでしょうか?
してみると、昨年末あたりからネット上において、マネージメントについての議論、論考が増えつつあるのも、潜在的なニーズが高まっているからかもしれません。
以上、まとまりの無いトピックを飛び飛びに書きましたが、今後ぽつぽつと関連する話題を書いていこうかなと思っています。
(センシティブな話題なので、コメントの際に「管理者にだけ表示を許可する」を使っていただいても結構です。これをチェックして投稿すると、管理人のボクにしか読めませんし、ボクでも公開は不可能です。オフレコ専用機能ですね。)
スポンサーサイト